昨日、YouTubeの画面を開いたら『阪神タイガース』『アイマス』『BL』『声優さん』関連の動画サムネの中に、何故か『イオンの生鮮大市』のCM動画のサムネがあがってきていました。
『何故・・・何故・・・』の思いであまりにも不思議だったので開いてみたら。
ナレーションが杉田智和さんでした。凄い!
色んなトーンのお声、読み方で杉田さんがお魚やお肉、お野菜を紹介されているこちらの動画にある『イオンの生鮮大市』、6月は7日から9日まで開催されるそうです。
何この、イオンの回し者みたいな感じ(笑)
てなことで21日です。1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。
本日、感想をお送りするのは『比嘉姉妹シリーズ』でおなじみ、澤村伊智さんの新刊『斬首の森』でございます。
こちらは『比嘉姉妹シリーズ』ではありません。
『斬首の森』
澤村さんの新刊がこのようなタイトルだと初めて知った時には『わぁ、なんて物騒なの!』と胸がわくわくしちゃいましたよね。ふふふふふ。
で、実際に本が届いたら、もう表紙が実に禍々しいデザインと言うか。なんかもう『うわぁ、絶対、この本の登場人物にはなりたくないね!』と本能的に思わせるようなデザインで、また私、にやにやしてしまったのでした。ふふふふふ。
ではでは。まずは作品の概要です。
作品はフリーの記者である小田が、ある女性に取材を開始するところから始まります。女性の名前は水野鮎実。カルト宗教のような洗脳を強制する企業団体『T』、その研修に彼女は参加していたのです。
小田を前に水野は、こう切り出します。
『人を殺しました』と。
そうして水野が話し始めたのは『T』内部で行われてる、おぞましい暴力と洗脳。その中で起きた火事をきっかけに、彼女が他の人間たちと共に『T』の施設から脱出したと言う出来事でした。
逃げ出したのは彼女を含めて男女5人。どうにか町へと逃げようとする5人は、しかし、明らかに自分たち以外の気配が存在する森の中で迷ってしまいます。
疲労感もあり、夜が明けるのを待つことにした5人。ですが翌朝、その内の1人の切断された頭部が、奇怪な状況の中で発見されます。
犯人は生き残った4人の内の誰かのなのか。それとも森の中、4人を追い詰めるようにして存在する『何者』なのか。
疑心暗鬼と疲労感の中、それでも水野たちは必死に森からの脱出を試みるのですが、と言うのが簡単なあらすじです。
怖かった(端的)
いや、澤村さんの作品は『比嘉姉妹シリーズ』をはじめとしてたくさん読んでいます。
で、とにかくどの作品においても澤村さんの描写力、人間の感情のそれにしてもそうだし、登場人物たちが置かれている状況、あるいはそこに存在する気配のそれも、もう凄まじいんですよ。本当に臨場感があって、読んでいるこちらがその場にいるかのような錯覚に陥るほどなんです。
だから『比嘉姉妹シリーズ』でも結構、『怖い。夜中、1人でトイレに行けない。ちびっちゃう』と心底、思わされることもあって。
いや、ほんとに。
マジで夜中、トイレに行った時に、暗闇の中で『ずうのめ人形』とか『すみせごの贄』と言った作品を思い出した時の『ひぃっ!』と言う感覚ったらですよ(笑)
そんな澤村さんの描写力に慣れている私ですら、この作品の舞台である森。そこに漂う、明らかに人間ならざる『何か』の気配、雰囲気は、ただひたすらに『怖い』の一言でした。
やっぱり自分も、水野たちとこの森を抜けだそうと、必死になって走っている、歩いている。でも疲労感は凄まじいし飢えも凄い。おまけに暗闇の中、何かがこちらを見ているような気配がたまらなく怖いし不気味だし気持ち悪い。
読んでいる間、ずっと登場人物たちと共にそんな感覚を味わわされているようで『ヤダ、ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ。早く町にたどり着きたい!明かりが欲しい!』と心の底から願う私がいたと言う。
ごめん。『『斬首の森』ってタイトル、最高よね!』とか、不謹慎にも胸をわくわくさせていた私をぶん殴ってやりたい勢いで怖かったです。
無理。絶対こんな森、無理。
凄まじいまでの描写力で物語の世界が、そしてそこに生きる登場人物たちの心情が描かれている、紡がれ構築されている。
だからより一層の没入感があって、それにより、ただでさえ面白い作品が、よりその面白さを増す。ぐんぐんと迫ってくるように、飲み込むようにしてこちらに襲い掛かってくる。
そんな澤村さんの作品の魅力は勿論、今作品でも炸裂しておりまして。
『怖い、嫌だ。でも面白い!んはぁ!頭部切断死体が出てきちゃったよ!怖い!嫌だ!でも誰?犯人は誰!人間?それとも森の中にいる『何か』?気になる!』と、ページをめくる指を止めるのが難しかったと言う。
で。
この頭部切断死体の犯人、と言うか謎と言うか。真意と言ってもいいかもしれない。
それに関するヒントは中盤過ぎたあたり、水野たちがいた『T』、その団体の人間である天本と続木、この2人の会話によって少しずつ明らかにされていきます。
なので中盤からはこの2人の会話によって少しずつヒントが出てくる→水野たちの逃亡、その中で起きる出来事→天本と続木の会話と言う感じで物語は進んでいきます。
この構成が、またうまいんですよ。読ませるんですよ。
ヒントが少しだけ明かされる。でもそれは謎を解くには少しばかり足りない。
その足りない部分に関する推測を、水野たちも繰り広げていく。
そして水野たちが繰り広げた推測に対して、まるで正解か、不正解かの判断を下すかのようにして、天本と続木の会話が挟まれる。
ミステリとしての読ませ方と言うか、最もの盛り上がりである謎解き。そのクライマックスに至るまでの盛り上げ方として、こちらを焦らすかのようなその構成には『はやく・・・早く答えを教えておくれよおぉぉぉぉぉぉ!』と何度、ページを飛ばして読んでしまおうとしたことか(笑)
『比嘉姉妹シリーズ』が特にそうなのですが。澤村さんの作品の大きな特徴として『ミステリーとホラーの融合』が挙げられると思います。
ミステリーとしての謎解き、それがしっかりと筋が通っている、あるいは騙しが炸裂していながらも、しかしそこに、決して言葉や常識と言ったものでは解決できないもの、恐ろしいものの存在が、力が絡んでいる。
ミステリーでありホラーでもありホラーでもありミステリーでもある。
その両者の力加減が絶妙であるが故の面白さは『澤村さんの作品だからこそだよなぁ』と私は思うのです。
結論から、ネタバレにならない程度に言いますと。
この作品もまた、そんな澤村さんの作品だからこその魅力を、私はとても強く感じました。
残虐な殺人を行った、その犯人は誰なのか。
そして何故、犯人は、わざわざ頭部を切断したのか。
水野たちが絶望的な逃亡の中に見た『何か』の正体は何なのか。
それらが息づく『この森』の正体は何なのか。
水野パートと天本、続木の会話パートが交差して、いくつもの謎が明らかになった時の『あぁ!そう言うことだったのね!』と言う快感と言ったら。
物語の中、ごく自然に、何気なく描かれていたいくつもの描写も伏線だった。それももう『お見事!やられた!』の一言なのです。
でも物語は当然『謎が解けて、はい、終わり』では済みません。
ええ、済みませんとも。
ある意味、そこからが本番です。
地獄絵図です。
それまでも大概、地獄絵図だったのに。おっふ。
ところでこの作品は概要でも書きましたが自己啓発と見せかけて、暴力による洗脳を行っている『T』と言う団体が登場します。
『T』の本当の目的は何か、と言うのも勿論、作中では明かされています。
森の中をさまようことになる登場人物も、この施設から逃げ出してきた人間たちです。
彼ら、彼女たちは皆、自分の人生にやり場のない絶望感であったり虚しさであったり。あるいはうまく行かないことに対しての強い怒りであったり、現状を何とか打破したいと言う強い思いを抱いています。抱いてはいるのですが、その末にたどり着いたのが『T』のような施設であったので、より一層の疲弊感、絶望感を募らせていると言った感じです。
勿論、主人公である水野もそのひとりです。
で、私がやはり構成として、物語の展開として、見せ方として『うまいよなぁ~』と思ったのがですね。
『T』の施設から逃げ出せたのに、それでも絶望的な状況はまだ続いていた。相変わらず優柔不断でどうしようもない水野と言う女性が、しかし次々と襲い来る絶望的かつ不可解な状況、その果てに明かされた真実を知った時にひとつの決断を下すのです。
そしてその決断には、勿論『このままでは終われない。死にたくない。怖い』と言う思いがあったのは間違いないと思うのですが、それ以上に、ある人たちの存在が大きく関係しているんです。
で、その人たちと言うのは、優柔不断で常に他人の顔色を窺ってありきたりな言葉しか口にできないような、彼女自身も辟易しているような水野が助けた、助けたと言うか、そんな彼女だから故に親切にした人たちなんですね。
『T』で洗脳を受けたにもかかわらず、幸か不幸か、それでも変われなかった水野。
絶望と恐怖に彩られた逃亡劇でも、やっぱり変われなかった水野。
その彼女が、最後の最後に凄まじい変貌を見せる。凄まじい決断をする。
彼女自身の思いに従って。
そして彼女自身はそんなつもりはなかったのだろうけれど、それでも確かに、彼女が親切にした人たちの存在、その行為によって。
凄まじい変貌を見せる。凄まじい決断を下す。
ここがもう最高に熱かったし、強要された洗脳でも変われなかった1人の人間が、最後の最後に、本能的な恐怖と生への渇望。そして自分を確かに助けてくれた人たち(まぁ、厳密に言うともはや『人』ではないんですけどね(遠い目))に背中を押される、否、もはや蹴飛ばされるような勢いで変わる。
それが『T』に対してのものすごい皮肉のようにも思えて最高なのでした。
熱かった。
読んでいてずっとその言動、挙動、考え方には共感しかなくて、だからこそ時に苛立ちすら感じた水野の姿が、この瞬間、めちゃくちゃ輝いて見えた。
見えたんですけど。
まぁ、ネタバレ覚悟で言うと、水野覚醒のお陰で小田は、く(以下自粛)
本作品。
プロローグとエピローグがほぼ同一の内容なんです。
でも当たり前なんですけど、本編を読む前に読むプロローグと、本編を読んだ、全てを知った後に読むエピローグでは、もう全然、伝わってくるものも、そこから感じる空気みたいなものも。はたまた、それを通してこの目に映る光景も異なっているんです。
それももう、最高オブ最高。
個人的にエピローグ、全てを知り、水野の覚醒、変貌を見届けた果てに胸に浮かんできたのは『解放』と『無限の安寧』と言う言葉でした。
はい。
そんなこんなで本日は澤村伊智さんの『斬首の森』の感想をお送りいたしました。
こちらでは本編の始まりを読むことができますので、よろしければどうぞ。
ただしプロローグにあたる部分に関してはこちらに掲載されているもの、すなわち雑誌掲載時のものと、単行本に掲載されているものとでは内容が異なります。
個人的にはこちらはこちらで哲学的な色合いがあって、でも作品を読み終えた今なら『あぁ、成程』とできるような、作品の核心に触れているような感じもあって素敵だなぁ、と思うのですが。
でもやっぱり単行本の内容の方が、心の安らぎみたいなのが感じられて。そしてだからこその、その裏側にある血みどろの真実(おっふ)が際立ってくるような、静かな不気味さがあるように感じられて、私は好きです。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました。