tsuzuketainekosanの日記

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読書感想文をお送りいたします~『さえづちの眼』

3連勤が続きます。

4連勤じゃないだけマシ。

でも私は2勤2休が好き(どーん)

 

本日、感想文をお送りするのは澤村伊智さんの『さえづちの眼』でございます。

こちらは澤村さんが手掛ける比嘉姉妹シリーズの最新作です。比嘉姉妹シリーズと言えば去年、長編作『ばくうどの悪夢』が刊行されたところ。

まさか、まさかそれほど間を置かずしてシリーズ最新作が読めるとは、とファンとしてはただただ嬉しい限り。

 

比嘉姉妹シリーズに関してはこのブログでも度々、紹介してきました。

霊媒師である比嘉真琴とその姉、比嘉琴子。この2人を中心とした人物が恐ろしい怪異現象に遭遇し、その裏側にある謎を解明していくと言うお話です。

澤村さんのデビュー作であり映画化もされた『ぼぎわんが、来る』(映画化に際しては『来る』と改名)を第1作として以降『ずうのめ人形』『ししりばの家』『などらきの首』『ぜんしゅの跫』『ばくうどの悪夢』と続いて本作『さえづちの眼』が刊行されています。

 

恐ろしい現象を引き起こす怪異の存在。それが存在していると言う前提で物語は進行していくため、ホラー小説の緊張感、恐怖を味わえるのがこのシリーズの魅力のひとつ。それでいてミステリー小説的な味わい、謎解きの妙、あるいは読書を巧みに騙すミスリードなども冴え渡っているのも、ミステリーファンとしては嬉しいところ。

更に比嘉姉妹は勿論のこと、登場する人物の抱えている様々な思い、背景が物語に複雑に絡み合っており、その描写も非常に読みごたえがあります。

またシリーズ通して、割と『家族』であったり『男性』『女性』『役割』、『父親』『母親』そうしたものにスポットライトが当てられており、いろいろと考えさせられるのも面白いのです。

 

全7作品が刊行されている比嘉姉妹シリーズ。正しく楽しみたいのであればやはり刊行順に読まれることをおすすめします。『いや、私は先の作品のネタバレを食らっても平気よ!』『シリーズ全体の流れはさほど重視しないわ!』と言う強者さんは(笑)、どうぞ、どうぞ、気になる作品からお手を伸ばしてみて下さい。

とにかくめちゃくちゃ面白いです。ページをめくる指が止められない。気が付いたら『はっ!もうこんな時間!寝なくちゃいけないのに!』と、私はどの作品でもなりました。寝不足の大敵よ(どーん)

 

ではでは。『さえづちの眼』の感想へとまいりましょう。本作品は中編集。『母と』と『あの日の光は今も』と、表題作である『さえづちの眼』の3編が収録されています。

先程も書きましたがこのシリーズ、『家族』『家庭』であったり『性別役割意識』『母親』『父親』と言うテーマがどの作品にも色濃く描かれているように思うですが、この『さえづちの眼』に収録されている3作品にも、そのことを強く感じました。

 

まずは『母と』です。真琴のもとに杏と言う少女が助けを求めてきた。彼女は、民間の更生施設で仲間たちと楽しく生活をしていた。しかしある時を境に、その施設内に『ナニカ』が入り込み住人達が皆、おかしくなってしまったと話す。杏の話を聞いた真琴と夫の野崎は、件の施設に足を運ぶのだが、と言うお話。

 

盛大なネタバレをすると3編の中、唯一のハッピーエンドを迎えた作品。・・・ですよね?これはハッピーエンドですよね?騙されてませんよね、私!?

 

女性は子を産むことで母親になる。そして母親になれば、そこには想像を絶するような苦労も生まれる。我慢も強いられる。出産経験はおろか、結婚経験もなく子育て経験もない私からしてみれば、その強いられるものの重みを想像しただけで『ムリ』と両手を挙げたくなるくらいなのですが。

作中、ある人物が吐露しまくった思いは、どうなんだろ。こんなことを言うと批判を浴びるかもしれないけれど、でも私には、世の中の母親になったことがある女性、すべての人が抱えたことのある、あるいは今なお抱えている本音以外の何物でもないんだろうなぁ、と痛感しました。

 

勿論、この作品に登場した怪異の存在、彼女の存在は『悪』と言えるのだと思います。ただ一方で彼女の中にあった思い、家が欲しかった理由。その中でどんなふうに子どもたちと暮らしたかったのかと言う思いは、決して『悪』とは断じきれないよなぁ、と言う思いもしてきて、なんとも切なかったです。

彼女はまた『役をあげて』と言う言葉も口にしたけれど、そうなんだろうなぁ。

きっと人間は家庭であってもそうでなくても、自分以外の誰かと共に生活をしていく、あるいは何かをなしていくと言う時には、自然と自分の役を求めてしまっているのかもしれない。そして自分自身も、あるいは他者も、その役を通してでしか物事を考えられない、物事に対応できなくなっていくのかもしれないな。

 

あとこの作品では、ちょっとした叙述トリックが仕掛けられています。正直、その必要性に関しては疑問に思うところもあるのですが、まんまと騙された身としては『うっひょ』とちょっとした喜びを感じました(笑)

またネタバレになっちゃうので詳細は差し控えますが、このトリックによって明らかになったある事実。そのことで『母と子』の関係、その色合いと言うか、そこに込められているいろいろな感情などが、私の中では一変したのも事実です。

詳しくは言えない。言えないけど、澤村さんはどうして『母と○』の関係を描くのが、こうも巧いんだろうかなぁ。

 

とにもかくにもハッピーエンドで良かった!

でも私はバッドエンドも好きだし、こと比嘉姉妹シリーズに関しては、完膚なきまでの容赦なきバッドエンドの方が似合っている気がします!

 

お次は『あの日の光は今も』です。1981年、大阪。2人の少年がUFOと思しき物体を目撃した『巴杵池事件』。その少年の1人である昌輝は、母親と2人で小さな旅館を経営しながら静かな生活を送っていた。ところがある時、湯水と言う1人のライターが、事件のことを記事にしたいと昌輝の元にやって来る。最初は相手にしないつもりであった昌輝だったが、雑談程度なら、と湯水と、たまたま旅館に宿泊していたゆかりと言う女性を相手に何があったのかを語り始める、と言うお話。

 

そうですよ!このお話に登場しているゆかり、悠太親子は『ずうのめ人形』に登場しているあの人たちですよ!『ずうのめ人形』でめちゃくちゃ重要な役割を果たしているあの人たちですよ!

それを知っているからでしょうね。もう途中でゆかりが見せる『理想の母親』『良い母親』に対する、ある種の執着めいた思い。あるいは不穏さしかない、昌輝の話に対しての尋常ならざる好奇心、ほの暗すぎる好奇心みたいなものがひたひたと迫ってくるようで、ただただ怖かったです。

・・・ってか、悠太はともかくとしてゆかりに出会ったしまった時点で昌輝は・・・いえ、なんでもありません(汗)

 

『そうかもしれないしそうでないかもしれない』。

そんなことを突き付けてくるようなラストは衝撃的。そしてぞわり、と背筋が泡立つような思いも味わいました。その後、何事もなかったかのように、またあの場所に訪れた静寂。その冷たさみたいなものが余韻深くて、だからこそそこには突き放すような冷酷さすら感じられて。

これもこのシリーズの特徴なのですが、怪異はある。それを前提にしたうえで、時には『もともと、そこにあった怪異が、あることを境に怪異になった』と言うことが描かれていることもあるのですね。

ただそこにあるだけだった怪異が、小さなきっかけを得たことで、怪異になった。そしてその結果、それによる被害が生まれるようになった。

 

今回の件に関しても、ゆかりが絡んできている以上、そうであることも否定はできない。しかしやっぱりそれは『そうかもしれないしそうでないかもしれない』と言う推測しかできないわけで、その冷たいモヤモヤ感が個人的にはクセになります。

もし『『さえづちの眼』から読んじゃって『ずうのめ人形』は未読なんだよなぁ』と言う方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ぜひ読んでください!

比嘉姉妹シリーズ、どの作品も私は好き。好きだけど『1作品だけ挙げないと殺す』と脅されたら『ずうのめ人形』を挙げます。ミステリー的な仕掛けも、そして『ずうのめ人形』の怪異としてのインパクト、恐怖も、そこに関わった人たちの様々な形の『悪意』も本当に忘れがたい作品なのです。

 

そして最後は『さえづちの眼』です。収録されている作品の中だと、私はこの作品がいちばん好きです。

郊外にある名家、架守家。そこで起きた一人娘の失踪。『神隠し』とも噂されるその事件から数十年後、架守家は衰退の一途をたどり、一族は度重なる不幸な出来事に見舞われていた。これは『呪い』なのではないか。そんな疑いを抱いた当主は、霊能者の比嘉琴子に調査を依頼するのだが、と言うお話。

 

これぞまさしく『家に縛られ続けてきた女性』『妻であること。母であることを強いられてきた女性』、それが描かれることの多いこのシリーズの代表作と言ってもいいような作品だと思います。

何が苦しいって、それを強いられてきたある女性が、それを人生として選んできた同じ女性のことを否定し、嘲笑う。それがめちゃくちゃ苦しいし、悲しい。

 

架守家の衰退。それを自らの『呪いの力』だと豪語して憚らないその女性の姿、言葉はある種のこっけいさすら感じさせる一方で、切なくもあり。ただ同時に、この女性がこんな歪んだ思いに駆られた理由、どす黒い思いをため込んできた理由。

そしてこんなこっけいなことを、切なさすら感じさせるほどに豪語するようになった理由。それもまた私としては理解しかなかったからこそ、やるせないと言うか何と言うか。なぁー・・・なぁー・・・しんどいわ。

 

ただ架守家の衰退。それを『自身の呪いの力』だと信じていた彼女自身が、その『呪いの力』を目の当たりにして、自身の思いが晴らされていくかのような痛快な思いすら抱いていたはずの彼女自身が、その『自身以外の呪いの力』を軽んじていた、信じようとすらしなかったと言うのは、皮肉以外の何物でもない。

そしてこう言うところ、『呪い』であったり『祟り』であったり、怪異そのものであったり。そう言うものを都合よく解釈し、都合よく利用しながら、肝心なところでは軽んじる人間に対してはこのシリーズ、容赦がないですよね。げふん。

 

てなことであのラストですよ。いや、ってかこのラストも怖いんですよ。怖いってか、もう絶望しかないじゃないですか。塗り重ねても塗り重ねても果てることのない絶望ですよ、こんなもん。

ちょっと色合いは違うけど『ジョジョの奇妙な冒険』のディアボロルートですよ、こんなの。絶対に嫌ですよ。怖いわ。考えただけで気が狂いそうになる。

一族の、命の衰退を願い続けてきたこの人が、それを許されないまま、永遠を押し付けられたって、もうこれ以上ないほどの皮肉。

 

そうなんですけどそれ以上に私が『怖っ!』と感じたのは、最初は『?』だった部分。ある人物がある人物の子どもを殺していた。そのことにその子の母親であったある人物は怒り狂い、結果として架守家一族、更にはある人物を祟り、それらに対して時間をかけて復讐していくことを誓った、と言う部分です。

 

私もある人物、その子を殺してしまったと指摘されたある人物同様『え?』だったんですよ。『いや、そんな描写なかったよね?』と。『でも澤村さんの作品に限ってそんなことはないはずだ』と思い、何回もそれ以前のページを読み返したんです。

そしてその内、はた、とあるページのある描写で指が、目がとまるようになりまして。『これか!』と。『これか!ってかこれしかないわ!ここだわ!』と。

 

詳細は差し控えましょう。それにこれが正解だとは限らないし。だけどその子の母親は既に人の形をしていない。だからその子もまた人の形をしていなかったかもしれない、と琴子が指摘したこと。

それを踏まえたうえで、このお話で中心となっているのは蛇神様であることを考えると、きっとその子も蛇のような、小さな蛇のような形をしていたのではないか、と推測することができます。

小さな蛇。そうですね。たとえば、そう、蛭のような。

架守家衰退の始まりと言ってもよいでしょう。宗助さんの死。その死に至るまでのシーンが描かれる前に、ある人物のある行為が描かれていますね。

ね。この人、何に対して何をしていますか?

 

怖!

そんな、まさか、まさかですよ!

こんな・・・こんなのカウンターパンチ過ぎやしませんか!?

 

とは言え『呪い』『祟り』とは、えてしてそう言うものなのかもしれないなぁ、とも思ったりして。

決してその理由、その背景がわかるものばかりではない。だからこそ『呪い』は、『祟り』は、それとして存在しているのかもしれない、とも思ったりしてしまうのがまたこれ怖い。

 

ただ私の中では、血を吸うから厄介で怖い存在ではあるけれど、蛭を何度も踏みつけると言うのは、なかなかこれ勇気のいる行為だよなぁ、と言う思いもあるのですが。

・・・ってかあっさりネタバレしてるやん・・・。

いや、でも、ね。わざわざ踏みつけんでも。木の枝で払い落したんなら、そのままでいいじゃないか。わざわざ殺生しなくてもええやないか。踏みつけたら靴、汚れるし、なんか『故意に生きものを踏み潰して殺した』って、生理的に嫌じゃないですか、とも思うんですけど。

 

皆さんはどうですか?(何を聞いているんだ(笑))

 

でもこのあたりの描写も、この人物の生きとし生けるものに対しての冷酷さと言うものを、深読みしようとすればできるのかな、とも思ったり。

家に、妻であること、母親であることを強いられてきた、そこに縛り付けられてきたからこそ芽生えてしまった、命に対しての酷薄さ。そう言うものが読み取れないこともないよな、とも思ったんですけど、さすがにそれは深読みしすぎか。

 

なんだろ。改めて小さな虫さんにも命があるのだと言うことを思い知らされたような思いです。

 

そんな具合で本日は比嘉姉妹シリーズ最新作『さえづちの眼』の感想をお送りいたしました。

kadobun.jp

去年『ばくうどの悪夢』が刊行された際にアップされた、シリーズ作品紹介のページです。各作品の魅力が実に端的に、わかりやすく紹介されていますので、こちらもぜひ、ご覧になってみて下さい!

 

ほんと!面白いから!

読んで!

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!