嶺内ともみさん、年内で廃業、声優業から身を引かれると言うことで。
いや、驚いた。
理由などは明かされていませんが、どうかポジティブな、言い方は何ですけれど明るい理由であることを切に願うばかりです。
てか『廃業』って発表が、とても気になります。
声優業を廃業。何だろ、この何か含みを持たせているような感じ。そう感じるのは私だけではないはずだと思うのですが・・・。
そんなこんなで本題。
1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。
ちなみに。
ミステリーファンの皆様、『このミステリーがすごい!2023年版』の予約が、アマゾンで始まっておりますことよ!
今年の表紙は、なんと『岸部露伴は動かない』の特集が組まれていると言うこともあって、岸部露伴が飾っております!
勿論、その作者である荒木飛呂彦さんのインタビューもおさめられているようなので、こちらも非常に楽しみですね!
さぁ、果たして今年度、1位に輝くのはどの作品なのかなぁ~。
今年度刊行作品、全然読んでないから、まったく予想ができない(汗)
ではでは本題。
本日はタイトルにも書きましたが『准教授・高槻彰良の推察』の最新作となる8冊目『呪いの向こう側』の感想でございます。
『准教授・高槻彰良』と言えば、ドラマ化もされて結構な話数、地上波とWOWWOWとで放送されていたように記憶しているのですが。
どうなんでしょ?ドラマではどこまで描かれたのかしら?
私は結局ドラマは視聴せずじまいだったのですか、原作の方は相変わらず読み続けています。
原作の刊行ペース、一時、とても間が空いた時があったのですが。
ドラマ化が決定してからは、めちゃくちゃコンスタントに新作が発表されていて、ファンとしては嬉しい限りです。
そんなこんなでもう8作目までやってまいりました。
一応、ざっくりとした本シリーズのあらすじを書いておきますね。
本作の主人公は大学生の深町尚哉。ある出来事をきっかけに他人の嘘がわかる、嘘の言葉を口にした人間の声が極端に歪んで聞こえると言う能力を得てしまった彼は、その能力ゆえに極端に他人と関わらない人生を選択してきました。
その彼が民俗学の講義を通して出会ったのが、タイトルにもある准教授の高槻彰良です。高槻は幼いころ、神隠しと思われる出来事に巻き込まれており、怪異現象に並々ならぬ興味を持つ人物でした。
そんな高槻の助手に任命されてしまった深町は、高槻と共に数々の怪異現象、その謎を解明していく、と言うのが本シリーズのあらすじです。
で。
ドラマではどこまで放送されたのか知らないので、ネタバレになってしまっていたら申し訳ないのですが。
深町と高槻は黄泉の国にうっかり足を踏み入れてしまい、命の危機にさらされたり。高槻の中に『もうひとりの高槻』が存在していることが明らかになり、高槻の身に危険が及ぶと入れ替わるように『もうひとりの高槻』が姿を見せるようになったり。
2人が出会った謎多き女性の正体が人魚であったり。高槻の複雑な家庭事情、その一端が少しずつ明かされていったり。深町の人間関係も少しずつ変化を見せていったり。深町と高槻の関係にも変化が生まれたり。これまで登場してきたキャラクターも、巻数を重ねるごとに掘り下げて描かれ、新たな一面が垣間見えたり、と。
非常に賑やかな展開となっています。
シリーズ8作目まで来ていますが、作品としては根本的な流れは変わらないものの、シリーズものだからこそのキャラクターの歴史。その積み重ねによる関係性の変化や、ひとりひとりの成長。また大きな流れとして物語の変遷などがしっかりと描かれていて、飽きっぽい私にしては珍しく(笑)飽きることなく楽しく追いかけているシリーズです。
てなことでここからは『准教授・高槻彰良の推察8 呪いの向こう側』の感想にまいりましょう。本作品は3篇の短編からなっています。
まずは『押し入れに棲むモノ』です。年末、憂鬱な気持ちで実家に帰省した深町。自らの能力のせいで家族の輪を壊してしまったと思い込んでいる深町だったが、実家で自らを迎えたある存在、そして父と将来の会話を交わしたことで、少しずつ、その心境にも変化が訪れる。翌日、近隣を散歩していた深町は小学生時代の友人に出会う。その友人との会話の中で高槻のことを話すと、後日、その友人の兄から高槻のもとに連絡が入る。それは友人の兄が勤める小学校で『モンモン』と言う正体不明のお化けの噂が立っている、と言う内容だった。かくして高槻と共に深町も調査に訪れるのだが、その舞台となっている小学校は深町の母校で・・・と言うお話です。
『モンモン』を巡る小学生同士の心理状態。特に1人の女の子が抱えていた思いには、その思い故に彼女が起こしてしまった行動は褒められたものではないけれど、なんかもう、あまりにも可愛すぎて胸がきゅんきゅんしてしまいました。
で『モンモン』の正体や騒動には一応の決着がつくのですが・・・そこから先の『ぞわっ』とさせるような展開は、このシリーズならではだなぁ、とにやり。
そして何より、個人的にこの物語でぐっと来たのが、深町の帰郷。自分の能力のせいでその関係の一切を壊してしまったと思い込んでいる母親と父親との、久しぶりの再会が描かれていたことです。
深町の能力がどのような出来事をもたらして、それによって家族の輪がどう壊れてしまったのか。それはドラマで描かれていたのかしら?是非とも、原作でご確認いただきたいのですが・・・そりゃぁ、深町が自身を責めるような気持ちを持ってしまうのも仕方ないわ・・・辛い。
いわば深町が『孤独でいること』を選んだ、そのきっかけともなった出来事なわけで、だから彼が帰省する時の陰鬱な気持ち、重たい気持ちがめちゃくちゃ伝わってきました。『さぁ、果たしてどうなるんだろう』とドキドキした気持ちも。
で、実家に帰って久しぶりに両親と再会した深町を待ち受けていたのは・・・この結末は、なんかすごく、胸が暖かくなりました。なんだろ。この結末を、そんなふうに受け止めることができるようになっていたこと自体が、ここまでの物語を通しての深町の成長そのものだと思ったし。
何よりやっぱり、お母さんにとっても、お父さんにとっても、当然だけれど彼は子どもであり家族なんだよな。それは、こうやって時を経ないと、なかなか受け入れることが難しいことだったのかもしれないけれど。でもなんてか、新たに、だけど家族として自然な一歩を踏み出した、そんな様子が見て取れて、本当に胸がきゅっ、となりました。良かったなぁ・・・。
続いては『四人ミサキ』です。ある女性の死。それをきっかけのようにして、彼女の旧友であった女性たちの身に次々と不幸が降りかかる。高槻の従弟から、そんな『呪い』の謎を解き明かして欲しいと依頼を受けた高槻と深町は、早速、調査に乗り出す。『次に不幸に見舞われるのは自分なのでは』と恐れる女性に話を聞いた高槻は、『呪い』の正体についてひとつの推測を述べる。それでその『呪い』に関しては、一応の解決を見たように思われたのだが、と言うお話。
なんでしょ。本シリーズでは『呪い』と言うもの、それが明確に存在するものとして描かれているんです。いるんですけど一方で『それは『呪い』ではなく、何かしらの原因を背景に、それを『呪い』だと思い込んでいる気持ち』を描いているお話もあって。ネタバレになっちゃいますけど、このお話もそう言う部分が描かれているお話なのですが。
『呪い』ではなく『あなたがそうだと思い込んでしまっているから、『呪い』になってしまっている』と言う、その教え・・・じゃないですけれど。そう言う人の気持ちの在り方、その大きさ、知らず知らずの内に人はそれに、自分の気持ちの在り方に支配されてしまっている。そこが今更なんですけれど、色々と考えさせられたし、納得できる部分もあった面白かったです。
ひとつの作品なのですが『前半』と『後半』と分けてもいいような、とても贅沢な構造になっています。で、『後半』の部分で肝となっているのは、ある人がついている嘘。この嘘と言うのが・・・なんだろ。なんかすごい生々しかったと言うか、実際にこう言う嘘をついていそうな作家さんと言うか。こう言う嘘で塗り固められた作品、たくさんありそうだよなぁ、と私はしみじみ思ってしまいました。絶対、あるってば!
人間ならざる力。それを持っている者の苦悩。そうしたものも描いているこのシリーズ。その力によって深町同様、家族との絆を絶たざるを得なかった高槻の過去、その新たな一片が描かれているのも注目です。そして『もしかしたら』と言う推測には留まるのですが、深町や高槻と同じように、人ならざる力を持っていたのかもしれない1人の少女。彼女が家族、大切な家族に抱いていた思い。それが、あるいは深町や高槻のそれとも重なるようで、何とも切ない。
そして最後は『雪の女』です。深町は高槻から誘われ、高槻、佐々倉と共に『幸運の猫』で有名な旅館を訪れることになった。その旅館で、社会人のグループと知り合う。その内の1人は、幼い頃にもこの旅館を訪れたことがあり、その時に雪女に出会ったことがあるのだと言う。ところが後日、その男性の姿が旅館から消えていた。高槻、深町、佐々倉は男性の捜索を開始するのだが、と言うお話です。
猫ちゃんが出てきます。文章からでも伝わる猫ちゃんの圧倒的可愛らしさ。それだけでもう口元が緩みっぱなしでした(笑)
人魚でありながら人に雑じり、人と共に生きてきた女性も登場しているこのシリーズですが、今回の雪女もまた、人の社会で人と共に生きてきた人ならざるものです。そしてその生の中で結ばれた、彼女とある人物の絆。それが今回の作品のカギとなっています。
切ないなぁ・・・。いや、これ、ある意味、ほんと昔ばなしの『雪女』を彷彿とさせるような、そんな切なさを個人的には感じずにはいられませんでした。どちらの立場に立っても切ない。
物語のラストはちょっと駆け足感が拭えず、そこだけが残念だったのですが。その中、多分、深町が無意識のうちに発したのであろう『来年』と言う言葉。それに嬉しそうな笑みを浮かべた高槻同様、私も思わず、その言葉にはにんまりしちゃいましたよ。いやー、ほんと、深町、変わったなぁ~・・・。
雪女を主軸に据えた、人間と人間ならざるものの関係。あるいは両者が生きる、生きてきた世界の境界線の淡さ。だからこそ、絶対に超えてはならない一線。そうしたものを描いた作品でありながら、深町と高槻、そして佐々倉刑事が旅行に興じる様も楽しい、そんな作品でもあります。
はい。以上が本作品の感想でございました。
いやー、今回も面白かったし楽しかったし、いろいろと考えさせられる部分もあって、大満足。
なんてかやっぱりこのシリーズ、再三、書いてまいりましたが『呪い』や『怪異』が存在するものとして描かれている。そこが個人的にはとても好きです。そしてその上で『呪い』や『怪異』の謎を解いていく。時にはそこに人の、どうしようもない感情が深く関係していることもあるし、やはりそれは本物の『呪い』であり『怪異』であったりすることもある。その懐の深さみたいなもの。そして深町をはじめとする、登場キャラクターたちの魅力、背景がうまくかみ合っているところが、この作品の大きな魅力だよなぁ、とも思うのであります。
しかしそうか、もう8作目まで来たかぁ・・・。
シリーズとしてはどこまで続くのかなぁ。もしキリがいいところで、となると10作目がひとつのポイントにはなりそうですが。
何はともあれ、この先が本当に楽しみです!
ではでは。本日の記事はここまでです。
次回の読書感想文は12月11日ですね。
よろしければ引き続きお付き合い下さい。
読んで下さりありがとうございました!