tsuzuketainekosanの日記

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1が付く日なので読書感想文の日~『爆弾』

なんとびっくり!

連休だったのに、ブログのストック、結局1つしか作らなかったよ!

2日間もあったのに何をやってたんだ!

簡潔に言うと寝てた。

寝てた(どーん)

 

はい。てなことで1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。

本日、お送りするのは呉勝浩さんの『爆弾』です。

 

こちらは第167回の直木賞の候補作でもあります。

ちなみに。

直木賞、同日に発表される芥川賞、全10名の方がノミネートされているのですが、その内の9名が女性だと言うことで、発表された時にはちょっと話題になりましたね。

まぁ、性別で候補作が選ばれたわけで無し、そんなので選ばれても、話題になっても、候補作の作者の方はなにひとつ嬉しくはないことでしょう。またそもそもとして、そう言うことが話題になること自体が『どうなのよ』と言う意見もあるようですが。

 

いずれにしても全10名の候補者さんの内、9名が女性。

男性は残るおひとりのみと言うことで、そのおひとりが呉さんでございます。

 

てなことで『爆弾』です。

こちら4月に刊行されて以来、めちゃくちゃ話題になっているという感触が個人的にはあるのですが、成程、それも頷けるほどの面白さでした。

 

まずは簡単なあらすじから。

些細な、しごくありふれた傷害事件で野方署に連行されてきたのは、何とも冴えない見た目の中年の男だった。男の名はスズキタゴサク。

酔っ払いが、酔いに任せてくだらない事件を起こした。スズキの取り調べに応じた刑事、等々力はそうタカをくくる。しかし取り調べのさなか、スズキはある時間、ある場所で爆発が起きると口にする。果たして直後、スズキが口にした時間になったと同時、スズキが口にした通りの場所で爆発事件が発生する。

混乱する等々力たちを前に、スズキは更に新たな爆発事件の発生を予言する。

こうした警察VSスズキの戦いが幕を開けた、と言うのが本作の簡単なあらすじです。

 

で。

物語は取調室で繰り広げられる警察の人間とスズキの、息詰まるような、緊張感あふれる攻防戦を描きつつ、スズキの言葉で予言された爆発を防ぐべく、またその真相を探るべく奮闘する刑事たちの姿を描いています。

 

めちゃくちゃ面白かったです。

いや、もうぶっちゃけ、最後の方なんかは『どうなるの!ねぇ!(半ば逆ギレ)これどうなるの!』と続きが気になって仕方がないあまり、ラストページの方をチラ見して結末を先んじて知ってしまうと言う暴挙、しかし私にとってはあまり珍しくない、むしろ私にとってはこの行為こそ『それくらいに面白いってことですよ!』と言う賛辞を贈りたい行為であるそれに(笑)出てしまったくらいです。

どちゃくそ面白かった。うん。

 

アマゾンのレビューなどで見る限り、賛否両論、『面白かった!』と言う方と『それほどでもなかった』と言う方にきれいに分かれているような気がするのですが、それもわかる。

物語の大半は、先ほども書きましたが取調室での攻防。警察側の人間とスズキの会話、倫理観の応酬や、読んでいる側にとっては『?』が続くようなクイズのようなやり取りが描かれています。

なのでその辺りは、確かに警察が地道に、汗水たらして爆弾犯を追いかける、そう言う物語を展開されていらっしゃる方にとっては苦痛かもしれません。

 

が。

私はこのやり取りこそがもう、めちゃくちゃ面白かった。

何故か。

 

ひとつはとにかく取調室と言う、ある意味、密室と化した場所で繰り広げられるその攻防、言葉の応酬、それによって相手の精神力を削っていく静かで熱い戦い、その緊張感がひしひしと伝わってきたから。

それからその中で語るスズキの倫理観や人生観と言うのが、とてもじゃないけれど他人事とは思えなかったから。私にとっては共感できるものもあったから。

またそのスズキの言葉に相対する警察側の人間、その心中にあったはずの倫理観や正義、そうしたものが揺さぶられる様も手に取るように感じられて、そこもめちゃくちゃ面白かったから。

そしてミステリとしての展開、スズキの予言は本物なのか。爆発を起こしているのは誰なのか。連続爆発の裏側にある真相は何なのか。そうしたことも少しずつ少しずつ、スズキとのやり取りの中で警察側は掴んでいく、その流れがたまらなくスリリングで快感だったから。

取調室と言う密室で起きていることが、しかし外の世界、そこで奮闘している刑事の命運をも大きく左右する、その流れも臨場感があって素晴らしかったから。

 

取調室と言う限られた場所が舞台だからこそ、こんなにも緊迫感のある、静かで、時に刑事側からすれば逃げ場のない絶望感すら切迫してくるほどの物語が描けるのか。

しかしそれをここまで飽きることなく読ませる、ぐいぐいと読者を取調室に引っ張り込むように描く、その筆力、構成力はお見事としか言いようがないのですよ。ええ。

 

で、また、登場人物も、実にいろんな意味で魅力的な人間ばっかりと言うのも、面白かった理由のひとつです。

 

まずはこの作品の、もはや主人公と言っても良いでしょう。次々と爆発を予言し、刑事たち相手に堂々たる論戦を繰り広げる冴えない中年男、スズキタゴサク。

その容貌や表情が頭の中でも容易に想像できる、そんなふうに描かれているんです。で、最初はその想像から来る思い込み、偏見から『ほんと、何言ってんだこのおっさん』『冴えないなぁ~、ぷぷ』、そんな印象しか抱かないのです。

 

ところがじょじょにじょじょに、その印象は変化してくる。スズキが口にする身勝手な、偏った倫理観、人生観、道徳や正義に対しての話、言葉に、共感してしまっている自分がいる。あるいはそれに強く反発しつつ、しかし同時、揺さぶられてしまっている自分がいる。

だって私もそうだったもん。そうだもん。私なんてもう、スズキの語る言葉の大部分に共感しちゃってたもん。

 

またその話術。のらりくらりと相手をかわすようで、いつの間にか相手の懐に近寄ってきていて、相手の喉元に刃物を突き付けているような話術。

そうしたものが露になってくるにつれ、スズキに対してある種の畏れや、何と言うか、カリスマ性のようなもの。そんな感情すら抱きかけてしまうのです。そうしてそうしたものを感じつつ、またスズキに対してチャーミングさすらをも感じる。

その得体の知れなさは一体、何なのか。『本物』なのか否か。否、そもそもそんなことは重要なのか。

ただの冴えない中年男、近くにいたら絶対、顔をしかめたくなるような、距離を置きたくなるような中年男でしかなかったはずのスズキタゴサクのことを『知りたい』と思い始めている自分がいる。

そんなキャラクター造形、そして見せ方が、魅せ方が、本当に巧いのです。

 

そして警察側の人間。

何と言っても清宮と類家ですよ!女子は絶対このふたり好き。好き(断言(笑))。

清宮はロマンスグレーの中年男性。冷静沈着、その裏には圧倒的な自信を秘めている。もう典型的な特殊班エース!プライドの高さがたまらない!そんな人間なのです。彼はスズキを確実に落とすことができる、その自信を胸に、スズキと相対することになります。

更に彼の部下である類家。小柄で天然もじゃもじゃパーマ。体に合っていない大きめのスーツ背広に真っ白なスポーツシューズ。丸眼鏡。童顔。野暮ったいことこの上ない見た目でありながら、過剰すぎる知的好奇心、快楽主義的傾向、事件に関係する人間に対して心情的共感の欠落が目立つと言う、またこれ、何ともたまらん人物なのですよ。可愛いよ、類家、可愛いよ類家。

彼もとある出来事があってから、スズキと論戦を繰り広げることになるのですが。

 

ふふ。

たまんないよね。

圧倒的自信とプライドに満ちたインテリが闇落ち寸前まで追い詰められて、崩れていく様、たまんないよね(盛大なネタバレ)。

そして見た目ほわほわの童顔、でも中身、超絶やばいやつが、そのやばさの片鱗を覗かせつつ、ある種、自分に似た怪物を相手に戦っていく様、たまんないよね。

 

清宮と類家、それぞれがそれぞれの手法でスズキに迫っていく。そしてその中でスズキの言葉に、話術に、自らの信じる正義、道徳を揺さぶられるわけなのですが・・・その後の姿が実に対照的なのも、見どころのひとつかと思います。

 

ってかホント、女子は好き。絶対この2人、好き。何ならもう『類清』と呟かずにはいられないくらいには好き。

好き(やめなさい)

 

ちなみに。私の中で清宮のCVは櫻井孝宏さんでした。そして類家は『イメージとしては絶対、違うんだけどなぁ』と強く思うのに、なぜか自然とCV浪川大輔さんで再現されていました。うーん、でも浪川さんじゃないんだけどなぁ。うーん(苦笑)

 

それから取調室の外で奮闘する刑事、倖田と矢吹の元気いっぱいコンビも、読んでいて応援したくなるんですよね。うん。このコンビには中盤、胸が辛くなるような展開が襲い掛かってきて、そこからどんどん、どんどんと深みにはまっていってしまう倖田の姿が、もう読んでいてめちゃくちゃしんどかった。

スズキの画策によって、やはり自らの信じていた思いを強く揺さぶられた倖田。その結果、自暴自棄の極みに陥ってしまう倖田がどうなるのか。そこも物語として、めちゃくちゃ胸熱なのも良いっ!

またこの2人、特に矢吹と深い関係にある伊瀬。取調室でその内容を記録する位置にありながら、スズキの甘言に取り込まれてしまう彼も、その人間的な弱さ、刑事としてのプライドの高さみたいなものが魅力的な人物であります。可愛いな、君も。

 

そして、最初にスズキと相対した等々力です。

等々力は結局、スズキの取り調べからは外され、爆発事件の真相を追う役回りに徹するのですが。

スズキは初期の段階から等々力に対して『あなたが気に入った』『あなた以外とは何も話したくない』と口にする。

そして類家は『じゃんけんの相性のような問題』と言うたとえで、等々力がスズキの取り調べを相手することには何も期待できないと断じる。

何故か。スズキと類家。ある種、似た者同士である2人が、等々力に対してここまで口にするのは何故なのか。

その理由も物語の最後の最後に明かされるのですが・・・これもまた、実に痛快と言うか、考えさせられるんですよねぇ。

そしてスズキにそれを指摘されて、それを認めた等々力がスズキに返した言葉。

その一言と言うのも、もうめちゃくちゃかっこよかった。かっこよかったし、何と言うか結局のところ、等々力が口にした言葉、その通りに思うこと、自分にそうだと言い聞かせること、たとえ嘘だとしても自身でそう言い聞かせることで自分を騙し続けることしか、手段はないのだろうな、と思ったりしました。うん。

 

本作のタイトル『爆弾』なんですよね。

『爆発』じゃない。『爆発』という動詞じゃなくて『爆弾』と言う名詞なんですよね。

それがもう、この作品にめちゃくちゃぴったりで、当然のことなんですけど『よく考えられた、シンプル極まりないのにこれ以上ないと言うほどに作品の内容を表現しているタイトルだなぁ』と強く感じさせられたのです。

 

爆弾は、ただそこにあるだけでは爆発しない。

何かしらのスイッチが入る、きっかけが起きる、そう言う外部からの動作、揺さぶりかけがあって初めて爆発する。

 

本作の登場人物。警察と言う、ある意味、正義の頂点にあるような組織(ま、勿論、現実はそんなこと全くないんですけどね、と言うツッコミはとりあえず置いておいて(汗))に属している人間たちは、スズキタゴサクと言う人間の言葉、態度、表情、その存在、全てに強く、強く、揺さぶられていきます。

そしてそれは、この物語の読者も同様です。

そうして揺さぶられ、ぶわっ、と自らの胸の中で膨らんで弾けて飛び出していきそうになる、形容しがたい感情の正体こそ『爆弾』なんだろうな、と。

私は、物語を読み終えて感じました。

 

誰の心にも『爆弾』は潜んでいる。

ネガティブな感情、口に出すのもはばかられるような感情。スズキタゴサクが口にしたような、あるいは類家が口にしたような感情。倖田が噴出させた感情。等々力の胸の中にあった感情。

そうしたものは誰の心にも、絶対に存在している。

そう言う言い方をすると『そんなことないわ!』『こんなサイコパスと一緒にしないで!』と否定される方もいらっしゃるとは思うのですが、でも、私は逆に、自らの中のそう言う感情を頑なに否定すること、『私』と『あいつ』が一緒なわけがない、と思い込むことこそ、それこそ危ないことなんじゃないかな、とも思うのです。

 

そう言う感情は、その『爆弾』は人間であれば誰しもが持っている。

その上で、じゃあ、それを爆発させないためには何が必要なのか。

 

『人といふ人のこころに 一人づつ囚人がゐて うめくかなしさ』

物語の終盤にスズキが口にするこの名言。

かの有名な歌人の残したこの言葉が、この作品に登場する意味、そしてそれをスズキタゴサクと言う男が発したことの意味は、考えれば考えるほど深く、重いようにも感じられるんですよねぇ。うん。

 

なんだろ。あくまで個人的見解ですが。

多分『自分は公明正大、正義感の強い人間だ!不特定多数の人に対して、あるいは特定の相手に対して、ネガティブで残虐な感情なんて抱いたこともない!』と言う方ほど、この作品に対しては強い嫌悪感を抱かれる、あるいはつまらないと言う印象を抱かれると思います。

だけどそれこそ、私は『あなたの中の『爆弾』が揺さぶられている証拠だよ』と思うのです。

 

反対にスズキの言葉に、思想に共感を抱く部分もめちゃくちゃ多々あった(具体的にどこにと言うのは、ご想像にお任せします(笑))私のような方にとっては、この作品は、自らの『爆弾』の存在を明確にしてくれる一冊であると同時、だからこそ、ある種の爽快さすら与えてくれる、そんな作品だとも思います。

なので小説である以上、それが当たり前なんだけれど、この作品に関してはことさら、読んだ人によって抱く感情が大きく異なるんじゃないかな、とも感じたり。

読み終えた後、やんややんやと語り合うのも楽しそうですな。

 

『爆弾』は誰の心にもある。

それをどう受け止め、受け止めながら生きていくか。

そしてそれを爆発させないためには、何が必要なのか。

そのストッパーとなり得るのは、何なのか。

 

なんだろ。

俗に言う『無敵の人』と呼ばれる人による不特定多数を相手にした殺傷事件が後を絶たない現代だからこそ、このことを考えるのはとても重要なことなんじゃないかな、と思ったりもしたのですが。

 

まぁ、そんな堅苦しいこと抜きにしても、とにもかくにも個人的にはめちゃくちゃ面白かった、毎日、夜、寝る前だと言うのにページをめくる指を止めるのが難しかった、そんな作品でございました!

 

てなことで本日は直木賞候補作の1作でもある『爆弾』の感想をお送りいたしました。

直木賞及び芥川賞の発表は7月20日、あともう少しですね。

呉さんにとっては直木賞候補作に挙げられるのは、今回で3回目ですか。

三度目の正直となるか!?

発表が楽しみですな。

 

ってか仮に受賞とならなくても、なんだか映画されてもおかしくないような。

それほどの勢いのある作品だと思いますので、ぜひぜひ未読の方は読まれて下さい!

 

はい。

てなことで本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!