tsuzuketainekosanの日記

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読書感想文をお送りします~『クローズドサスペンスヘヴン』

いや、他のお馬さん、騎手の方には大変、大変、失礼な話なのですが。

『格が違う』と言う言葉をまざまざと見せつけられたような。

そんな昨日のオークスでしたね。

『あっれ?リバティアイランド以外、皆、掛かった?』と思ったくらいの、そんなことを思ってしまうくらいのリバティアイランドの、あの驚異的な末脚よ。

凄かったですよねぇ~。競馬見るようになって初めてじゃないかな。あんなにも圧倒的な大差がついての1着って。圧巻の一言だったわ。

いやぁ、凄かったなぁ。強いなぁ。

 

てなことで本題です。

 

1が付く日にお送りしている読書感想文ですが、昨日は公休。

なので1日遅れの本日、お送りいたします。

 

今回、読書感想文をお送りするのは五条紀夫さんの『クローズドサスペンスヘヴン』でございます。

こちらの作品は第9回の新潮ミステリー大賞の最終候補作です。

 

新潮ミステリー大賞は、その名の通り、新潮社が主催するミステリー小説の賞です。新潮社が主催する、ミステリー小説を主とした賞は日本推理サスペンス大賞、新潮ミステリ倶楽部賞、ホラーサスペンス大賞と変化を遂げてきたのですが、その最新の形としてあるのが新潮ミステリー大賞と言うわけです。

先程も書いた通り、去年、2022年度で9回目。まだまだ賞としての歴史が浅いのはそういう事情もあってのことなのです。

 

で、その2022年、大賞に選ばれたのは寺嶌曜さんの『キツネ狩り』と言う作品でした。本作品は3月に単行本として刊行されたのですが、この作品に負けて惜しくも大賞受賞とはならなかった。が、その面白さを買われて文庫として刊行されたのが、今回の『クローズドサスペンスヘヴン』と言うわけです。

 

・・・ぶっちゃけ、手を伸ばしづらい単行本より、手が伸ばしやすい文庫本で刊行された方が、作家さんのお名前や作品の認知度を広めると言う点においては有利、作家さんとしては嬉しいんじゃなかろうか。そんなことを思ったのは私だけではあるまい。

それに文芸賞に限らず、賞と言う賞全般にはよくあることですからね。

 

大賞を受賞した人よりも、最終選考まで残った無冠の人の人がブレイクするって言うの。ふふ。

 

ちなみにこの新潮ミステリー大賞の最大の魅力は、最終選考まで残った作品はすべて映像化されるチャンスがある、と言う点です。

大賞受賞作の『キツネ狩り』、私は読んでいないので何とも言えないのですが、ジャンルで言えば警察小説とのこと。なので何と言うか『あぁ、何か2時間ドラマに向いてそうな感じ』と言うイメージを勝手に抱きました。

一方、この『クローズドサスペンスヘヴン』に関しては・・・と言うのは、これからの感想の中で書いていきたいと思います。

 

てなことで早速、まずは本作品のあらすじです。

一言でこの作品を表現するなら『特殊設定ミステリー』です。間違いなく誰かに殺された。その鮮明な記憶と共に目を覚ました『俺』の目の前に広がるのは、美しいリゾートビーチ。そして西洋館。

その館には『俺』と同じく、何者かに殺害されたと言う記憶だけが確かな6人の男女が集っていました。

話を進めていく内に6人の望みは『自分たちが殺害された事件。その真相を知ること』であることが明らかになります。そしてその真相を知った時こそ、自分たちはこの世界、恐らくは『死後の世界』であり『天国』とも呼ばれる世界から解放されるのだろうと悟った6人は、自分たちの死の真相。それについての推理を繰り広げていくのですが、と言うお話です。

 

登場人物は6人。しかしそもそもとして誰が誰なのか、どんな名前だったのか。それすらも誰も覚えていないと言う本作品。『確かに誰かに殺害された。首を切られて殺害された』と言う記憶だけが確かと言う有様。

正確に言うと、ちょっとネタバレにはなってしまうのですが『覚えていない』と言うよりも『思い出すのを拒んでいる』と言う人もいるのですが、とにもかくにもそんな設定で繰り広げられる推理。

しかも頼りになるのは、毎朝、律儀に、姿なき何者かによって届けられる新聞に書かれている情報。そして各々の、あまりにも朧げ現世での記憶のみ。それらが正確な情報なのかどうか、それを判断する術すら持ち合わせていない状況なのですが、いやいやこれは作者さん。あまりにもミステリーを書くにあたって自縄自縛が過ぎやいませんか、と私は思ったのですが。

 

それでもひとつひとつの謎が解きほぐされていく、その推理の過程はめちゃくちゃ丁寧なのが、とても印象に残っています。

何と言うか。性急さが少しもないんですよね。いや、物語の構成上の性急さみたいなものは勿論あるんですよ。あるんですけど、推理の展開。それにおいての変な性急さ、無理矢理な部分みたいなものが、驚くほどに少ない印象と言うか。

圧倒的に情報量が少ない。だからこそ、綱渡り的な推理も決して急がせない。そこで間違いがあったとしても、それすらも『真相』に近づくための手段として利用する。そんなお約束感もばっちりあって、とても好感が持てた、そんなミステリー作品でございました。

 

ただし、です。

先程も書きましたが本作品『特殊設定ミステリー』です。具体的にどのあたりが特殊なのかと言うと、たとえば一度、誰かに殺されて蘇った登場人物たちが、また死んで、しかし気合を入れた結果また蘇ると言うことが、割と平然と起きたりします。その逆も然り。あるいは登場人物の思いの強さみたいなもの。それが大いに物事に影響をもたらしていると言う部分もあります。

このあたりの描写、特に、また死んだ登場人物が気合で蘇っちゃった!と言う流れは、独特のダークなコミカルさすら感じさせて面白いことには面白いのですが。

一方でそれで明らかになる事柄と言うのは、『そうか。でもこれって、普通の設定のミステリーだと明かされないままなのかもしれないんだよね』と言う気がしなくもなく、その辺りは人により好み、評価が分かれるところかもしれないな、と言う気はします。

 

『特殊設定ミステリー』らしく、実にその設定、殺された人間たちが蘇った天国らしき場所。強く願えば、物品だってわいてきちゃうよ!死んでも気合で蘇っちゃうよ!と言うような特殊設定っぷりをいかんなく生かした作品なわけですが、あまりにもその設定が特殊過ぎる感は否めない。

なのでその辺り『苦手そう』とか『ミステリーとしてフェアじゃない!』と思われる方は、事前情報として頭に入れておかれるよろしいかと。 

 

ただ先程も書きましたが、この特殊設定が、『全員もう死んでる』ミステリ、と出版社からの宣伝文句、その響きから受ける『笑っていいんだかどうだかわかんないラインギリギリをついている、ダークさすら漂わせる、なのにからりとした明るさ』みたいな雰囲気。非常に独特な、個性的な味わいになっているのも確かです。

 

皆、誰かに殺されている。その記憶だけは確か。それ以外の記憶は曖昧。自分が何者だったのか。その名前すら思い出すことができない。

ここはどうやら天国、らしい。真相を明らかにしない限りは、ここから解放される、脱出する術はないようだ。

そんな真剣に考えたら気が狂いそうになる絶望的な、お先真っ暗な状況に置かれている登場人物6人なのですが、それでも彼ら、彼女らの生活、やり取りに何とも言えない面白みみたいなものが感じられるのも、間違いなく、この設定だからこそだと思います。

飄々としている。でもその飄々さにはダークでシニカルな笑いも滲んでいる。でもやっぱり、どこかそれすらも開き直ってしまっているような面白みもあって、開き直ってしまっているからこそ『笑っていいのかよ、これ』と感じさせる部分もある。

 

このあたりの作風の作り方、そしてその描き方には、作者さんの手腕を感じさせられたなぁ。五条さんは、ネットで見た限りだと、これがデビュー作?なのかな?でも文庫本の紹介では『小説家』と書かれてあったから、多分、作家として活動されている方っぽい気もするんだけど。

 

はい。で、こうした独特の雰囲気、コミカルさがあるからこそ、物語の終盤。

6人が殺された事件の真相。あるいはそれを通して明らかになる6人、1人1人の正体。その流れの緊迫感たるや実に読んでいてスリリングだったし、驚きがありました。

ネタバレになっちゃうかもしれませんが『思い込み』を利用したトリック、そこからくる驚きがあったのもお見事だったし、私としては『何故、自分たちは殺されたのか』と言う真実。いわば犯人側からすれば動機の部分ですね。それが最高に痛快で、だけど殺された側からしてみれば、まさに『はっ?』と突っ込みたくなるようなそれだったのも、最高でした。うーん、クレイジー。でもどうしようもなく一途。

 

真相が明かされた後には、1人1人の登場人物がこの世界から解放されていく、消滅していく。そのシーンが描かれるのですが。

このシーンが、多分、あえてだとは思うのですが、それほど長く描かれていないのも、実にこの作品らしいなぁ、と感じました。

どの登場人物が消えていくシーンも、実に切ないんですよ。1つ、1つの灯が、ぽつ、ぽつと消えていくような。そんな寂しさが胸を覆っていくシーンなんですよ。でもそれがあえて短く描かれていることで、感動が強要されていない。最後の最後までこの作品らしい持ち味が守られているようで、この辺りにも私は作者さんのうまさを感じました。

もっとここのシーンを長くとれば、あるいは『お涙頂戴!』にできたかもしれない。でもそうはしなかった。そのことで逆に、いろいろあったけれどにぎやかで、変な楽しさに彩られていた6人の天国での生活。それが際立って思い出されて、一層、切なさが募ってくるんですよね。

 

そんなはずはないのに。そうだとしたら、それはそれこそ『救い』ではなく『呪い』でしかないだろうに。

それでももしかしたらまたこの6人は、目を覚ました次の瞬間には『あれま』って感じで再会しているんじゃないだろうか。

そんな淡い希望すら抱きたくなるような切なさが。

 

そして物語のラスト。

ここの描写は、実に美しく、また本当に胸が締め付けられるような思いがするものでした。これは是非とも映像で見てみたいなぁ。願わくばテレビの画面でと言うよりは、スクリーンの大画面で。

 

てなことでこの作品。特殊設定ミステリーでありながら、独特の雰囲気が魅力的な作品でありながら、お話としてははなはだ地味。とにかく地味。閉ざされた空間で、少ない情報を頼りに推理を繰り広げていくと言う、ある意味、ミステリーらしい作品です。

なので仮に映画化されたとしても、どんだけ豪華なキャスト陣を揃えたとしてもヒットは難しいと思うんですけど・・・でも私は、このラストシーンだけでも、映像で、大きなスクリーンで表現されて欲しいなぁ。そしてそれを見たいなぁ、と痛切に思ったのでありました。はい。

 

でも登場人物。いずれも個性的だし、このあたりのキャスト陣を考えるのは楽しいかもしれない。ふふ。

 

そんなこんなで本日は、新潮ミステリー大賞、惜しくも受賞は逃したものの最終候補作まで残った。その結果、比較的、手が伸ばしやすい文庫として刊行され、おまけにその帯には宮部みゆきさんと道尾秀介さんによる推薦文まで付けられていると言う、ある意味、大賞受賞作よりも好待遇で刊行された『クローズドサスペンスヘヴン』の感想をお送りいたしました。

 

いやいや。でもそうは言っても、五条さんは勿論のこと。大賞を受賞された寺嶌さんのブレイクも期待おりますよ!

ってか今、調べてみたら寺嶌さんの『キツネ狩り』も、どうやら特殊設定、と言うか、特殊能力設定のあるミステリーなのね。成程。

特殊設定、特殊能力のミステリーって、ほんと諸刃の剣なんですよね。それがあますことなく活かされていれば最高なんですけれど。

『・・・?別にこれ、この設定じゃなくてもよくない?』とか『ふむ。主人公の特殊能力、どこで活用されたんだ?』と言う感じだと、もうミステリー云々以前の問題。作品そのものとしての面白みが一気に半減しちゃう気すら、私はしてしまうのです。

 

しかし新人(かどうかはちょっと不明ですが)さんでありながら、こうして文芸賞の大賞を受賞されたと言うことは、やはり『キツネ狩り』も相当、完成度としては高いんだろうなぁ。

・・・ハードカバーでなけりゃ買うんだけどな。

ほら、やっぱり文庫本で刊行されることの強みよ!

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!