tsuzuketainekosanの日記

アニメや声優さん、ゲーム、漫画、小説、お仕事とのことなどなど。好きなことを、好き勝手に、好きなように書いていくだけのブログです!ブログ名の『ねこさん』は愛猫の名前だよ!かわいいよ、ねこさん!

1が付く日なので読書感想文をお送りします~『蝉かえる』

さて。多分、もう数日もしたら准教授・高槻彰良の推察と比嘉姉妹シリーズの最新作である文庫が手元に届くはずだ。

わくわく。楽しみだなぁ~。

あと准教授・高槻彰良の推察はこれ、CV伊東健人さんとCV内山昂輝さん出演の動画も公開されていますが・・・アニメ化とか、ありませんかね?ドラマ化もされましたが、個人的にはやっぱりアニメで見たいんですよね。うん。CVもぴったりだし。

アニメ化、ありませんかね?(大事なことなので2回言いました)

 

そんな具合で読書感想文をお送りいたします。

本日、感想文をお送りするのは櫻田智也さんの『蝉かえる』でございます。

こちらはですね、昆虫好きの心優しく、そしてまたどこかとぼけた味わいのある青年、魞沢泉・・・!

ってか『魞』の文字が出てくることに私は感動した!(笑)

あれ、前から出てきてましたっけ?以前、感想文を書いた時には出てきていなかったように思うのですが。出てきたよ!

 

はい。仕切り直しです。

 

こちらは昆虫好きな、心優しい、どこかとぼけた味わいのある青年、魞沢泉(えりさわせん、と読みます)、日本全国を放浪している彼が、その土地で遭遇した事件の謎を解明すると言う作品です。短編集の形をとっており、本作品は2作目にあたります。

1作目は『サーチライトと誘蛾灯』と言うタイトルで、こちらで櫻田さんはデビューを果たされました。

 

魞沢くんが昆虫好き、そしてタイトルにも『蛾』やら『蝉』やらの文字が入っていることからもお分かり頂けるかと思いますが、本作品に収録されてている作品はいずれも昆虫が、大きな役割を果たしています。

それと同時、魞沢くんが解明する事件の謎には、人間のさまざまな感情、言葉にするのが難しいような、またもどかしいような、そうした感情が絡んでいるんですね。

そのふたつが見事に融合している、それが実に優しく、繊細で、美しい筆致で描かれているのが、本作品の大きな魅力だと私は思います。

またいろんな謎、その底にあるいろんな人のいろんな感情に触れることで、どこか謎めいた部分も多いと思わせる魞沢くん。彼の人間としての繊細さ、柔らかさ、優しさ、頑固さ、そうした部分に触れることができるのも魅力として挙げたいのです!

 

ミステリーとしては正直、地味な作品だと思います。決して派手な事件が起きるわけでもなく、その謎解きも『トリック炸裂!』と言う派手さがあるわけでもない。

しかしだからこそ、人間の感情の機微、魞沢くんの感受性はこちらの胸に染み入ってくるようなものがあります。そして謎解きに関しても、派手さはない、だけど真相が明かされた瞬間、それまで見えていた光景、あるいは一言の意味ががらり、と変わるような驚きに溢れていると感じます。

のほほんとして、どこかとぼけた感のある魞沢くんが、一体、どこで事件の真相に気がついたのか。それこそが最大のミステリーでもあるのですが(笑)

だから端的に言うと、めちゃくちゃ面白いです。そしてプロの作家さん相手に、この言葉は失礼なのかもしれませんが、とにかく文章がめちゃくちゃ美しい。読みやすい。言葉の選び方、そのひとつひとつにまで神経を配られているのがひしひしと伝わってくる、そんな作品でもあるので、私としては是非とも、多くの方に読んで頂きたいと思う作品なのでもあります!

 

てなことで感想へとまいりましょうか。

『蝉かえる』に収録されている作品は5作品なので、1つずつ、感想を書いていきます。

 

・『蝉かえる』

・・・表題作ですね。16年前。災害ボランティアとして甚大な震災に見舞われた土地を訪れていた青年。彼が目撃した少女の正体、そしてその裏側にあった真相を魞沢くんが明かしていく、と言うお話です。

買った本や漫画を最後のページからパラ見すると言う悪い癖が私にはあるのですが、今作品もそれをしまして。結果としてこの作品の最後のページに描写されている、とある人物のとある行動を先に知ってしまっていたんですね。で、それを目にした時は何も知らないもんだから『なっ!○を○○るなんて!』と驚きしかなかったのですが。

全てを知った今なら、もう・・・その行為に託されている思い。その行為をしたとある人物の心中。そうしたものがひしひしと伝わってきて、めちゃくちゃ切ない思いに駆られるのです。

因習と因果。無関係であるはずの、あらねばならないはずのそれを、だけどそうとは切り離せなかった幼いころの自分自身。あるいは村、そのものの在り方。そうしたものへのいろんな思いを胸に、この人は今日まで生き続けてきたんだろうなぁ。

また謎に関与していたもう一人の人物。その人の思い。真実を胸に秘めたまま、この世を去ってしまったその人の思いと言うのも、またこれ染みるじゃないですか・・・。

そうした感情を、思いを馳せることで明かして見せ、だけど決して暴くようなことはしないと言う魞沢くんの『探偵』としての在り方も、実にいいんですよね。うん。読んでいて嫌な気持ちにならない。

 

・『コマチグモ』

・・・ちょっと変わった形で魞沢くんが登場。交差点で発生した交通事故と団地の一室で発生した女性の負傷事件。そこに関連性はあるのか、ないのかと言う謎を明かしていきます。なんだろ。全作品そうなんですけれど、特にこの作品に関しては出てくる人物の細かな動き、会話のテンポなどがくすっ、と笑えます。元気なネギおばさんなんて、もうその動きとかとがまざまざと頭の中で思い描けたもんなぁ~。

本作品のタイトル『コマチグモ』は、カバキコマチグモのこと。その生態を作中で知った時、私は『それはなんと壮絶で、でも、そこまでして』と言う思いが禁じえませんでした。

そのコマチグモの生態を絡めたうえで、そこからもうひとひねりして、少女の烈しく、そして切実な思い。こちらの胸を穿つような切実な、だけど強い思いを描いた構成力やアイディアはお見事の一言。『そう言う解釈もできる』とした上で魞沢くんの話を受け止めた刑事さんが、そこから導き出したひとつの思い。『人は、誰にも』から始まるその思いは、とても印象に残った言葉です。

こちらもぐっ、と胸を締め付けられるようなお話ではありますが、やっぱりラストは温かく締めくくられているのも素敵です。

 

・『彼方の甲虫』

・・・前作『サーチライトと誘蛾灯』で知り合った人物がオープンさせたペンションに招待された魞沢くん。そこで彼は日本の大学院に在籍している、中東からの旅人である男性と知り合う。ところがその直後、その男性が遺体となって発見され、と言う物語。

とある人物が、ある人の言葉を思い出すんです。中東の男性、その死の真相にある程度のめどがついた時に。その瞬間に、がらっ、と。その、ある人の言葉が意味していたことが回転するんです、正反対に。『うわっ!そう言うことだったのか!』と、もうただただ笑うしかありませんでしょね。うん。大げさではなく、本当に真実によってそれまで見えていた、見ていた光景が、がらり、と変わった。いやぁ、お見事。鮮やか。

なんだろ。個人的には『日本』と『異国』の文化の違い。そこから生まれる認識の違い。だけれど国は違えと、バックボーンは違えと、『人間同士』であるからこその理解、あるいは気持ちの在り方みたいなもの。だからこそ、ある人物の『悪意』、それがどうしようもなく幼稚に、だからこそ邪悪にも思えてしまい。それがなければ、こんな悲しい別れも、こんな悲しい事件も起きることはなかったのに、とただただやるせない思いで胸がいっぱいです。

で。『蝉かえる』に収録されている短編は、いずれも独立している物語です。なんですけれど、個人的にはこの作品からの並びは、魞沢くんの人間関係。それを感じさせる並びになっていると思いました。

異国の『友』を亡くした魞沢くん。彼がそこに何を思い、どう行動を起こしたのか。それは最後に収録されている物語にて描かれますが、その前に挟まれているのが次の作品です。

 

・『ホタル計画』

・・・折しもこの作品を読み終えた日あたりに、遺伝子組み換えによって生み出された光るメダカを不正に育成、販売した容疑で逮捕者が出たと言うニュースが報道されて、いや、驚きました。うっかりネタバレになっちゃってる気がしなくもないですが、本作品では、このニュースを彷彿とさせるような題材が扱われています。

自然界には存在しない生き物を生み出す。その恐ろしさを思わされると共に、それ以上になお、そこにお金を生み出すことを見出してしまう人間の悲しさよ・・・業の深さよ・・。

サイエンス雑誌の編集長を務める男性が主人公。彼が追い求める人物、そして彼と共に行動する少年はペンネームで表記されています。昆虫にまつわるそのペンネームも、やっぱりこの作品らしくて、妙にとぼけた味わいがあって『ふふ』となりました。

それこそ、ネタバレになるので多くは語れませんが・・・魞沢くんがどのように登場するのか。どんなふうに、ある人物の失踪、その謎解きに関係しているのかはお楽しみと言うことで。

いや、でも・・・多くは語れないけれど。魞沢泉と言う1人の人間の、その姿、在り方、人との向き合い方、人の心、感情、気持ちとの向き合い方、接し方。そうしたものの理由、その一端が描かれていたお話だと感じました。

また同時、編集長である男性の気持ち、特にある人物の失踪に対しての気持ちも、私はめちゃくちゃ共感できた。わかる・・・その面倒くささも、そうやって被害者面するのも、めちゃくちゃわかるよ・・・。そしてまた、この人が吐いた嘘、嘘を吐くと決心するに至った、いろんな気持ちも、もう想像するに『あぁ』と言う言葉しか出てこないよなぁ。

そこには確かに『相手は子どもだから』と言う思いもあったんだと思う。本人も言っていた通り、真実を告げるだけの勇気もなかったんだと思う。自身の行為に対しての言い訳もあったんだと思う。自身が自身の嘘を信じたい、そう言う気持ちもあったんだと思う。それでもやっぱりそこには、たとえわずかでも、子どもである相手を思う気持ちもあったんだと、私は信じたい。

そしてそれは相手にも伝わっていて、だからこそ・・・あぁ、これ以上はネタバレになっちゃうから言えないわ。言えないわ!

 

・『サブサハラの蠅』

・・・国際的な医療支援を行うNGO法人に所属し、アフリカ睡眠病への対策にあたっていた江口海。彼は、大学時代、2年に渡り大学寮で魞沢と共同生活をしていた人物だった。その江口は、成田空港で帰国したその日、偶然にも魞沢と再会する。江口は、ツェツェバエのサナギを日本に持ち帰っていた。ツェツェバエはアフリカ睡眠病を媒介させる唯一の昆虫であり、帰国してなお、江口はその研究を続けるのだと魞沢に話すのだが、と言う物語です。

アフリカ睡眠病、それが『顧みられない熱帯病』と呼ばれていることも初めて知りました。なんだろ。ここ数年のコロナウイルスの世界的拡大もあってか『病気』と『ワクチン』にまつわる様々なことを考えさせられる作品でもありました。コロナは、日本のみならず、それこそ全世界的に拡大していった。だからワクチンも迅速に開発され、生産された。もしこれが、そのウイルス禍が、ごく一部の、限定された、それも決して経済的には裕福ではない国、地域のものだったとしたら、ワクチン開発はどうなっていただろうかなぁ。

当事者にならなければ、あるいは自身の尻に火が着かなければ。人はどれほどの危機も『対岸の火事』としてでしかとらえることができない。その現実に絶望し、怒り、それを何とかして変えたい。それに駆られた江口の思いを、一体、誰が否定できようか。そしてその強い思い、もはや執念、執着と言ってもいいような感情からきた江口の行動は、ただただ重い。その一言です。

もし、ニュースなどで彼のことが報じられて。そして彼の、その行動の裏にある思いが、出来事が報道されたとしたら。私は、何を思うだろうか。

『なんてことを!』と怒るだろうか。『馬鹿じゃないの』と嘲笑うだろうか。『その気持ちは、わからなくもないなぁ』と同情するだろうか。

 

それはわからない。わからないけれど、わからないからこそ、江口を前にして。江口の思いも行為も明らかにしたうえで、その絶望の、怒りの深さも推し量ったうえで、それでもただ一言、『ぼくのために生きてはくれませんか?』と口にした魞沢くんの、あまりにも自分勝手な言葉が、だけど途方もない優しさが、私にはただただ尊く思えました。

 

人が生きると言うのは、その人の歴史が刻まれると言うこと。

生きている人と生きている人が出会うと言うのは、親交を持つと言うのは、互いの歴史の中に、互いの存在が、時間が、歴史が刻まれると言うこと。

『彼方の甲虫』『ホタル計画』を通して、もちろん、それ以外の作品もだけれど、描かれていたのは、そう言うことだったんですね。うん。

 

そしてそのあとに続く魞沢くんの言葉。

『きれいごとのひとつも口にしなければ、こんな世界、生きていけないじゃないですか』の一言にこそ、魞沢くんの思いが込められているようで。

もう、ぐっ、と胸が締め付けられました。

時間の長さは関係ない。

自分の歴史と交わった『誰か』、その歴史、時間、存在。

それが失われてしまうのは、もう嫌だ。悲しい。辛い。苦しい。悲しい。

そんな魞沢くんの、普段は決して口にしないような魞沢くんの、とても幼く、だからこそ真摯で、単純で、まっすぐな思いが伝わってくるような言葉で。

『きれいごとでもいい。世界は時に残酷で、一瞬先のことすらわからない。だからこそ、きれいごとでも何でもいいから。自分の歴史に、時間に、存在に刻まれている人は、自分のことを歴史として、時間として、存在として刻んでくれている人は、生きていて欲しい』

それこそが『彼方の甲虫』から魞沢くんが得た、得たと言うよりますます強めた切なくも、あたたかな思い、人への向き合い方なんだろうなぁ。

そして何より、それを言葉に出すと言うところに、魞沢くんの、江口に対しての思い、その強さを垣間見た気がして、またこれ泣きそうになりました。尊い

 

どうか江口の行動が、正しい形で実を結びますように。

『顧みられない熱帯病』であるアフリカ睡眠病、その治療薬などの開発に際しては日本人の研究者もあたられているとのことで。

現地で医療支援にあたられている方も含めて、ほんと、ただただ頭が下がる思いでいっぱいです。

 

はい。と言うことで本日は櫻田智也さんの『蝉かえる』の感想をお送りいたしました。

ふわっ、と心を包み込むような温かさと優しさに満ちた、それでいて人間のあらゆる感情を描いた傑作短編集です。こー、魞沢くん含めて、登場人物たちが本当に愛おしいのだよ。

読み終えた後には、なんとも言えない感情で胸が満たされる、そんな作品でもあるので、是非とも1作目『サーチライトと誘蛾灯』も含めて読んでみて下さい!

 

ではでは。本日の感想はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!