tsuzuketainekosanの日記

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読書感想文をお送りします~『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』

『錆喰いビスコ』の2期決定を受けて、『電撃文庫 30th 夏の祭典オンライン』のアーカイブ配信を見たんですけど。

アニメ2期決定の発表をされた直後の、MCの三澤紗千香さんのぶっちゃけ具合が面白すぎて、涙出るくらいに笑ってた(笑)

『まさか』ですよね!私も『まさか』だと思ったよ!

いや、なんだろ。三澤さんの元気なお姿が見られて、私は安心しました。

そしてしつこいけど『錆喰いビスコ』、2期、おめでとうありがとう!

 

本題でーす。

諸事情により読書できていない日々が続いています。

人生でこんなに本を読まなかった日々があっただろうか、と言う程度には本が読めていません、本を読んでいません。こんちくしょう。

もうすぐしたら米澤穂信さんの新刊、初の警察ものミステリーが発売される予定なので、それを買おうと思います。

仕事が休みの日、2時間も3時間も昼寝している私が言うな、と突っ込まれそうですが。

圧倒的に時間が足りないです。

うぅ・・・。午前中しか働きたくない・・・。でもそうしたらお給料、少なくなっちゃうからそれはヤダ・・・働かずしてお金が欲しいです・・・うぅ・・・。

 

そんな具合で本日は、少し前に読んだ澤村伊智さんの『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』の感想をお送りいたします。

早速、簡単なあらすじを。こちらは短編集で全部で7つの物語が収録されています。いずれも登場人物などは共通しており、作品同士の繋がりもあるので連作短編集と言う扱いになるのかしら?

 

娯楽系ウェブマガジン『アウターQ』編集部。くせ者揃いの面々に混じって、本作品の主人公、湾沢陸男も新人ライターとして日々、奮闘していた。その湾沢が執筆に必要な取材の中で遭遇する数々の出来事を描いている作品です。

基本はミステリー、なんですけれどそこは作者が澤村さんです。ミステリーでありながら、同時にホラー、常識や人知では決して説明のできないホラー要素、ぞくっ、と来るような要素があるのも肝。そしてそれらを通して浮かび上がってくる登場人物たちの心情に、実に心をかき乱されると言う作品になっております。

いやぁ、やっぱり澤村さんの作品は面白い。緩急がしっかりとした構成はお見事だし、人物造詣、人物描写が実に巧み。文章も読みやすいから、本当に多くの方に知っていただきたい作家さんのおひとりなのです。

 

ではでは。全7作、あらすじと共にざっと感想を書いていきましょうか。

まずは『笑う露死獣』です。高校の先輩でもありライターとしても先輩である井出和真と共に、小学生の頃、よく遊んだ公園にある落書きを調査することにした湾沢。その落書きを子どもだった湾沢や同級生たちは『露死獣の呪い』と呼び、そこに込められたメッセージを解明しようと躍起になっていた。

取材を進めていく内に湾沢は、その落書きに対して『二十歳までこの呪文を覚えていると、露死獣に殺される』と言う説を唱えていた旧友が亡くなっていたことを知り、と言うお話です。

 

井出さんのキャラクターがとにかく強烈(笑)。まさしく残念イケメン。そんな井出さんと湾沢の会話のリズムが楽しい一方、『露死獣の呪い』と言う存在。子供たちの想像でしかなかったはずのそれが、じわじわと、掴みようのない、しかし確かな形をもって迫ってくるような、静かで暗い迫力には思わずぞっ、とさせられます。

『露死獣の呪い』とは何なのか。果たしてそれは本当に存在するのか。物語はそれに迫っていく湾沢と井出の姿を描いていくのですが・・・その結果、2人がたどり着いた真相には言葉が出てきませんでした。

『あぁ』と。『あぁ』です。もうそんな言葉しか出てこなかった。『呪い』と言うものの存在、そこには必ず人がいる。何かしらの目的をもって『呪い』を生み出す人の存在がいる。そのことを改めて突き付けられたような。

今回の件に関しては、あまりにもどす黒い自らの欲望の為に生み出された『呪い』に、子どもならではの純真さ、好奇心で近づいていった子どもたちがいた。そしてかつて子どもだった1人の少年が、その『呪い』の真相に気が付いて・・・と言うその流れ、その青年の心境を思うと、もうほんと、胸がずーん、です。苦しい。しんどい。

 

2作目は『歌うハンバーガー』です。『アウターQ』の編集長、八坂から依頼を受けた守屋。彼女は重い摂食障害に悩まされていた。しかし八坂からの『締め切りは半年後』と言う言葉もあり、守屋は摂食障害から立ち直ること、そしてライターとして原稿を執筆することを決心する。

かくして彼女はライターとしての新たな一歩を踏み出すべく、1件のハンバーガー店へと足を踏み入れるのだが、と言うお話です。

 

7作の中でいちばん好きな作品です。そしてミステリー的な仕掛け、騙しの要素もいちばん強い作品だと思います。でも多分、気づくことができるはずは、ある一文で『あっ、もしかして・・・』と思われることかと思います。私もそうでした。こんな時だけ素直に騙されない、妙に冴え渡ってしまう自分の勘が憎い(笑)

摂食障害を克服し、再びライターとして仕事に向き合っていく守屋。そしてまた『食べる』と言うことに対しても向き合っていく守屋の姿には『頑張れ!頑張ってると思うけど、頑張れ!でも無理は絶対にするな!応援してる!』と言う気持ちでいっぱい。彼女が記事を書くために、とあるハンバーガー店に足を踏み入れ、そこでハンバーガーを食するシーンには、胸が熱くなるような思いすら覚えたのです。

だからこそ。物語の最後は湾沢が執筆した記事で締めくくられているのですが。その最後の最後で明かされる真実には、ただただ切なくなるばかり。そうか、やっぱりそう言うことだったか、と。うーん、悲しい。悲しい、けれど、それでもこのハンバーガー店がある限りは、と言う何とも言えない気持ちが込み上げてくるのが、またこれ一層、切ない。悲しい。

 

3作目は『飛ぶストーカーと叫ぶアイドル』です。暴漢に襲われ芸能活動休止を余儀なくされた1人のアイドル。彼女の復帰ステージ、その撮影を手伝うことになった湾沢。個性豊かな地下アイドルたちのパフォーマンスに湾沢が圧倒される中、ついに件のアイドルがステージ上に姿を見せる。彼女の復帰を待ち侘びていたファンたちの熱気は最高潮に達する。そんな中、クラウドサーフィングによって1人の男が、彼女の立つステージ上に放り投げられる。そして、と言うお話です。

 

クラウドサーフィング』とはこれのこと。私も正確な名称を初めて知りました。

ja.wikipedia.org

この作品もまたミステリーとしての仕掛けと言うかトリックが冴え渡っている作品だと感じました。そこに、その真相に存在してる人たちの思い。数々の人たちの思いに、なんと名前をつければいいのだろう。そんなことを考えさせられるような作品だったなぁ、と。

何だろ。それこそ少し前、時期的には春アニメ放送中に読んでいたせいもあってか『【推しの子】』のアイの死。それを思わせるような感覚もあって、またこれ考えさせられると言うか。アイドルとファン。その間にある距離。関係性。いろーんな意味で『歪んだ』それを見せつけられたかのような作品。でもその『歪んだ』距離、関係の別の一面も描いたような作品でもあるから、そこにはどうしようもなく胸を締め付けられる思いがあったのも事実で。うーん、やるせない。

あとこの作品では酒好き地下アイドル。ステージ上では歌うでも踊るでもなく、ただただ酒を飲みながら料理をすると言う『練馬のビヨンセ』こと練馬ねりが登場します。

この人も非常に強烈なキャラクターの持ち主です(笑)。でもそのさばさばした、達観したような、それでいて情に篤い性格は、読んでいて思わず『やだ、かっこいい。好き』って思っちゃいました。

 

4作目は『目覚める死者たち』です。このお話では湾沢が井出さんと出会うきっかけとなった、2人が巻き込まれたとある事故が描かれています。この事故、と言うか事件と言っても側面もある出来事は実際に起きたそれだと思います。

その出来事、その出来事で亡くなった人たちを面白おかしく取り上げたような記事。その記事が書かれた本当の目的に湾沢が近づいていく、と言うお話です。

 

実際にも起きた出来事。大惨事。事故ではあるけれど、明らかに事件でもある、その出来事をニュースなどを通じて知っているからこそ、物語全体に流れている生々しさがとても強くて、シーンや描写によっては息が詰まるような感覚すらあるくらいでした。

そしてその出来事の、間違いなく当事者の1人でもある湾沢。その彼だからこその憤り、虚しさ。その出来事を、大惨事で命を落とした人を私利私欲のために、実に面白おかしく利用されたことに対してのそうした気持ちも、もうひしひしと伝わってきた。

ただ・・・そこからのラストが、さすがの一言。ホラー作家としての澤村さんの魅力が、短い描写ながらも炸裂している、そんなラストだと感じました。ラスト2ページを読んでいる間に、ぶわっ、と肌が粟立った感覚は到底、言葉にできません。

 

そして5作目は『見つめるユリエさん』です。大学時代の友人、Aから『絵の中の女性を本気で好きになってしまった』と言う相談を受けた井出。

湾沢と井出は、その絵について調査を開始することに。奇跡的とも呼べるような偶然が重なり、その絵に描かれている女性の正体やその女性が絵として描かれることになった経緯を知ることができた。更に奇跡的にも、その絵に描かれている女性と瓜二つの女性とも知り合うことができ、結果的にAとその女性は交際をスタートさせることになったのですが・・・と言うお話。

 

『絵の中の女性に本気で恋してしまった』『でも結果として、その描かれている女性と瓜二つの、生身の人間と交際が始まることになった』と書けば、『なんだハッピーエンドじゃんか!』と思われる方もいらっしゃることでしょう。

私もそう思い、でもところどころ、何かしら思わせぶりな匂わせているような、何かを隠しているようなAの描写にひっかかるところはあったんですけど。

ね。成程ね、そう言うことだったのね、とにやり、です。澤村さんの作品、この作品だけに限らず様々な作品に描かれている、こう言う感情。

人間の、人間としての、どうしようもない感情。欲求。底が知れず、暗く、どこまでも日が当たることのないそうした感情、欲求が、しかしこの作品のラストでは、何かしらの美しさやもの悲しさを伴っており、それ故、とても深い余韻をもたらしているのです。うーん、お見事。

 

そしてラスト6作目と7作目は続きものになっています。6作目が『映える天国屋敷』、こちらではライターとして注目を集めることになった湾沢が、ある男性のもとを取材に訪れると言う物語です。様々なオブジェが存在する奇妙な屋敷。そこに住まう1人の、やはり少し風変わりな男性を取材し、屋敷の展望台、2階のバルコニーから見える光景に感動を覚えた湾沢は、この屋敷に人を受け入れてはどうか、と男性に提案する。

男性もそれを受け入れ、湾沢の記事が発表されたことで、その屋敷はちょっとした映えスポットとして注目を集める。しかし殺到する人の重みに耐えきれなかったバルコニーが崩壊、それにあわせるように屋敷全体が倒壊すると言う事件が起き、と言うお話。

 

それを受けての最終7話は『涙する地獄屋敷』です。自分の記事のせいで、と先の事故に落ち込む湾沢。ネット上では事故が起きたのは、無責任にも屋敷の住所を公開したライターのせいだ、と湾沢を非難する意見もあがっていた。

そんな中、湾沢の記事を受け屋敷に足を運び崩落に巻き込まれケガを負った練馬ねりは、一連の事故は仕組まれたことだと言う結論を導き出す。そしてそれを仕組んだのは・・・と言うお話です。

 

練馬ねりの推理力、恐るべし。

まぁ、あの、うん。登場人物は限られているから、ここまでくると『その人物はその人しかいないよね』と言う流れにもなってくるわけなのですが、それでも個人的にはなかなかの衝撃だったと言うか。

その人がそれまでの物語で見せていた表情、言動、感情。それらすべてが実はその人の計画であり、そこにはそんな真意が、そんな感情が込められていたのかと思うと、もう胸が詰まるような。

そしてそのことを打ち明けられた湾沢の心境を思うと・・・あぁ・・・私ならもう、立ち直れないな。『それまで』の出来事、時間、思い出となったそれらが、たとえ不格好でもみっともなくても、思い出として確かな重み、確かなきらめきを放っているからこそ、それを実感しているからこそ、『実はその裏側には』なんて知ってしまった日には、もう立ち直れない。無理。

 

その人物の抱えていた思い。そのきっかけとなった自らの行い。罪。

作中の言葉を借りるなら『見て聞いて、伝えることに関する、とても大きな罪を』と言う言葉で表現される湾沢の行いは、今の世の中に痛烈に響く、何か大きなものを投げかけるようなものじゃないかなぁ。

誰しもが発信者になることができるこの社会、今の時代だからこそ、湾沢が犯した罪。

『見て聞いて、伝えることに関する、とても大きな罪』の存在を、改めて認識しなければならない。自覚しなければならない。そんなことを痛感させられました。

 

湾沢の犯した罪によって、正しきことだと信じて疑わなかった行為によって、1人の青年の人生が大きく狂わされた。

だけど時を経て、その湾沢が書いた、いやもしかしたら『書かされていた』と言っても良いのかもしれないけれど、とにもかくにも湾沢の書いた記事によって、その青年は、確かな喜び、希望を見出すことができるようになっていた。

その構成がさ、またうまいしにくいし、切ないのよ。それを受けての、ある人物、一連の出来事を企んだ人物が崩れ落ちる描写ってのも、もうほーんと、悲しいし切ないし、やるせないしで言葉が出てこないのです。

 

人は自分の都合のいいように物事を受け止め、解釈する。

そしてそれは発信に関しても当てはまることなのかもしれない。

ただそれでも新人ライターとして湾沢が書いてきた記事。そこには湾沢の、彼の、1人の人間としての、何かしら願いにも似たような思いがあったことだろう、と私は信じたいのです。

そんな湾沢の人としての愚直さ、真面目さが描かれているラストに、わずかばかり救われたような気持ちがした私なのでした。

 

はい。てなことで本日は澤村伊智さんの連作短編集『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』の感想をお送りいたしました。

冒頭にも書きましたがミステリーとホラーの絶妙な融合。そして個性豊かすぎる登場人物たちの関係性、会話が実に楽しい、読みごたえたっぷりの1冊でございます。

『澤村さんが気になっているわ~』と言う、澤村さん初心者さんにもおすすめの1作かな、とも思います。

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうこざいました!