この作品を読むか読まないかは個人の自由ですが、今回の読書感想文に関しては、読まない方がいいです。
書いた本人が言うんだから間違いない。
読まない方がいい。
てなことで1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。
本日お送りするのは、黒沢いづみさんの『人間に向いてない』です。
本作品は数々の作家を輩出してきたメフィスト賞の受賞作。
それもあって、かつ非常に刺激的なその話の内容から、刊行時には話題になったような記憶がありました。そんなわけで文庫化されたのを機に読んでみた・・・って、調べてみたら、文庫はもう2年前、2020年にされていたんじゃないか・・・。
『禁断のオゾミス』『落涙の家族サスペンス』なる紹介がされている本作品。ちょろっとあらすじは知っていたのもあり、その上でメフィスト賞受賞作だから『どれどれ。どんだけのものなんだろうねぇ~』とわくわくしながら読み始めたのですが。
感想の前に、まずはあらすじです。
一夜の内に人間を異形の姿へと変化させてしまう病気『異形性変異症候群』が蔓延している日本が舞台。
この病気には特徴があり、それは若者、それも引きこもりやニートと言った、いわゆる『社会不適合者』の烙印を押されている若者がこの病気にかかりやすい、かかる傾向が高いと言うものでした。
物語の主人公は、夫の勲と一人息子の優一と生活している主婦の美晴。
ある日、美晴は優一の部屋の中で蠢く、謎めいた、そして実に気色の悪い生き物を目の当たりにします。
実は優一は高校を中退して以降、ずっと引きこもり生活を送っており、『異形性変異症候群』にかかる可能性はじゅうぶんにあったのです。
『まさか』の思いで、その気味の悪い生物の正体を探っていく美晴。
ほどなくして彼女は、自身の嫌な予感が的中していたこと、すなわち、目の前の虫のような生き物、ただただ蠢くだけの気味の悪い生き物が、優一であることを知ります。
あまりにも気持ちの悪い姿に変異してしまった優一。しかしそれでも、自分の息子であることに変わりはない。その思いだけを胸に、美晴は必死にこの現実に立ち向かおうとします。
ですが夫の勲は、元々、引きこもりの優一に対して良い感情を抱いてはいませんでした。更に優一が引きこもりになったのは、美晴の子育てが悪かった、そんな思いも抱いているくらいです。
そのため変異した優一を前に、それはもはや息子ではない、人間でもない。だからさっさと処分をしろ、言い放つ始末。
そんな勲にどうしようもない嫌悪感を抱く美晴。しかしいくら悩んだところで、『異形性変異症候群』が回復、つまり異形の姿から元の人間の姿に戻ったと言う事例はなく、変わらない優一の姿を前に、美晴の悩み、鬱屈とした思いは深まっていくばかりです。
ところがある日、美晴はひょんなことから『みずたまの会』と言う会の存在を知ります。この会に入会しているのは、皆、『異形性変異症候群』にかかってしまった子の親ばかり。会に入会したことで、美晴は自分と同じような境遇の人がいると知り、救われたような思いも抱くのですが・・・と言う内容です。
さて。
『涙が止まらなかった』とか。文庫の解説では『覚悟して読みなさい。きっとあなたは三度、嘔吐く』とか。『嘔吐いても読みたくなる泣ける小説』と書かれてあるんですけれど。
泣けたか?
ってかどこに泣ける要素があるんだ?
いや、勿論、泣けた方はそれでいいんです。
この作品を読んでどんな思いを抱かれるかは、自由ですから。
それはいいんです。
いいんですけど。
私は、泣けるどころか、正直、腹立ちすら覚えたくらいです。
物語の終盤、優一と美晴のそれぞれの思いが吐露され、それがぶつかり合う。そして物語はラストを迎えるのですが、ここら辺がもう、許せなかった。
興ざめした。
『なんでこんな安っぽい流れ、安っぽいラストにしちゃったんだろう』と。
それまでの物語は、じめっ、とした筆致で描かれる、美晴をはじめとした様々な『親』たちの閉塞感しかない感情。また美晴が置かれている境遇の救いようのなさ、勲への腹立ちもあって(笑)、何と言うか、『イヤミス』を読んでいるような、暗い楽しさがあったのに。
この終盤の流れ、ラストでそれらすべてが台無し。興ざめも興ざめ。
どこに泣ける要素がある。どこか泣ける。どこに嘔吐けと言うんだ。
美晴の激しい、身を焦がすような後悔。そこから来た、開き直りのような、だけど肝の据わった、優一の一切合切を受容すると言う覚悟。そして優一の、自分自身や美晴と勲、両親に対するいろんな思い。
それらが語られ、激しくぶつかり合って・・・。
で、どうしてこんな結末になるのか?
1対1の人間同士でしかないはずなのに。
『家族』に閉じ込められた瞬間、親と子と言う人間関係に瞬間、その1対1の人間関係はどうしようもなく重いものを背負わされる。
その重荷に、親も、子も苦しめられる。
苦しんでいるのは親も子も一緒。
大切なのは許し合う気持ち。
それこそが最も大切なこと。
それを描きたかったんだろうなぁ、とは思うんです。うん。
思うんですけど、私にはなにひとつ、理解できなかった。
で。
アマゾンのレビューを見たらですね。
優一や、この作品に出てくる子たちが他人とは思えない。要は親から受けた愛情に葛藤を抱いている方。そしてその影響が今も自分にはあると思っていらっしゃる方が結構、いらっしゃって。
ネガティブ自慢するようで気が引けるのですが、私もその1人です。詳細は書かないし、『そんな大げさなw』と嘲笑される方もいらっしゃるでしょう。
でも私が物心ついた時から母に受けてきたのは心理的虐待。理由なく無視や拒否的な態度をとる。一方的に怒鳴る、否定する。否定だな。否定。とにかく否定。否定、否定、否定の連続。何をしても否定。そのくせ、自分の思い通りにしたい時には、こちらの意見を一切無視して過干渉な態度をとる。また自尊心を傷つける言葉を、日常的に口にする。著しく、著しく、完膚なきまでに自尊心を破壊する。
自分の夫であり、私の父である人のことを理由なく悪く言う。また結婚、出産に対しても、著しく否定的、差別的な言葉を口にする。そう言うものだったと思います。で、間違いなく、私の人格形成にこれらは影響をもたらしていると思います。
で、アマゾンのレビューを見る限り、親から受けてきた『愛情』に葛藤を抱いていらっしゃる方の多くが、割とこの作品に高評価をつけていらっしゃるんですね。
それが私は、めちゃくちゃ意外で。
いや、本を読んでそこにどんな思いを抱くかは、本当に個人の自由です。自由でなければならないんです。
だから全然、いいんです。
いいんですけど。
許せます?
優一のように。
あなたの自尊心、完膚なきまでにずったずったに傷つけた人のこと。
『親だから』と言う理由だけで『1対1の人間同士』であることなんて露ほども思っていなかったであろう人のこと、許せます?
私は許せない。今も許していない。この先も、多分、許さない。許した方が楽なんだろうことは承知しているけれど、でも許さない。
私が、この人のせいでどれだけ苦しんだか。傷ついたか。しんどい思いをしたか。辛い思いをしたか。泣いてるのが見つかると怒られるから、見えないところでどれだけ泣いたことか。『自尊心』と言う言葉の意味を知った時、どれだけ、この人からとられた態度、投げつけられた言葉の罪を思ったことか。
だから私は許さない。
私の人生が苦しめられた証として、私は許さないで生きていく。
そう決めたのです。
だからこの結末が、ただただ許せなかったのです。
『そんな生半可な苦しみだったの?』と。
『これしきのぶつかり合いで、許せるものだったの?』と。
まぁ、でも優一は、とても優しい性格の持ち主でした。
だからこそ、なのかもしれませんが。
作者さん曰く『『自業自得』の物語』とのことですから。
だから『美晴の子育ては、確かに、優一にとっては重荷であったのかもしれない。だけど美晴が育てたお陰で、優一は、優しさ溢れる子に育った。その優しさが、美晴を救った。優一自身をも救った』と言えるのかもしれない。
それはわかる。
でも、私はダメでした。
受容、和解、許し。
最悪。
興ざめもいいところだわ。
それくらいなの?
そんなもんだと思ってるの?
アマゾンのレビューでは、ご自身も中学から不登校となられた方。紆余曲折を経て社会人になられて10年が経過したと言う方が『学校に行けなくて一番苦しかったのは、親からその苦しみを理解してもらえなかった』と言うレビューを寄せられていました。
そしてその方は、不登校の親御さんがこの本に対して厳しいレビューを下されていることを記したうえで『この本はリアルを追及しているわけではない』『物語に仮託された「家族であることの苦しみ」を描いている』と言うことも書かれていて、このレビューを読んだ時に『あぁ、そうか。成程な』と思いました。
結局、親と子であっても、しょせんは1対1位の人間。
だから分かり合えることなんて絶対にない。
『家族』は『分かり合えなければならない』と言う幻想を見せてくるけれど、決してそんなことはない。そこからもっと、自由になるべきである。
そうして自由になった時に初めて、『人対人』に必要な、許しであったり、思いやりであったりが見えてきて、それを相手に対しても、自分に対しても実行できるのである。
そんなことを描きたかったのでしょう。
なららばいっそ、母が私に投げつけてきた言葉も、とってきた態度も、理解できたような気がして痛快でした。
母が『あんたのことを思って』と言い続けてきた言葉は、すべては『あんたが私の言うとおりにしなくて失敗したら、迷惑がかかるのはこっち。面倒くさい思いをするのは、恥をかくのはこっち。だから私の言うことを聞きなさい』と言うエゴしか、『親』としてのエゴしかなかった。
そこに『1対1』の人間同士に払われるべき感情なんて、微塵もなかった。
そう言うことです。
こんなふうにしか思えない私が、この作品を受け入れるなどと言うことは、土台、無理な話です。はい。
そんなこんなでそんなこんな。
なんだか自分語りが多くなってしまいましたが。
読み終えて、こんなに腹が立った、不快になった作品は久しぶりかもしれません。
感想書いてみたら『なんか正しく本作品を読めていなかったんじゃないか』と言う反省の念がわいてきたようにも思うのですが。
そもそもとして、私のような人間が、こんな地雷原でタップするような題材の小説を読んだのが、手に取ったのが間違いだったんだね!
ではでは。本日の記事はここまでです。
冒頭で『読まない方がいい』と書いたにもかかわらず、読んで下さった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございました!