tsuzuketainekosanの日記

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1が付く日の読書感想文~『11文字の檻 青崎有吾短編集成』

『地雷グリコ』にて1週間で、第24回本格ミステリ大賞と第77回日本推理作家協会賞と第37回山本周五郎賞を受賞された作家さんでございます。

凄いな。凄いわ。

青崎さんのことを記事でとりあげる際、割と『今、勢いのある作家さんのおひとり』と言う言葉を多用していたような気がするのですが。

間違いないわ。

ってか『今、最も勢いのある作家さん』と断言してしまっても間違いないわ。

そしてこの先も、その勢いが衰えることはない。もっともっと加速していくことが期待できる作家さんでもないでしょうか。

 

いやいや、本当におめでとうございます。

 

てなことで、本日は31日。5月も今日で終わり。

早っ!

本日、感想をお送りするのが『11文字の檻 青崎有吾短編集成』、作者は作品のタイトルにも入っていますね、1週間で3つの賞を受賞された青崎有吾さんです。

 

『体育館の殺人』で鮎川哲也章賞を受賞以降、刊行のペースは決して早くはないものの、上質かつエンタメ作品としての面白みにも満ち満ちた本格ミステリを発表され続けている作家さんでいらっしゃいます。去年の夏クールに放送された『アンデッドガール・マーダーファルス』の作者も青崎さんです。

 

で、本作品はそのタイトル通り、青崎さんが発表された短編がまとめられた短編集です。ただし表題作にもなっている『11文字の檻』は文庫化に際しての書き下ろしです。様々な魅力に溢れた作品が収録されており、個人的には『本格ミステリーは勿論だけど、青崎さんの作品のジャンルレスな面白さ。それがぎゅぎゅっと詰め込まれたような1冊だよ!』と紹介したくなるような1冊でございました。

中でも『11文字の檻』と『恋澤姉妹』には圧倒されしかなかった、と言う感じなのですが、そちらも含めて1作ずつ、感想を書いていきたいと思います。

 

・『加速していく』

・・・現実に起きたある事故、事件が登場しています。私もこの事故のことはよく覚えていますが、その当時の緊迫感、実体が明らかになっていくにつれての言い知れぬ絶望感、『とんでもないことが起きてしまった』と言う信じられないような思いを呼び起こすような、リアリティ、臨場感に満ちた作品でした。

当たり前だけれど、どんな事件にも『当事者』と呼ばれる人たちがいる。でもきっと、たとえ『当事者』ではなくても、その事件の裏側にはたくさんの人たちの、それぞれの物語がある。語られないままの、いくつもの物語がある。

タイトル通り『加速していく』一方の世の中の流れ。その中では確かにそうした物語は置き去りにされ、忘れ去られていくのかもしれない。

それでも決してそれらはそうなってはいけない。報道に携わる者としての主人公の、そんな熱い思い。

そしてそれに触れた高校生の思い。どうしようもない思い。

その2人の物語、この事故、事件が起きてしまったが故に交わることなったのであろう2人の物語。それが繊細ながらも、決して甘くはない、それでも確かな熱量を感じさせる筆致で描かれているからこそ、胸をぎゅっ、と締め付けるのです。

 

・『噤々森の硝子屋敷』

・・・全面ガラス張りの屋敷で起きた殺人。不可解な状況で起きたその事件の顛末が描かれている作品です。

あとがきで青崎さんも述べていらっしゃいましたが。この建築家と探偵が登場するミステリー作品、シリーズ化されて欲しい!

改めて青崎さんの作品におけるキャラクターの魅力。小説や漫画、アニメなども好んでいらっしゃる青崎さんだからこその、キャラクター造形のうまさみたいなもの。それを改めて感じさせられたような、探偵・薄気味良悪と助手・遊山遊鶴の存在感、魅力だったなぁ。

館シリーズ』で知られる綾辻行人さん、そのデビュー作である『十角館の殺人』刊行30周年を記念して発売された館もの縛りのアンソロジー。その中に収録された本編は、そんな探偵の魅力は勿論のこと、『全面ガラス張り。なのに犯人の姿は確認できなかった。一体、犯人はどこから姿を現し、どうやって犯行を行い、そしてどこに姿を消したのか』と言う謎が解明されていく、そのロジックの展開が実に読んでいて快感。

ひとつ、ひとつの謎が解明されるたび『あぁ、確かにな』『成程。ぐうの音も出てこんわ』と呟くしかなく・・・最後の最後に残された謎。その答えを宣言するような薄気味の台詞で物語が幕を閉じているのも、実に切れ味が鋭くて最高の一言。

最後に残された謎。その答えを探偵がびしっ、と改名した台詞で物語が終わると言うの、青崎さんの他の作品でも見られたように記憶しているのですか、良いですね。ものすごく、小説なのに視覚的にも効果的な演出だと感じます。

 

・『前髪は空を向いている』

・・・アニメ化もされた『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』の公式二次創作アンソロジーに収録されていた作品です。なのでこの作品のことを知っていた方が楽しめるのは確かかと思います。

が、『アニメは見てたけど、それ以降の展開とかは全く知らないなぁ~』と言う私でも楽しめたのも事実です。

ってかそうなのか。この作品、現在はアニメで描かれていたのとはだいぶ違う感じの作風になっているんですね。

女子高生の友情。そこに存在する、いろーんな感情の機微。それらが実に『わたモテ』と言う作品に沿った筆致で描かれているのではないかな。そんな印象を受けました。

かつて男子高校生だった方が、この作品を読まれてどう思われるのかはわからない。が、かつて確かに女子高生だった私は、この作品で時に大胆に、時に密やかに描かれている甘い毒のような感情には『あぁっ』と崩れ落ちそうになるくらいのわかりみしかなかったです。

・・・そうか。今の『わたモテ』を読んでいない、知らない私ですら、こんなにも楽しく読め、胸を締め付けられるような思いを抱けたんだ。きっと今の『わたモテ』を読んでいる、知ってらっしゃる方なら、やはりより一層の面白み、感情の揺さぶりがあることだろうなぁ。それを思うと今更ながら、少し悔しさがこみ上げてきました(笑)

 

・『your name』『飽くまで』

・・・『your name』は3ページ、そして『飽くまで』は6ページの作品です。ただしどちらも、何と言うか『理に適っている』と言うのをまざまざと見せつけるような物語になっているのが凄い。

『your name』は収録されていた短編集で読んでいたので結末は知っていた。にもかかわらずやっぱり『にやり』としてしまったし。

『飽くまで』に関しては、実に皮肉のきいた、でも『そりゃそうだけよな。この作品の主人公なら、こうなっちゃうよな。こうなるのが自然、理に適っているんだよな』と思わせるような結末がたまらないの一言。

極めて短い物語だからこその、青崎さんのストーリーテラーっぷりが冴えわたっている、そんな2作品だと思いました。

 

・『クレープまでは終わらせない』

・・・謎の存在『外蟲』、その戦闘に活躍するロボットの清掃を仕事としている少女たちの物語です。

本作品もまた1作の短編、それだけに留めておくにはあまりにも勿体なさすぎる世界観、設定、登場人物なのですよ。これもどどーんと1つの作品として刊行されて欲しいなぁ。

いつ死ぬかもしれない時間の中。一寸先すら見通せない時間の中。そこにある絶望感にももはや慣れ切ったふうに感じられる少女と、その少女の言葉に何も返せない少女と。

それでも少女が少女に寄せる熱い、熱い思い。そして少しだけ先を信じてみたいと言う切実な思いが胸を貫くような。でもその思いの、願いの象徴のような存在がクレープと言うのが、またこれ、実にアンバランスで。でも少女たちが主人公だからこその『ドンピシャっ!』と拍手したくなるような感じがあるのも最高。

食事系クレープもあるけれど、やっぱり個人的には、甘い、甘い、とびきりに甘いクレープを、この2人には頬張っていて欲しい。そしてその甘さに1人はにっこりと笑って、1人は顔を顰めて。その2人の視線が交わった瞬間に、彼女たちの『世界』の終わりが来れば、それはどれだけ幸せなことだろうかと言う妄想が膨らんで膨らんで仕方ないよ!

 

・『恋澤姉妹』

・・・制作、ボンズでアニメ化して欲しい。百合小説アンソロジーに収録された作品です。なので百合作品です。そして今のところ『私が思う『百合作品』の魅力、それが余すことなく詰め込まれている作品No.1』に一躍、躍り出た作品です。傑作その1。

観測不能な恋澤姉妹。その殺し屋に命を奪われたと思しき師匠、除夜子。その足取りを追いかけるように、芹は恋澤姉妹の観測を続けるのだか、と言うお話です。

 

225ページの5行目から始まる文章。いよいよ恋澤姉妹との対峙を前にしたシーンで描かれている、その文章。皆が恋澤姉妹に心惹かれてやまない理由、それが滔々と語るかのようにして綴られているその文章。

それがもう、私が求める百合作品における毒。それを表現しているかのように思えて、ただただうっとりするばかりなのでした。

毒。甘い毒。危険だとわかっているのに、厄介だとわかっているのに。辛いと、苦しいと、しんどいとわかっているのに手を伸ばさずにはいられない毒。ひりひりするような緊迫感に満ちた毒。

百合作品だからこその毒。甘い、甘い毒。

 

関係性萌えと言うか。キャラとキャラの関係性、そこにどうしようもなく想像、妄想をたぎらせてしまう、そして語りたくなってしまう。

青崎さんご自身も『自分もそうだ』とおっしゃっていますが、だからこその、ポイントを巧みに突くかのような恋澤姉妹の造形。そしてその見せ方のうまさにただただ翻弄されるような。そしてそれと同時に語られる芹と除夜子の関係性。恋澤姉妹になり切れなかった2人の関係性の切なさも、もう『たまんないな、これ』の一言。

 

何よりもその芹と恋澤姉妹の戦闘シーンが凄まじく素晴らしく圧巻。暴力と血と痛みと苦しみと絶望にまみれているのに、どうしてこうも美しさを感じずにはいられないのか。

そしてその中で芹の中に芽生えていく感情。圧倒的に満たされた圧倒的な敗北感も、もうこれ、読んでいてひたすらにわかる気しかしなかったです。

陶酔。あの瞬間、読者は皆、芹になって恋澤姉妹のすべてに打ちのめされ、心惹かれ、どうしようもない憧憬に胸を焦がされるような陶酔を味わうのだと思う。

こんなにもたくさんの人間がいて、こんなにもたくさんの人生がある『世界』の中で。

それでも徹頭徹尾『2人だけ』でいる、その恋澤姉妹に対しての満足感と憧憬と敗北。

それに打ちのめされる陶酔。あぁ、たまらんな。

 

キャラクターの関係性を語るのが大好きな青崎さんが『自制の物語でもある』とあとがきで語られている本作品。

観測不能、生きる都市伝説である存在だからこそ、数多の人間の目を、言葉を惹きつけてやまない恋澤姉妹。

ただひとつ。彼女たちがそれを心底、忌み、嫌い、憎み怒りを覚えているのだと。それだけは確かで、それだけが確かなのだと思い知らされるような。

そしてすべての『キャラクター関係性語りが大好きな人』の喉元に突きつけてくるようなラストの一言が、実に痛快極まりない。

極上の百合作品にして極上のアクション作品。最高。

 

・『11文字の檻』

・・・書き下ろし作品。全体主義国家の言論統制に触れ、奇妙な刑務所に囚われることになった縋田。その刑務所を脱出するための方法はただひとつ。国家、政府に恒久的な利益をもたらす11文字の文章、それを当てること。かくして縋田は同室に収容されている男、飛井と共に絶望的なパスワード当てに挑むことになる、と言う作品です。

 

『書き下ろしの表題作に頭ぶち抜かれた』は阿津川辰海さん。『圧巻はやはり表題作。傑作』は大山誠一郎さん。そして『めちゃくちゃよかった。表題作がすごい迫力』は似鳥鶏さんの言葉。文庫の帯に書かれている各作家さんの感想の言葉、それらにまさしく『本当に!その通り!』と全力で首肯を繰り返したくなるような、本当に圧巻で迫力に満ち満ちた、凄まじい作品でした。傑作以外の何物でもない。

『恋澤姉妹』も傑作だったけれど、それとはまた違った方向での、まさしく『本格ミステリー作家、青崎有吾』としての力量をまざまざと見せつけてくれた、もはや化け物のような作品です。

 

ぼんやりとした、実に抽象的すぎるヒントはあるものの、逆を言えばそれしかない。それだけを頼りに、11文字の文章を、一言一句間違うことなく当てなければならない。漢字、ひらがな、カタカナの組み合わせだけで、作中でも飛井が計算しているのですがゆうに百億は超えるそうです。

その中からたった1つの正解を導き出さなければならない。そうしなければこの牢獄から出ることは叶わない。

しかも解答できる権利は1日たったの1回。

 

絶望以外の何物でもないでしょう。どうあがいても不可能です。

一方で刑務所の外、本土には戦火が迫ってきている。

刑務所内の生活は、確かに自由とは程遠い。部屋も狭い。しかし衣食住は少なくとも保証されているし『何もすることがない』と言うことに慣れさえすれば。途方もない条件を前にして『正解にたどり着き再度、自由な生活に戻る』と言う幻想を捨てきれさえすれば。ただただ緩やかに死に近づいていっているだけだと思えば、これほど安心で安全な生活もないわけです。

現に作中には、既に外に出ることを諦めた者も登場します。あるいは絶望的な日々に耐え切れず精神を病み、自ら命を絶つ者も。あるいは同居人に命を奪われる者、同居人の命を奪う者も登場します。

 

何度も言うようですが、考えれば考えるほどに絶望がこみあげてくる。

いっそ気が狂った方がマシだと思えるほどの絶望がこみあげてくるような、じわり、じわりと真綿で首を絞められているかのような絶望がこみあげてくるような話なのです。

 

でも縋田は諦めないのです。勿論、諦めそうになる。絶望に駆られ気が狂いそうにもなる。不正解が続く現実に打ちのめされ虚しさに打ちのめされることもあるんです。

それでも彼は諦めない。ひとつひとつ、まさしく『しらみつぶし』と言う表現がびったりな、実に地道な手段をいくつも、いくつも試しながら、あらゆる可能性を試しながら、選択肢を狭めていき、正解へと近づいていくのです。

その様子が、もう本当に『圧巻』なんです。そしてまさしく本格ミステリー、ロジックの構築、展開、その魅力を余すことなく描き切っていて、読み応えが半端ないことこの上ない。

『面白い』と言う感想をもはや飛び越えて『いや、青崎さんの頭脳、どうなってんの?』と私はただただ驚嘆するしかありませんでした。

 

縋田と縋田たちを刑務所に収監した存在。あるいは収監されている人間を監視し、管理している存在。その両者の息が詰まるような頭脳戦。そこに張り詰めた今にも弾けそうな緊迫感がたまらない作品である一方、先程も書きましたが縋田と同じように、刑務所に収容されている男たちの人生が描かれているのも熱い。

その中でも特に縋田と同室になった飛井。この飛井と言う男が、また実に良いキャラクターなんですよ。縋田にとっての幸運は、間違いなく、この飛井が同室の相手であったことだと断言できるくらいに、人間味に溢れた男。そして縋田と同じ熱さを隠し持っている男。

絶望と緊迫感しかないような日々なのに、否、だからこそ。それらから目を背けるようにしてスーパーボールキャッチボールに興じたり、くっだらない話に興じたりする2人の姿には微笑ましさすら感じたほどです。

そんな飛井の過去を聞いて、縋田が監視カメラを見、その向こう側のすべてにまなざしをぶつけることで、この状況を作り出しているすべてに対して宣戦布告をしたシーンは身震いするほどでした。

縋田が諦めなかったのも、やっぱり、同室がこの飛井であったからだと、私は思うんだよなぁ。勿論、それだけではないだろうけれど。でも、その部分はとても大きいと思う。

 

絶望的な戦いは、思わぬ結末を迎えるのですが。

そこには縋田の職業が深く、深く関係しています。これもまた、めちゃくちゃ胸を熱くさせられました。そしてまたそこには、私は、青崎さんの作家としての願いと言うか。作家としての本望のようなものが込められているのではないかなぁ、とも感じました。

毒にも薬にもならない話なんてない。思考をやめない者だけが生き残るのだとすれば、人が作り出した話は、毒にも薬にもなり、どこまでもどこまでも思考をやめない者の思考を刺激し続ける。そしてその者は、どこまでもどこまでも生き続ける。

圧倒的な権力を前にしてもなお、秘かに、鈍く輝き続けるその、人としての証のようなもの。あるいは話、物語の力の偉大さ。

それが圧倒的な解放感を伴って、熱く、静かに胸へとしみ込んでくるようなラストも、もうただただ言葉を失うばかりです。

 

この短編集。本当のどの作品も『作家・青崎有吾』としての魅力を堪能できる、実にバラエティ豊かで面白いと断言できるのですが。

それでも私はやはり、やはり『氏の作家としての魅力は勿論のこと、ミステリー作家としての凄さに、その研ぎ澄まされたロジックの展開に、圧倒的に打ちのめされたいならこの作品読んで!マジで読んで!』と声を大にして言いたいのです。

それでいてしっかり、登場人物たちの熱い、熱い人間ドラマが描かれているのも、もう最高オブ最高なのよ。

 

はい。そんなこんなで本日は青崎有吾さんの短編集『11文字の檻 青崎有吾短編集成』の感想をお送りいたしました。

『アンデッドガール・マーダーファルス』で青崎さんのことを初めて知ったよ、と言う方は勿論のこと。『とにかく読み応えのある、面白い小説を探している!』と言う方にもおススメしたい1冊です。

とりあえず皆さん、頼むから『恋澤姉妹』と『11文字の檻』、読んでくれ!

頼むから!

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました。