久し振りの日曜出勤だぜ・・・。
時給100円アップは嬉しいけど、正直、面倒くさい気持ちの方が強いぜ・・・。
人間、堕落に慣れるのは早いもんだなぁ(遠い目)
はい。そんな具合で11日、1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。
本日、感想をお送りするのは短編集『斬新 THE どんでん返し』です。
こちらは双葉社から刊行されており文庫本です。
なので比較的、手が伸ばしやすいかと思います。
参加されている作家さんは作品収録順に芦沢央さん、阿津川辰海さん、伊吹亜門さん、斜線堂有紀さん、白井智之さんの5名。
ミステリー小説好きな方であれば、この執筆陣の並びを見ただけで『おうっ!』と胸がわくわくすること必至だと思います。私もわくわくした。
そしてタイトルには『どんでん返し』の文字。
こりゃ、読まないと言う選択肢、ないだろうよ。
そんな気持ちで購入したのですが・・・。
結論からと言うと『どんでん返し』とはちょっと違うかな、と言う感想がひとつ。と言うかミステリー小説における『どんでん返し』と言う響きから受ける衝撃、『やられた!』と言う爽快感は、それほどだったかなぁ、と言う印象。
でもまぁ、これは短編小説なので仕方ない気がします。
それからこれも短編小説故のことなのかもしれませんが、5作品中4作品が一人称による語りだったのも、印象深いのがひとつ。
そんなこんなで5作品の中。まずは個人的にナンバー1だと思った作品、その感想から書いてまいりましょう。
本作品に収録されている中で、私がナンバー1に選んだのは・・・どんっ!
伊吹亜門さん『遣唐使船は西へ』です。
物語の舞台は西暦837年。唐へ渡航中だった遣唐使船四隻は、嵐に見舞われてしまう。無事に残ったのは一隻のみ。曇天で方向を見定めるすべを失い、水や食料も限られている中で、乗組員達の疲労は限界へと近づいていく。だがそれを救ったのが、船に乗り合わせていた老僧の説法であった。しかしその老僧が、密室の中から絞殺体で発見され、と言うお話です。
このお話をナンバー1に選んだのは、ひとつは唯一の一人称ではない語りだったから。それによって緊迫感や切迫感、先が全く見えないと言う絶望感が、じりじりと肌で感じられたから。
そして最後に明かされた老僧殺しの真相。それによって、その緊迫感、切迫感、絶望がより色濃くなり、しかし色濃くなったからこその、絶望的な希望のようなもの。『もはやこれまで』と言わんばかりのそれが広がっているようにも感じられ、そこもとても私好みだったから。
この作品は『ホワイダニット』すなわち『何故、老僧は殺されたのか』と言う動機の部分に焦点を当てた作品です。密室の謎は、割と早い段階で解明されるので。
その動機が、まぁ、端的に言えば実に狂っている。狂っているんだけれども、この状況下、そして人徳ある老僧が殺された、死んだと言う出来事においては、しごくまっとう、『ですよね』と頷くしかないような動機である。そして『ですよね』と頷くしかない、思ってしまう、と言うことにどうしようもなく薄ら寒いようなものを覚える、と言う運びになっているのが、実にうまい。にやりとしちゃう。
『どんでん返し』と言われると、やはり『ちょっと違うような』と言う気がしなくもないのですが、それでも伏線が張られていたとは言えこの動機にたどり着けた人は、さて、どれくらいいらっしゃっただろうか、と思うと衝撃の真相、そのものだったと思います。
伊吹さんと言えば個人的には『刀と傘』のデビュー作とは思えないほどの、新人離れした構成力、描写力、文章力が印象強い作家さんなのですが。
本作品でも作家としてのその卓越した技術は炸裂しています。何よりプロの作家さん相手に失礼な言い方にはなるのですが、文章がうまいのよ。
硬質で端正な文章が本当にうまくて、読みごたえがあってたまらないのです。
では、ここからはそれぞれの作品についての感想を書いていきましょうか。
以下、収録順です。
・芦沢央さん『踏み台』
・・・人気アイドルグループの一員であるみのりは、別れた男からのしつこいメッセージに辟易していた。みのりがアイドルグループの一員になれたのも、その男に麻雀を教わったからであった。かつては、確かにみのりも愛したその男。しかし今やただのストーカーとしか感じられなくなってしまったその男。邪魔な男を振り切るため、みのりは、後輩アイドルからの申し出を利用することにしたのだが、と言うお話。
みのりと後輩アイドル。いわゆるキャラが被っているこの2人が言い争うと表現するには静かで、だけどその分、より陰湿に、より強く相手を貶めようとしている、その強い怒りと苛立ちが伝わってくるような会話のシーンが、まさしく『ギスギス』と言う音が聞こえてきそうで面白かったです。怖い。凄いリアル。
そんな後輩アイドルからの意外な申し出を、邪魔な男を排除するために利用したみのり。自分の計画を成功させるために苦戦する彼女の姿が、ただただ哀れと言うか健気と言うか・・・そんなみのりの心境など露ほども知らぬであろう後輩アイドルの一言、一言にこちらとしては『んんっ!いらんことに気づきやがって!』と歯噛みするばかりだったのですが。
成程。相手の方が一枚も二枚も格上だったってことですか。スキャンダルの種。それにどう対処するか。そこに対しての覚悟の違い、あるいはとらえ方の違いみたいなもの。それをまざまざと突き付けられたような、そんな真相でした。
やさしすぎるみのりは、多分、芸能界には向いていないんだと思うよ。
・阿津川辰海さん『おれ以外のやつが』
・・・双子のコンビ作家の授賞式に参加しているカメラマンの水野。実は彼には、凄腕の殺し屋としての顔があった。双子のうち、弟を授賞式終了後の夜に殺害して欲しい。そんな依頼を受けていた水野は、授賞式終了後、早速、双子が生活している屋敷へと足を踏み入れる。しかしそこで彼が見たのは、何者かによって既に殺害されていた双子の弟の死体だった、と言うお話。
ページ数がもう少しあればなぁ。そんな気持ちが拭えなかった作品です。阿津川さんの作品、その魅力がうまく伝わりにくくなっちゃってるな、と言うか。ミステリーとしての要素も、短編にしてはてんこ盛り。更に物語としての展開もてんこ盛り。『どんでん返し』と言う作品の趣旨上、そして短編である以上、やむを得なかった部分はあるとは思うのですが、どうしても展開の性急さを強く感じてしまったのは、少し残念だったなぁ、と思いました。
水野の殺し屋としての一面。そこがハードボイルド的な味わいで描かれていて、確かにそれによって感傷的な気分が伝わってきたことには伝わってきて、それもまぁ、面白かったと言えば面白かったのですが。
改めて読み返してみると、やっぱり短編だしそこはばっさりカットの方が、むしろこの作者さんらしい本格ミステリーの妙。それが堪能できたのではないかな、と言う気もするのですが、皆さんはいかがでしょうか。
・斜線堂有紀さん『雌雄七色』
・・・亡くなった母親が、自分を捨てた男にあててしたためた七通の手紙。それを見つけた息子は、その男の七通の手紙を送りつける。その手紙によってミステリーが繰り広げられると言う形式のお話です。
成程。読み終えた後、これは思わずページを戻りたくなる、すなわち最初から読み返したくなる、そんな作品でした。ネット上で調べてみても散々、ツッコまれていた通りこのタイトルが既にネタバレ、そしてそれによってオチの想像がつく、こんなポンコツな私ですら『そう言うことだろうな』と想像ができてその想像通りのオチだったわけですが。
それでも、そうとわかっていても、最後の最後には『あ~』とにまにましていたし、冒頭に戻って読み返して『はっはー』と一人、悦に入っていました。
ミステリー的な仕掛けはあるんですけれど、個人的には『ミステリー』と言う言葉だけでくくられてしまうには惜しい、そんな作品だと感じたのですが。
・白井智之さん『人喰い館の殺人』
・・・土砂崩れで道を閉ざされた登山者たちは、廃屋の山荘へと避難する。しかしそこは周囲を羆に囲まれた超危険地帯だった。その山荘内で、元AV女優だった女性と男性が殺害される事件が発生する。避難客の一人であった、元刑事の推理によって事件の犯人が明らかにされるのだが直後、姿を現した羆の襲撃によって犯人、そして元刑事は命を落とす。その後、残された人物によって導き出されたのは、元刑事の推理とは異なる人間の犯行と言う結論だったのだが、と言うお話。
『人喰い館の殺人』。タイトル見た瞬間『あぁ、これは白井さんの作品だね!』と一発でわかったよね!『名探偵のはらわた』では、割と鳴りを潜めていた白井さんの真骨頂、グロが大炸裂している作品だよ!読む人が読んだら『うえっ』となりそうな、そんな作品だよ!あはは!
はい。でも私は『遣唐使船は西へ』に続いて、この作品が好きです。面白かったです。
ちょっとネタバレになっちゃうのですが、本作品。グロだけでなくエロも炸裂している作品でして。しかしそのエロの部分、まさか、そんな、『2人がどんな○○で○○○していたか』なんて実にどうでもいいことが(ほんとだよ!(笑))、事件の謎、その解明にしっかりと生かされているなんて。こんなの、白井さんにしか書けないだろうし、白井さんにしか思いつけないでしょうが!
いや、でも、そうね。その通りなのよ。2人がその○○で○○○していたとなれば、まさしく『食っていた側』と『食われていた側』の立場が逆転するのよね。そして犯人が犯行に至る動機も、あんなことやこんなことを口にしていた流れも、死体のちいさな○○○○をああしちゃってたのも、全部、きれいに説明が付くのよね。うん。
くそ。なんだか悔しいぞ(笑)
いや、うん。ほんと、この目を覆いたくなるような『倫理観なんてクソくらえだぜ、ひゃっはー!』と言わんばかりのグロ。そしてどうでもいい、実にどうでもいいようなエロが、しかししっかり、本格ミステリー、その謎解きのために必要な要素として活用されている。生かされている。
ここが本当に素晴らしい、凄い、お見事としか言いようがないんですよ。ほんとに。
だから短編なのにめちゃくちゃ濃厚。『これが白井智之と言う作家です!』と言う、名刺を叩きつけるような、あいさつがわりの作品であること必至。
そしてグロとエロと言う軸がぶれていないから、それがしっかり本格ミステリーの要素として機能しているから、取っ散らかっている印象が少しもない。エロとグロ、人を食ったような作風でありながら、しかし収録作品の中ではいちばん本格ミステリーしていた作品。『遣唐使船は西へ』と並んで、高い完成度を誇る作品だったと思います。
端正な文体、そして絶望的な状況の中、生み出された絶望的な希望。その、目を焼かんばかりの眩しさと、しかしそれを覆いつくさんばかりの圧倒的に力強い自然の脅威。それがただただ印象的な『遣唐使船は西へ』。
グロ!エロ!炸裂!羆ちゃんも大暴れ!しっちゃかめっちゃかっぽいのに、しっかり本格ミステリーしちゃってる。多重構造ミステリーが炸裂している。その奇跡的な融合がまさに白井作品らしい『人喰い館の殺人』。
うーん、何と言うか、作風で言えばまさしく両極端な作品1、2を飾るとは。
面白いなぁ。これぞ短編集ならではの魅力だよなぁ~。
あぁ、でもそうか。この2作品、『密室』と言う共通点があるのか。
はい。そんなこんなで本日は『斬新 THE どんでん返し』の感想をお送りいたしました。
短編集の魅力は、1冊でたくさんの作家さんの作品に触れられること。そして作家さんごとの個性、魅力を味わえることにあると思います。
なので気になる作家さんがいる方も、そうでない方も。
ぜひぜひ、読まれてみて下さい!
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました!