tsuzuketainekosanの日記

アニメや声優さん、ゲーム、漫画、小説、お仕事とのことなどなど。好きなことを、好き勝手に、好きなように書いていくだけのブログです!ブログ名の『ねこさん』は愛猫の名前だよ!かわいいよ、ねこさん!

『このミステリーがすごい!』を振り返ろう~10周年ベスト・オブ・ベスト

はい。と言うことで『このミステリーがすごい!』を振り返っていたこの記事ですが、無事、2月21日の記事で終了いたしました。やっほい!

ただ、ですね。

このミステリーがすごい!』では3回にわたって、ベストオブベストを決定すると言う企画が行われておりまして、せっかくなのでそれも振り返ることにいたしました。

で、今日がその1回目です。

今回、振り返るのは1997年に発表された、『このミステリーがすごい!』の刊行10周年を記念して開催された10周年ベスト・オブ・ベストの結果です。

ja.wikipedia.org

ランキングの結果はこちらからどうぞ。こちらのリンクにも書かれておりますが、1989年の刊行スタートから1997年版までの9年間、そのランキングでベスト20にランクインした作品が対象です。

その中から投票で選ばれた『その時点でのベスト・オブ・ベスト作品!』と言うのが、今回、振り返っていく10作品と言うわけですね。

 

はい。と言うことでどうしようか迷ったのですが、せっかくなので10作品、全部、見ていきましょうか。

まず10位です。88年版で5位にランクインした島田荘司さんの『異邦の騎士』、そして91年版で1位に輝いた大沢在昌さんの『新宿鮫』が同時ランクイン。なので実質、10位は9位と言う扱いになっております。

 

『異邦の騎士』に関しては、詳細は差し控えた方が絶対、楽しく読める、と思うのですが。ただひとつ。こちらは島田さんの人気シリーズのひとつ、御手洗潔シリーズの1作品なのですが、絶対にこの作品から読むのは止めておくんだ。いや、別に読みたければ私のように読んでも問題はないのだけれど。

できれば、その前に刊行されている2作品を読んでから、この作品に、つまりは刊行順に読まれた方が、何と言うか正しく楽しめると言うか、この作品の最大の肝である驚きが、より心に染みていくと思うので。

 

新宿鮫』は日本のハードボイルド小説の金字塔とも呼べるようなシリーズ、その記念すべき始まりと言うことで、当時のインパクトたるや凄いことだっただろうなぁ。

このシリーズ、時代の変化と言うものが非常に鮮明に切り取られて、作品の中に無理なく描かれているのが、個人的にはとても印象的なのです。何と言うか、時代と共に変化していっている、そんなシリーズと言うか。ただしそれでも、犯罪者に食らいついていく鮫島の姿、その本質は変わっていないと言うのが、また熱い。ただし私、シリーズとしては10作目『絆回廊』でストップしているので、続きも読みたいなぁ。

てなことで、今なお続いている人気シリーズの作品が、10周年のベスト・オブ・ベストにもランクインです!

 

続いては、おおっ!こちらも同票で2作品がランクイン。と言うことで7位と言う扱いになっていますね。まずは89年版2位に輝いた北村薫さんの『空飛ぶ馬』、そしてもう1作品は93年版の3位にランクインした笠井潔さんの『哲学者の密室』です。

 

『空飛ぶ馬』は、主人公の『私』が日常で出会ったミステリーを、噺家である円楽に相談して、円楽が探偵役となってその謎を解いていく、と言ういわゆる殺人の起きない『日常の謎』にスポットライトを当てた作品ですね。

だけれど『日常の謎』だからこそ浮かび上がってくる人間の心模様、その機微と言うのは非常でリアルであり、読む側の胸に染みこんでいくのがたまらないんですよね。北村さんの『清く正しい日本語』で紡がれるからこその魅力も堪能できる、そんな作品だとも思っています。

 

そして『哲学者の密室』です。笠井さんの手掛けられている矢吹駆シリーズの4作目にあたるとのことなんですが・・・私、笠井さんの作品に一度も触れたことがないわ。いや、なんだろ。なんかとにもかくにも、めちゃくちゃ難しそう!と言う印象しかないんですよね。はい。なので手を伸ばしてみたい気はあれど、なかなかそれを実行できていないと言う。

今作品のあらすじも、一見すると『おおっ!古き良き本格ミステリっぽくて、わくわくするぞ!』とか思ったんですけど・・・『現象学的本質直感』『死の哲学』と言った文字があらすじに登場している時点で、既に『お、おぅっ(難しそう)』と言う気がして。どうなんだろ。難しいかな?有識者の方、教えて!

 

続く6位は89年版9位の隆慶一郎さんの『影武者徳川家康』です。隆さんと言えば時代小説の名手!・・・ですが、私は読んだことがないです。すまぬ・・・。本作品は、徳川家康は、本当は関ヶ原の戦いで西軍に殺害されていたと言う内容。影武者と入れ替わっていたと言う設定でお話が進んでいくとのことで、面白そうだなぁ。

時代もののミステリーって、別に避けていたわけではないのですが。ここ数年、時代ミステリーの面白い作品をたくさん読んだこともあって、この作品も機会があれば是非とも読んでみたいな。

 

そして4位です。5位がないと言うことは、そう言うことです。4位も同票で2作品がランクインいたしました!まず89年版1位、つまり『このミステリーがすごい!』の記念すべき最初のランキングで、記念すべき最初の1位を獲得した作品と言うことですね。それである原尞さんの『私が殺した少女』です。もう1作は96年版4位にランクインした京極夏彦さんの『魍魎の匣』です。

 

原さんの『私が殺した少女』は、私立探偵沢崎を主人公としたシリーズの2作目。第102回の直木賞受賞作でもあります。今から30余年前にシリーズ2作目が刊行されたこのシリーズ、現在は刊行された『それまでの明日』が最新作となっています。そしてこの『それまでの明日』は、『このミステリーがすごい!』の2019年版のトップに輝いているのですから、いやぁ、これは凄い!素晴らしいことですよね!

依頼人からの電話を受け、その目白の邸宅へと向かった沢崎。しかしそこで、彼は自分が思いもしていなかった誘拐事件に巻き込まれていることを知る、と言うのが本作のあらすじ。そうか、このシリーズも私、読んだことがないんですよね。だからこちらも機会があれば、是非とも読んでみたいです!

 

そしてもう1作は京極さん手掛ける京極堂シリーズの、おおっ、偶然。こちらも2作目にあたる作品です。なおこのシリーズに関しては・・・番外編などは発売されているのですが、シリーズ本編の長編は、2006年の『邪魅の雫』で止まっているのか。次作は『鵺の礎』と言うタイトルであるらしい、と言う情報が独り歩きし始めて、そうか、もう干支一周どころの騒ぎじゃないんだな・・・そうか・・・そうか・・・。

なんとか。死ぬまでには何とか、シリーズ完結を読み終えたいのだが・・・。どうだろうかなぁ。どうだろうかなぁ(遠い目)

古本屋を営む、陰陽師としての顔も持つ京極堂こと中禅寺秋彦。そして冴えない作家の関口巽。この2人を主軸に、個性豊かな登場人物が、奇々怪々な事件に巻き込まれていく、と言うのがシリーズ全体のあらすじです。

あの分厚さは、初心者の方から見ると『手が伸ばし辛い!』と思われること必至だと思います。が、一度ハマると、あの分厚さも頷けるほどの濃密な物語、そして『こんな分厚いのに、あっと言う間に読み終えちゃったよ!』と叫びたくなるほどの面白さなのです!

 

ではでは、ここからはベスト3の発表です!

まず3位にランクインしたのは、92年版の3位に輝いた稲見一良さんの『ダック・コール』でございます!

いやぁ・・・ねー・・・稲見さん。1994年に63歳の若さで亡くなられているのですが・・・ほんと、もし、ご健在であられたなら、一体、どれだけの素晴らしい物語を残して下さっていただろうかと思うと、改めて惜別の念がこみ上げてくると言うか。

 

日常生活に疲れ旅に出た若者が、石に鳥を描く不思議な人物と出会う。この2人の物語をプロローグ・モノローグ・エピローグとして描きながら、6篇の物語も挟まれると言う構成で成立している本作品。

とにかくね、もう初めて読んだ時、本当に、本当に『心が震える』と言う思いを実感したのです。ふるふると、心が震える。物語に、心が震える。その思いを、私は、確かに感じたのです。それくらいに、何と言うか『物語』として、素晴らしい作品。

現実の悲しさや辛さ、厳しさ、ままならなさ。そうしたものも描かれてはいるんです。いるんですけれど、それを描きながらも、その物語の最後には、微かでも温かな希望が存在している。そのやさしさ、そして現実のネガティブな面の一切を、ふわり、と柔らかく飛び越えるような想像力の素晴らしさが、じわりと胸に染みていく、本当に素晴らしい『物語』だと思います。

稲見さんが残された『物語』の結晶。やわらかく、きらきらと、やさしく、あたたかく輝いているその結晶。未読の方は、是非とも読まれてみて下さい!

 

続いて2位に輝いたのは、93年版2位の宮部みゆきさんの『火車』です。宮部さんと言えば、数多くの作品を発表されていて、そのいずれもが大ヒット、メディア化された作品も少なくはない、まさに国民的作家のおひとりと言っても過言ではない作家さんですよね。

ジャンル問わず傑作を生みだされていると言うイメージがあるのですが、特にミステリーにおいては『時代』を切り取り『今の社会にある問題』をとりあげ、それを土台にしたうえで、巧みにミステリーとして物語を構築されているなぁ、と言う印象があります。そして登場人物が、皆、生々しい。何と言うか『私のすぐ隣』にいても、何らおかしくないような、そんなリアルさがあるので、物語もなおのこと胸に迫ってくると言いますか。はい。

 

本作品が刊行されたのは1992年。バブル崩壊の影響で経済苦に陥った人が増加したことにより、消費者金融は飛躍的に成長。しかしその一方で、それによる過剰な取り立てや法外な利息などが社会問題となったと言う時代背景が、この作品でも描かれています。

主人公は休職中の刑事。彼が、亡くなった妻の親戚である銀行員の男性から、とある女性の行方を探し出して欲しい、という依頼を受けるとこから物語は始まります。

1人の女性の壮絶な、あまりにも、あまりにも壮絶な人生。あるいは作中に登場する、借金がもとで一般的な生活から、社会からはじき出されててしまった人たちの絶望、苦難。それらがシンプルながら、しかし圧倒的な生々しさ、重量を伴ってこちらの胸を重く、苦しく締め付けてくるのはさすがのひとこと。徐々に明かされていく謎、それを主人公と共に追いかけていく緊迫感、その果てに待ち受けている最後の一言、その台詞は余韻たっぷりで、その後の展開への想像が止まらないのです。

 

そして・・・10周年ベスト・オブ・ベスト、1位に輝いたのは、89年版8位にランクインした山口雅也さんの『生ける屍の死』でございました!

このミステリーがすごい!』の始まりのランキング、その8位にランクインした作品が、10周年のベスト・オブ・ベストに輝いた、そのことで、既にこの作品がどれほどのインパクトに満ちた作品であるか、おわかりいただけるかと思います。

いや、でもわかる!私も初めて読んだ時『!』ってなりましたもん。その世界観、設定も、当時の私にとっては『何!こんなミステリー作品があったの!?』ってめちゃくちゃ新鮮だったし、ミステリーとしての謎解き、その筋の通り具合と言うか、推理パートも、もう『あうっ!そうだったのか!そう言うことだったのか!』と心底、頷くしかなかった。何より、今から考えてみても、こんな作品が、こんな斬新な作品が、1989年に日本に誕生していたと言うのが、もう驚きでしかない!

 

1900年代末。アメリカ各地で死者が蘇ると言う現象が続発していた。ニューイングランドの田舎町で、州内随一の規模であるスマイル霊園を営むバーリイコーン一族。その屋敷に最近、滞在するようになった一族のパンク青年、グリンは、ある日、誤って毒入りのお茶を飲んでしまい死亡する。だが、やはりと言うべきか、グリンは蘇生。彼は、自分が一族の遺産相続をめぐる争いのとばっちりを受ける形で死んだのではないか、と推測を巡らせる。そして周囲にはその死を隠ぺいしながら、自分の死の真相を探り始めるのだが、第2の事件が発生し、と言うのがあらすじです。

死者が蘇る世界とは言うものの、蘇った死者が活動できる時間には制限があります。つまり探偵役であるグリンも、そう長々とは探偵活動を行うことはできない、と言うわけです。じょじょに朽ちていくグリンの肉体。それを周囲に気取られぬよう、何としてでも真実を突き止めようとするその思いが、とにかく切ない。そしてまた緊迫感が半端ない!

ミステリー小説、その全ての面白さがつまりにつまっている作品だと思いますが、個人的に印象深いのは『何故、犯人は殺人を犯したのか』、つまり動機の部分、ホワイダニットの部分です。そりゃそうでしょう。手間暇かけて殺人を犯しても、そいつは蘇ってくるんですから。いや、勿論、タイムリミットを迎えれば再び死ぬわけですが。

この動機の部分も、勿論、作中で明かされるのですが・・・これがもう・・・ほんと『あぁ』と膝から崩れ落ちそうになるくらいの衝撃だったんですよね、うん。

 

ネタバレになっちゃうから、詳しくは言わない。そして初めて読まれるよと言う方は、是非とも、前情報なしで読んで頂きたいけれど・・・ヒントは、作品の舞台が日本ではなくアメリカであると言う点です。

そもそも日本だと死体は燃やしちゃうから、蘇りようがないよね!

そして作品の最後、これまでの、ある種、お祭りを思わせるような生者と死者が奏でる狂騒曲のような物語の最後。これもまた、めちゃくちゃ胸に染みるんですよ。

とても美しく、とても切なく。

その光景、その人物の表情が、まざまざと目に浮かぶようで。

 

まだ読んだことがないと言う方が、心底、羨ましいわ!

2018年には、山口さんによる全面改稿版が発売されていますので、ぜひぜひ、読まれた方がないと言う方は手に取られてみて下さい!

 

はい。と言うことで以上が10周年のベスト・オブ・ベストの振り返りでした!

次回は20周年を記念して、2008年に発表されたベスト・オブ・ベストの振り返りでございます。果たして、今回の結果とどう入れ替わっているのか!?新しく、どんな作品がランクインしているのか。よろしければ、引き続きお付き合い下さい。

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!