私がこの人を初めて知ったのは『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』と言う作品です。特撮出身の方とは知らず『こんなクセのある役をめちゃくちゃ生き生き演じられて。素敵な若手さんだなぁ』と思っていて。だから実は声優が本業ではない方と後に知った時には、めちゃくちゃ驚かされた覚えがあります。
本作品で共演されていたある声優さんが『声優が本業じゃない人にこんな素晴らしい演技をされちゃったら、私たち声優はおまんま食いっぱぐれちゃうと思った』とラジオでこの方の演技を絶賛されていたのを、昨日のニュースを聞いてふと、思い出しました。
勿論、何と言うかリップサービス的な部分もある発言だったのだとは思いますが。
でも色んな作品でこの人の声優としての演技に触れてきた私としては『声優としても、本当に魅力ある役者さん』と言う印象が確かなのです。
何やってるんですか、池田純矢さん・・・。
『さん』付けはおかしいんだろうけど。
ほんと・・・残念だなぁ・・・。残念だ・・・。
てなことで本題です。
10月も本日で終わり!明日からは11月!今年も残り2か月。
ってかもう実質、今年も終わったようなもん!(気が早すぎる)
はい。そんなこんなで末尾に1が付く日なので読書感想文をお送りします。
本日お送りするのは東野圭吾さんの『あなたが誰かを殺した』です。
ネタバレはしてません。直截的なネタバレはしていませんが、読む方が読まれたら『これはそう言うことなのでは』と思われる、匂わせ的記述はしています。
なのでそう言うのがイヤと言う方は、どうか今すぐ、画面を閉じてください。
お願いいたします(ぺこり)
こちらは東野さんの人気シリーズ、刑事・加賀恭一郎が様々な事件の謎を解く『加賀恭一郎シリーズ』の最新作でございます。
こちらのシリーズ、テレビドラマや映画化もされているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
加賀恭一郎を演じていらっしゃるのは阿部寛さん。
最初、阿部さんが加賀刑事を演じられる、と知った時は『少しイメージと違う気がしないこともない』とも思ったのですが。
阿部さん自身、とても好きな役者さんであること。また切れ者ではあるが、決して状に薄い人物ではなく、犯罪者に対してもやさしさ、思いやりを持って接することもある。そんな加賀刑事を阿部さんが自然に演じていらっしゃったのを見て『うん。加賀刑事を演じて下さるのが阿部さんで良かったよ!』と思った次第です。
さて。本作品のタイトル『あなたが誰かを殺した』は実に印象的なタイトルではありますが、シリーズ内にはこちらと似たタイトルの作品が2作品あります。
まずは『どちらかが彼女を殺した』です。何者かに殺害された妹。その復讐を誓う兄と、その兄の復讐を止めようとする加賀刑事。
そしてもう1作が『私が彼を殺した』です。脚本家が殺害され、容疑者は3人に絞られた。事件後、3人は『私が彼を殺した』と述懐する。
この2作品の大きな特徴は作中で犯人の名前が明かされないと言う点にあります。
まぁ、ネット全盛のこの世の中。検索をかければ一発で犯人は誰かと言うのは知ることができるのですが(汗)
しかし是非とも、自分の中の推理力をフル動員させ犯人当てにチャレンジして欲しい。その楽しみを味わうことができる作品だと、私は思います。
ではでは。今回の『あなたが誰かを殺した』ではどうなのか、と言いますと。
結論から言うと犯人が誰であるかは明らかにされます。
が、そこにひとひねり、ふたひねり、謎解きの妙が加わっていること。更に最後には、このタイトルの意味に対して『そう言うことだったのかぁ!』と衝撃すらともなって響いてくること。
そこにミステリー作家、東野圭吾さんの計算され尽くした構成力、技巧力の凄まじさを改めて見せつけられたような思いがした、そんな作品でした。
ではでは、本作品の簡単なあらすじを。
8月の別荘地に、様々な家族が集う。彼らは毎年、夏にこの別荘地に集い、バーベキュー・パーティを開催する、と言う習慣があった。
そして今年も例年通り、その催しは開催される。
無事、バーベキュー・パーティも終了した矢先、思いがけない事件が彼らを襲う。
容疑者は逮捕されたものの、事件の裏側にあるのであろう真相を知りたいと、事件に巻き込まれた家族たちは自分たちで謎を解き明かすため、検証会を開くことに。
そしてその場には、被害者家族の1人が頼った加賀刑事の姿もあり、と言うお話です。
無差別殺人の犯人は物語の序盤で早々と明かされます。
ただ肝心なことはなにひとつ話さない。
そこで遺族たちは検証会を開くわけですが、そこに加賀刑事が参加したことで様々な謎が浮かび上がってくるのです。
その謎、ひとつひとつに対して、事件に巻き込まれた人物たちの会話。ほぼほぼそれだけを頼りにして推理を組み立てていく加賀刑事の頭脳が、今作品も冴えに冴え渡っています。
『成程。そう言うことだったのかぁ』と、ひとつひとつの謎に対しての答えが、ちゃんと筋道通っているのが、論理的であるのが凄い。
そしてその結果、ひとつの推測が導き出されるのです。
それは『犯行を自首した青年には、共犯者がいた』と言う推測です。
で、ここで効いてくるのがタイトル『あなたが誰かを殺した』と言う文言です。
少しネタバレにはなってしまいますが、この文言。実は検証会に参加することになった人物たちに対して送り付けられてきた書簡。その中に綴られていた言葉なのです。
そしてここから、バーベキュー・パーティに集っていた家族。そのそれぞれが抱えていた様々な事情、思惑が明らかにされていきます。
この辺りは序盤でもあからさまに描かれていた部分でもあるのですが。
バーベキュー・パーティに集った家族。1家族を除いては、皆、いわゆる社会的に成功している人たち、また社会的ステータスが高いと言われている職業に就いている人たちが主なのです。
だから、と言うのも変ですが。その余裕からか。はたまた『だからこそ惨めなところは見せられない』と言うプライドからなのか。
表向きは皆さん、めちゃくちゃ物腰が低く、優雅な人付き合いをしていらっしゃるんです・・・思わず尊敬語になっちゃったよ(笑)
でもね。言うて所詮は人間だもの。裏ではそりゃもう、どろっどろの本音を抱えて、それをあけすけに愚痴りまくっている。また決して明るくはない、きな臭い事情も抱えている家族もおり、いわば家族同士、家族の中でも『狐と狸の化かし合い』が繰り広げられているところもあるくらいなのです。
検証会に参加した加賀刑事によって、そうした内情。あまにもグロテスクな内情が明らかにされていくのですが、この辺りは読んでいてめちゃくちゃ痛快でした。鬼か。
いや、でも、そんなもんでしょうよ。人間同士の付き合い、関係性なんてこんなもんですよ。こんなもんでいいんですよ。そのぐちゃぐちゃの本音を、それでもうまーくごまかしながら、隠しながら、発散させながらやっていくのが『お付き合い』ってもんなんですから。
それぞれの家族の内情。それぞれの人物の本音。それが明らかにされた結果、酷な言い方ではありますが『殺されても仕方ないと思われても仕方ない』、そんな人物がいたことも明らかになります。
だからこそ加賀刑事は一層、青年は誰かにそそのかされる形で犯行を実行したのではないか。そんな推理を組み立てていきます。
で、その結果として青年をそそのかし、その青年の犯行に協力する形で自分も殺人に手を染めた犯人の名前が明らかにされるのですが。
これは正直、意外であり驚かされたなぁ。でも・・・あんまり詳しく書くとネタバレになっちゃうのですが。その犯人が犯行に走った動機。青年をそそのかした動機と言うのは、いわば社会的ステータス、成功を保つための体裁を守るためにとられ続けた行動。そこから生まれた物だと言えなくはなく。とは言え、同時・・・あー、これ以上はネタバレになっちゃうから黙っておこう。黙っておくけど。
○の立場と○の立場、○○と○○とでは、やっぱり考え方も違うからなぁ。責めたくなる気持ちもわかるけどやるせない一面もあるよなぁ、とか思ったりしたのですが。
まぁ、でもちゃんと○の世話をしていなかったと言うのは、万死に値すると思います!
そしてこの犯人と青年との接点。青年が何故、この犯人にそそのかされ犯行に走ったのか。この辺りは一昔前では考えられないような、現代社会だからこそのリアリティを感じさせられました。
かくして事件の真相は明らかになり、めでたし、めでたし・・・かと思いきや。
それでもなお加賀刑事は謎が残っている、と言います。
ここから、いわゆる『どんでん返し』的な真相が明らかにされるのですが。
ここは確かに驚かされた。
驚かされたのですが、えっへん。私は何となくではあるが『この人、怪しいぞ』と疑いを抱いていたので、正直、驚きよりも『ほら、やっぱり~』としたり顔でした(笑)
なんだろ。加賀刑事とこの人の会話。あるいはこの人がある人とある人物に対して話しているシーンの、そのところどころに『ん?』と引っかかるような記述があるように感じられたからです。
『それは額面通りに受け取るとアレだけど、穿ったとらえ方をすると『ん?』って感じの意味にならないかしら』ってな具合です。
だから『やっぱりなぁ~』と感じだったのですが、それでもこの真相。
しっかりと筋道立てて、論理的な推理を組み立てて謎解きした挙句、それでも残った謎に対しても、やはり『これが唯一無二にして、最も可能性が高い答えである』と言う推理でもってしてこの真相を持ってきた、と言う。
その流れの組み立て方が、もう天才か、と。
いや、こんなの本作品に限った話ではないのですが。他の作品も、東野さんの作品は常にこんな感じなのですけれど。
本当に緻密な計算式、それを感じさせるくらいなのですよ
自首した青年をそそのかした真犯人に関しても。そしてその後に明かされた更なる真相に関しても、驚きはある。だけどその驚きに無理がない。
『確かに。それが最も合理的で筋の通る、たった唯一の可能性だよな』と言う納得感しかない。
そこに何度も言うようですが驚かされるし、敗北感すら抱くし。
でも同時『おのれ・・・本作品も作品において絶対的な神である東野先生の掌の上で転がされたわ』と悔しい思いも抱くと言う(笑)
ただそうした極めて冷静な、冷徹さすら思わせるような計算高さ。緻密さがトリックとして炸裂している一方、そこにこのシリーズならではの『人間の心』と言うもの。
極めて明確な言葉では表現することが難しい『人間の感情』と言うもの。そうしたものがしっかりと絡められているのも、意味を持っているのも魅力的なんですよね。
『あなたが誰かを殺した』
その言葉が意味する、ある人物の行為。
そこに秘められていた、どうしようもない感情。
苦しみ、絶望、怒り、悔しさ、虚しさ・・・どの言葉にも該当するようで、でもどの言葉に限定してしまうのも違うような、その人物の感情が、ただただ胸を締め付けるようなのですが。
その一方・・・これはネタバレになっちゃうから書けないな。
書けないけど。
まぁ、あの、うん。
加賀刑事が出てきた時点で、運の尽きだったと思うよ!
シリーズではおなじみのあの人の善意が、仇になっちゃったね!
はい。そんなこんなで本日は東野圭吾さんの『あなたが誰かを殺した』の感想文をお送りいたしました。
東野さんの作品はミステリーでありながら、緻密さを感じさせながらも、決して難しくはないのがひとつの特徴だと思います。
また文章も、良い意味でクセがない。文体もめちゃくちゃ読みやすく、必要な情報もと登場人物たちの繰り広げる会話で自然に描かれているので、本当に読みやすい。
なのでこの作品、『加賀恭一郎シリーズ』は勿論のこと、それ以外の作品、シリーズも本当におすすめなのです。
ミステリー初心者さんにこそ、手に取っていただきたいわ!
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました!