tsuzuketainekosanの日記

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読書感想文の日。『十戒』の感想~ネタバレはなし!ただし匂わせはあり

今日から3勤だよ。ぼちぼちやっつけてくるよ~。

てなことで1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。

本日、感想をお送りするのは夕木春央さんの『十戒』です。

夕木さんと言えば去年、刊行された『方舟』が大きな話題となった、今、注目の若手ミステリー作家さんでございます。

 

いろいろ語りたいのですが感想文がどう考えても長くなりそうなので、さっさと本題に入りましょう。

が、その前にひとつ前置きを。

タイトルにも書きましたが、直接的なネタバレは、今回の記事ではしていません。ただし読まれる方が読まれたら『あ、それってもしかして』と作品の真相。犯人であったりトリックであったり、そうした部分に気が付かれる可能性がある、匂わせ的な感想は、申し訳ないですが最小限、書いています。

なので『それは絶対、イヤ!』と言う方は、今すぐ画面を閉じていただくようお願いいたします。

 

ってか悪いことは言わない。『十戒』未読の方は、余計な前情報など知らないまま、今すぐに本作品を読んだ方が良い。悪いことは言わないから。頼む(土下座)

 

ではでは。まずは本作品のあらすじです。

伯父が所有していた枝内島。そこに浪人中の主人公、里英は父、そして島内にリゾート施設を開業する計画を持った関係者たちと共に訪れた。

そこで面々は、自分たちよりも前に、何者かが島に足を踏み入れていた形跡、更には爆弾を発見する。それを訝り不安がる一行だったが、ひとまずは予定通りに島で一夜を過ごすことに。ところがその翌朝、不動産業者の1人が、明らかな他殺体となって発見される。そして十の戒律が書かれた紙片が落ちており・・・と言う内容です。

 

『方舟』もそうでしたが、今回の舞台設定も絶望的なクローズドサークルです。しかしですね。『方舟』のような目に見えて絶望的なクローズドサークルと言うよりは、心理的な圧、それが強く迫ってくるようなクローズドサークルなのです。

その肝となるのが、あらすじでも紹介いたしましたが第1の殺人事件、その発覚と同時に発見された紙片。そこに書かれていた十戒です。

 

簡単にそこに書かれていた内容をまとめるとですね。

『島の外に出ようとしちゃダメ。スマホは没収。ただし島外の人間に怪しまれないよう、帰宅が遅れる旨のみ連絡しても良いよ。でもそれも皆のいる前でね。そして複数の人間が30分以上、同じ場所にいるのは禁止。カメラやレコーダーを使って、島内で起きたことを記録しようとしたり、ましてや殺人犯が誰なのかを、追及、告発しようと試みた場合には、お前らも見たと思うけど、島内に仕掛けられていた爆弾、あれが爆発するよ!お前らの命の保証はないからね、はは!』と言った内容です。

更に事件が起きるたび、様々な指示が犯人から生存者には命じられていきます。勿論、それに従わなかった場合、あるいはそれが犯人の意にそぐわなかった場合も『爆弾、爆発させるからな!』です。

 

鬼か(笑)

ミステリーなのに推理が禁じられている。探偵の存在意義が発揮されない。そんな設定を持ち出してきたことに、私は心底、驚嘆の念を禁じ得なくてですね。

『おいおい。そんな自分で自分の首を絞めるような設定を持ち出してきて、果たして大丈夫なのかよ』と。そんなことすら思ったのですが。

ええ。勿論、余計なお世話でしたとも。ええ。

 

てなことで感想へとまいりましょう。

まずは・・・どうしようなぁ。そうですね。『探偵の存在意義』と言う言葉も持ち出したので、その辺りの感想からまいりましょうか。

以前に書いた『方舟』の感想記事。こちらですね。

tsuzuketainekosan.hatenablog.com

この記事の中で、私にとっては探偵は『神のような存在で、しかし事件が起きなければその存在価値を示すことができないわけだから、無力な存在でもある』と書きました。

そして『方舟』において探偵役を務めていた人物の姿を『事件が起きなければなにひとつ、存在価値を示すことができない。そのことを忘れて、ただ自らを全能の神だと信じて疑っていない傲慢な存在である』と表現しました。

我ながら容赦ないな、おい(笑)

 

また犯人については『悪魔』と表見したうえで、『神に、その正体を暴かれ敗北を喫したと、そのふりをしていた悪魔は、神にはない怜悧で冷静で冷徹で冷酷な狡猾さと理性をもってして勝利をおさめた』と書いています。

『方舟』においては、ミステリー小説でありながらも、神の如き振る舞いを見せた名探偵が、完膚なきまでに完全に、悪魔の如き犯人に敗北した。そこが個人的には本当に痛快だったし、強烈だったし、身悶えするほどの愉悦を私は覚えたんです。

 

じゃあ、今作はどうだったか。そもそもとして『事件の謎を解こうとしてはならない。それをしたら、お前ら全員、死ぬからな』と言う戒律の中にあっては、先程も書きましたが名探偵はその存在意義を示すことすらできないわけです。

そしてもっと言えば『おいおい。これじゃあミステリーとして進む話も進まないんじゃないの』と言う危険すらはらんでいるわけです、今回の設定は。

なので結論から言うと、この十戒の存在を念頭に置きながら、しかし事件の謎を解明しようとする人物が登場します。

そしてその人物によって、やはり圧倒的な神を思わせる、全知全能、全てを見透かしているかのような、もはや非人間的と評しても良いほどの観察力、洞察力、推察力、想像力、論理的思考力などを持ち合わせていた人物。その人物が導き出した流れによって、島内で発生した事件の謎は見事に、それは見事に、あまりに美しく完璧な形で解決されていくのです。

 

でも、そうです。作者は夕木さんです。神の如き名探偵による推理が披露された後の展開が、やはり『方舟』同様、容赦ない。

『神の如き振舞う、無力で高慢な探偵』と『神には決してない、怜悧で冷静で冷徹で冷酷な狡猾さと理性を有している悪魔』の対決で言えば、やはり今回も圧倒的に後者が勝利をおさめた、そう私は思いました。思わされました。

そして更に言えば探偵の敗北っぷり。それが考えようによっては『方舟』以上に無惨である、とも考えられる。探偵と言う存在。その存在が徹底的に蹂躙され、愚弄され、見るも惨めで酷な姿に変えられた挙句、ぽい、と道端に捨てられたかのような。

その一連の流れを目の当たりにしたような。

そんな気がして、ただただ言葉を失うばかりなのでした。

ミステリーなのにね。ミステリーなのに。そしてミステリーだからこそ。

 

ねー。何が凄いって、はい、ここ匂わせになっちゃうんですけど。

『方舟』とは異なり『神の如き振舞う、無力で傲慢な探偵』と『神には決してない、怜悧で冷静で冷徹で冷酷な狡猾さと理性を有している悪魔』、そのふたつが完全に共存する形で描かれているのが凄いのよ。

私は『方舟』『十戒』以外の夕木さんの作品は未読なので、他はどうなのか知らないのですが。

この2作品における『ミステリー作品における探偵の存在意義』、それを完膚なきまでに汚し、叩き落とすような作風。私は本当に好きだし、それこそミステリー界においても異色も異色、だからこそ心惹きつけられて止まないとすら思うのです。はい。

 

ちなみにその探偵の推理、その流れは先程も書きましたが『圧巻』の一言でした。島内で起きる3つの事件。それぞれに残されていた不可解な点。それがひとつひとつ、探偵役を務めた人物によって解明されていくのですが、それがもう読んでいてただただ『あぁ、成程。それがいちばん『そうだよな』と納得のいく答えだわな』と納得するしかないと言う感じで。

 

だからこそ、なんですね。その後の展開ですよ。

はい、ここ匂わせですよ。えー、本作品はですね。やはり『方舟』同様、主人公の一人称によって物語が進んでいきます。

ミステリーファンの方にとっては『一人称ミステリーは要注意』と言うのが、もはやお約束のようにも思うのですが・・・私だけ?

今作においてはその『一人称ミステリーは要注意』の法則が発動しています。

一人称はどうですか?その語り手にとって都合のよろしくないことは・・・あー、いけません。これ以上はいけません。

そう言うことです。この作品においても、そう言うことです。

わかる人は、これで私の言いたいことがわかると思います。はい。

 

なので『フェアじゃない!』と言う気持ちを抱かれる方がいらっしゃるだろうな、と言う気持ちはあり、その気持ちはわからなくもないです。

ただしその辺り、本編中では、そこはかとなく、それこそ匂わせ的に、『ん?なんか今の描写・・・ん?』と感じる具合で描かれているんですよね。

71ページのラスト、そして72ページの5行目とか。それ以外にも。

 

ぽんこつな私ですら『ん?』と思ったくらいですから、賢明な皆さんなら、それで大まかなところは察せられることだろうと思います。

何より『方舟』同様、夕木さんの陰鬱な筆致。陰鬱で、息苦しさすら感じさせるような筆致。その筆致によって、主人公、里英の一人称で語られていく物語。それによってただ作品を読み進めていくだけでも、何か胸がざわざわするような。事件の展開とか、そう言うのとは別のところで、何かしらの不穏さ、暗い予兆みたいなものを感じさせるような。そんな作りになっている、と私は感じました。

 

なので探偵による推理パートが終わりましたよ、から始まるラスト16ページですかね。

そこで明かされた真相、描かれていた真相も『あぁ、やっぱりな』と言う気持ちもあった。あったんですけど、あったにも関わらず279ページの8行目ですか。

そこで、さらり、と。

本当にさらり、と。その言葉をそこに置くにあたって、なにひとつ、物音などしなかっただろう、と思わせるほどの自然さ、静けさでもってして描かれていた言葉を目にした瞬間、誇張でもなくでもなく、本当に身が震えたんです。そしてぶわあぁぁぁ、って全身に鳥肌が立ったんです。

何度も言うようですが『やっぱりな』ってどこか予感していた思いすらあったのに。

否、もしかしたらあったからこそ、なのかもしれませんが。

 

そしてここからの流れが・・・あー、もう読んでいてただただ苦しかった。

苦しい。ただただ苦しい。

『方舟』の時も苦しさ、死の恐怖を突き付けられた主人公の絶望。そこから来る苦しさもあったけど、それ以上に『やーいやーい。名探偵、大敗北!痛快!』と言う思いの方が強かったんですけど(鬼か)

今回はダメだった。本当に、本当に苦しかった。

 

その理由はただひとつ。

とても彼女の姿が、思いが、他人のそれとは思えなかったから。

彼女は、私だ。

10代、あるいは20代、大学生時代の、ほとんどひきこもりのような生活を送っていた頃の。何なら今の私ですら。

私は、彼女なのだ。

 

勝手に人を好きになって。期待して。そしてがっかりすることが多い。

犯人は自らがそんな人間だと言いましたが、この言葉を目にした時、息が止まるような思いがしました。胸を強く叩かれたような衝撃すら覚えました。

私がそうだから。

 

そしてこの言葉はそのまま、彼女にも該当することなんだよな。そして多分、犯人も彼女がそんな人間であること。それくらいに孤独であったこと。思春期らしい『気遣いなんていらない。でも放っておかれるのは嫌。そして理解されたいと思っている』と言う自意識を持て余していること。そこにもがき苦しんでいること。それを見抜いていて、だからこそ、この言葉を口にしたと思うんだよ。

 

何のために?

彼女にとどめをさすために。

彼女を打ちのめすために。

そうすることで、自身の存在を彼女の中の決定的なものにするために。

既にそうなっていたにもかかわらず、そしてそれを見越していたにもかかわらず。

彼女の人生に、自分の存在を楔のごとく打ち込むために。

 

だからもう、読んでいて本当に苦しかった。

『すべて』を知った彼女自身もモノローグで思いを吐露していますが、この先、彼女がどんな人生を歩もうとも。成功に彩られた人生を、あるいは人並みの、普通の人生を歩もうとも。はたまた後悔と屈辱に満ちた人生を歩もうとも。

この事件を通して彼女が抱えてきた『すべて』と犯人によって明かされた『すべて』は必ず、必ず、日常の一瞬、一瞬でその顔を覗かせ、彼女から笑顔を奪うのだと思う。

『そんなことはないだろう』と言う楽観的な考えもできないことはないのだろうけれど、少なくとも私には、まったくそんな考えはできなかった。浮かばなかった。

 

人生を懸けて守るのが戒律。枝内島で過ごした時間、それを守り通した彼女は、この先も、その人生を懸けて戒律を守り続けるのだ。

その重荷に、暗さに潰されそうになりながらも。それでも潰されることすら許されず。

それを考えると彼女の心は、ずっとずっと枝内島に閉じ込められたままなのだ。

そしてその彼女の心が閉じ込められたままの枝内島が、物語の最後ではどうなったか。誰によって、どうされたのか。

・・・あぁ、苦しい。辛い。しんどい。

 

アマゾンに『主人公や父をあのようなキャラ付けにした意図も不明だし』と言うレビューが寄せられていましたが・・・そうか・・・。そうなのか・・・。

私としてはむしろ『主人公があのようなキャラ』でなければ、絶対にこんな結末にはならなかったと思うし、その主人公との距離感を測りかねているような父もまた、あのようなキャラでなければ、やはり結末は変わっていたと思うんだが・・・そうか・・・そう言うとらえ方をする方もいらっしゃるのか。

 

『方舟』もそうだったのですが『十戒』も、やはり、登場人物たちがどこか冷静過ぎると言うか、その描写が妙に機械的なんですよね。人間の体温、その生ぬるさをあえて拒むような描写がされている感があると言うか。

勿論、それぞれ適度に個性はあって、その関係性も描かれてはいるのですが、そこに圧倒的な濃さがないと言うか。

アマゾンのレビューでも批判が寄せられていたけれど、その辺りが気になる方は気になるだろうな、と思います。

 

ただ個人的にはですね、だからこそ、なんですよ。

『方舟』にしても本作品『十戒』にしても、ラストのラストの展開で明かされる真相。

そこで露わになる『人間の性』、そのどうしようもなさ。グロテスクさ。しかしだからこその、むしろいっそ清々しいまでの美しさを私なんかは感じてしまう、その『人間の性』が強烈に胸を暗く、強い力で打ち、穿ってくると思うのは、そしてそこがたまらない、それこそが少なくとも『方舟』『十戒』の大きな魅力のひとつであると思っているのは、私だけでしょうか?

そのためにあえて、ラストのラストまで人間描写が淡泊、どこか機械的、どこまでも抑制的である、その手法を取られているのだと、私は勝手に思っているのですが。

 

あとね・・・これはネタバレになっちゃうのかな。

犯人の最後の台詞ですよ。これも目にした時、もう『ひやぁぁぁぁぁぁ』って感じで、言葉にならない感覚が腹の底からこみあげてきました。

憎いわ~。

『方舟』を読んだ読者の方なら、犯人の最後の台詞には私同様、震えるような思いを抱かれることかと思います。

個人的にこう言う仕掛け(と言うほどのものでもないんだろうけど)、大好物です!

 

はい。そんなこんなで本日は『十戒』の感想を書いてまいりました。

やっぱり語りたいことが多すぎるので『方舟』の時同様、いつかネタバレ全開の記事を書こうと思います!

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!