ここのところの悪天候で、ここ数日は割と過ごしやすい日が続いていますが。
しかし、それまでは本当に暑かったですよね。夏だから仕方ないんですけど。
でももう、まさに逃げ場なしっ!と言う感じの暑さで、さすがにちょっと参ります。
そして天気が回復したら、またあの暑さが戻ってくるのだと思うと・・・。
この涼しさに慣れちゃった体には、本当にきついだろうなぁ・・・。
げんなりげんげん。
でもそんな暑い夏だからこそ、身の毛もよだつような、寒気を感じさせてくれるようなホラーがぴったりですよね。
はい。
と言うことで本日は澤村伊智さんの『比嘉姉妹シリーズ』ご紹介したいと思います。
無理やりなこじつけだって言わないで(笑)
前にもちょろっと書いたかと思うのですが、こちらのシリーズはその名前の通り、簡単に言えば霊媒師である比嘉琴子と比嘉真琴の姉妹、物語によっては比嘉美晴、更にはその関係者たちが怪奇現象、人を傷つける凶悪な存在に対峙すると言うお話です。
これまでに『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』『ししりばの家』『などらきの首』『ぜんしゅの跫』の5作品が刊行されており、すべて文庫としても発売されています。ちなみに『などらき』と『ぜんしゅ』は短篇集です。
簡単に各作品のあらすじ、魅力を紹介していきますと・・・。
まず『ぼぎわん』です。こちらは『来る』と言うタイトルで実写映画化もされていますね。主演は岡田准一さんで、比嘉姉妹は松たか子さんと小松菜奈さんが演じていらっしゃいます。うん、ぴったり。
こちらは澤村さんのデビュー作でもあるのですが、いやいや、新人離れした圧倒的な表現力と描写力、文章力、そして物語の構成力は圧巻の一言です。またこの作品から、怪奇現象とそこに関わる人たちの心情がミックスされた物語であったと言うのも、今から振り返ってみるとお見事の一言です。
怪奇現象を引き起こす凶悪な存在は怖い。だけど同時、言葉が通じるはずである同じ人間も、また時にとんでもなく恐ろしい存在である・・・と言うのが、もうめちゃくちゃ伝わってくる作品でした。そしてこれは、このシリーズ全作品に共通しているメッセージのようなものでもある、と私は感じます。
タイトル通り『ぼぎわんが、来る』を登場人物のひとりとなって体験しているかのような筆致は、もう怖い、怖い、怖いのにページをめくる指が止められない!ぎゃあ!
そして続く『ずうのめ人形』は、個人的にはシリーズの中でいちばん好きな作品です。ミステリとしての仕掛けもあると言うのもその理由ですが、ある人物が物語の最後に行った復讐・・・と言ってしまっていいのかは疑問ですが、その行為のインパクトと切なさに胸をかきむしられるような思いをするからです。
あと今作で登場する『ずうのめ』、その怪奇現象が発動するシーンの描写が、もうめちゃめちゃ怖い。文章だけなのに、ほんと、自分の世界がその発動シーンに飲み込まれていくかのような臨場感があって、赤く細い糸が瞳に映る感覚にすら陥るのですよ。
あと夜中トイレ行った時、真っ暗闇の廊下の片隅に、マジで30センチ程度の日本人形、『ずうのめ』の幻を見た時には『ひぃっ』ってなりました(笑)
都市伝説、人から人へと継がれていったひとつの都市伝説。それが終焉を迎えたにもかかわらず、だけどどうしようもない虚無感と寂しさが残り、そしてそれがまた、新たな都市伝説の誕生につながるのかもしれない・・・と思わせるようなラストも私好み。
3作品目の『ししりばの家』はこれ、読み返してみると、つくづく『怪奇現象、人を惑わせ、誑かし、傷つける怪奇よりも何よりも、人間の方がずっと恐ろしい』と言うのを突き付けられているかのような作品だと思います。
またこちらのシリーズ『男性と女性』『家と社会』『性別で決定づけられる役割』のようなものがものもすごく色濃く描かれていると思うのですが、今作品では特にそれを強く感じさせられました。ある女性のどうしようもない孤独感、虚しさ、それでもやり直せた旦那さんとの関係が、こんな結末になってしまったのは、ただただ悲しい・・・。
一方でこちらの作品には、ひとりの登場人物のやり直し、社会復帰が描かれていると言うのも特徴です。とても恐ろしく、また悲しい物語ではあるのですが、この登場人物の自立の物語として見てみると、希望が感じられるし、力強さも感じられると言うのもお伝えしておきたい。そして何より、その人物の奮闘にわんちゃん、犬ちゃんが大きく関係していると言うのは、犬好きとしてはとても胸が熱くなる思いでしたよ。
あとあと。家が舞台のこの作品。階段が場面でのシーンでは、それこそ階段を1段、1段、移動しているかのような錯覚に陥る文章の構成も目で見て楽しいし、リズミカルで美しく、本当にお見事なのです!
短篇集第1弾の『などらきの首』は、正直、これ単体ではそんな怖くはなかったかなぁ、と言うか『足りん!もっと恐怖をおくれ!』と言う感じで(笑)。でも『やったぜ、無事、謎は解けたぜ!』と言うお気楽ムードからの、あのラストは・・・ぞっとした。
ただ短篇集なので、シリーズものとしての新たな魅力、また澤村先生の作家としての豊かさのようなものが詰まっているのは確かです。
と言うことで個人的には『などらき』よりおすすめしたいのが『居酒屋脳髄談義』。こちらの作品、もう、痛烈の一言。少しずつ登場人物たちの置かれている状況が明らかになっていくスリル、そしてラスト、鉄槌のように振り下ろされる、登場人物のひとりである女性の言葉が、もう、もう(語彙力)
あと美晴が活躍する『学校は死の匂い』も好きだなぁ。そして明かされた真相も、もう背筋がぞわぞわするほどのおぞましさでたまりません。
そして現状、シリーズ最新作となっている短篇集第2弾の『ぜんしゅの跫』です。こちらの作品でも『ししりば』同様、登場人物の人生が立ち直る様が描かれています。またいろいろな出来事により、気持ちのすれ違いが物理的な距離のすれ違いにもなっていた琴子と真琴の姉妹、その関係の修繕が描かれているのもポイントです。
なので人は相変わらず傷つけられ命は奪われるのですが(汗)、でも、読後感はじんわりとした、新たな一歩を踏み出していく人の姿に希望を感じるような作品です。
その他、収録されている作品の中では『鏡』『私の町のレイコさん』『赤い学生服の女子』が好きです。
『鏡』はこれまでのシリーズに登場したある人物が主人公。個人的には冒頭に描かれた、その人物とその奥さんとのやり取り、その人物が当然のように奥さんに言い放った一言にぞっとしました。いや、もう、こう言う描写が切り込むように、だけど自然に描かれているのも、このシリーズの特徴だよなぁ~。
『私の町のレイコさん』は恐ろしく、だけどとても悲しい話。そして真相の裏側にあった、ある人物のあまりに身勝手な思いに怒りが止まらない。だけどそれもまた悲しいと言う気がするのも確かで。でもやっぱり、それは愛情と呼ぶにはあまりにも、あまりにも身勝手すぎじゃないんだろうか。
そして『赤い学生服の女子』は・・・これ、入院中に読んでいたら、多分、怖くて夜、寝られていなかったように思うぞ。シリーズ通して読んできた読者にとっては、とても切なくなるような、それでいて胸が熱くなるような展開も待ち受けている今作品・・・だけどその分、とにかくラストの一言が・・・もう、思い出しても背筋がぞわっ、とします。
はい。
以上、シリーズ各作品のあらすじ、感想を手短に書いてまいりました。
『シリーズである以上、やっぱり順番に読んだ方がいいの?』と思われた方もいらっしゃるかと思いますが・・・この質問に対しては、私は『イエスっ!』と全力で答えますね。はい。
これはやっぱり、シリーズごとに時系列があって、その時系列に沿って各シリーズの物語は進んでいるからです。
特に比嘉姉妹の1人、比嘉美晴の存在に関しては、この時系列と言うのが非常にものを言うので、ちゃんとシリーズ順に読まれた方が、より面白みや味わいも深まると個人的には思います。
ただまぁ『うるさい!好きに読ませろ!』と言う方や『近くの書店に『ずうのめ』だけないんだけど』とかいう場合には、まぁ、シリーズ順を無視しても問題はないかと。
シリーズ順に読んだ方が正統派の面白さを味わえる。だけどシリーズ順に読まなくても、その場合には『あー、あの作品で書いてあったのはこう言うことだったのか』とか『あー、ここでこうつながるのか』と言う、パズルをはめ込んでいくような楽しさもあると思うので、はい。
シリーズ全体で活躍しているキャラクターは、ほぼほぼ共通です。
ただ物語の魅力としては、そのキャラクター、比嘉姉妹とフリーライターの野崎の個性や思い、立ち回りの描写、深さと言うのは勿論なのですが、シリーズごとに入れ替わる登場人物の描写と言うのも、本当に凄いのです。
それは怪奇現象、怪異と言う、現実離れしたものを描いていながら、だけどそこに関わる登場人物の姿と言うのが、とても生々しいからなのです。
その生々しさと言うのは、勿論、誰かを真摯に思う、切実に思う、あるいは何かに対して強く願う、そう言うポジティブな思いの生々しさと言うのもあるんですけど。
でもこの作品で描かれているのは、圧倒的にネガティブな感情、執着や嫉妬、不満、あるいは他に対する卑下や明確な悪意、あるいは無邪気なまでの邪気に満ち満ちた悪意。そう言うものが、もう本当にさらりと、だけどどろどろに、生々しく描かれていて。
だからこそこの作品、怪奇現象、怪異の存在が恐ろしいのは勿論なんですが、そこに人間が持つ生々しい恐ろしさも描かれていて、そのふたつが合わさることで、より恐ろしさが増すんですよね。
それも違う類の恐ろしさが。
非日常の恐ろしさと日常の恐ろしさが。
とても遠い世界にある恐ろしさととても近い世界にある恐ろしさが。
うん。なのでなんかこー、物語により、日常性を感じてしまうと言うのも、この作品の不思議なところで、大きな魅力だと思います。
あ、でもでも。
怖い話ではありますが、その中でもくすっ、と笑えるような描写があったり。また作品によっては先程も書きましたが、希望を感じさせる、ちょっと鼓舞されるようなものもあるので、その物語としての多彩さ、バラエティの豊かさと言うのも魅力です。
ほんと、わんこ好き人間にとっては『ししりばの家』の、わんちゃんとその飼い主である青年の姿と言うのは、もう胸熱で涙が止まりませんでしたよ。
なんだろ。何にしてもそうなんですけれど。
このシリーズもまた、読者の方の性別、年齢、生活されている環境などによって、共感する登場人物や反感を覚える登場人物、そして物語に抱く感情と言うのがまったく変わってくる、そんなシリーズだと思います。
と言うことで本日は、澤村伊智さんの比嘉姉妹シリーズをご紹介してまいりました。
先程も書きましたが、現状の最新作『ぜんしゅの跫』まで、全部、文庫化されていますので、非常に手に取りやすいかと思います。
暑い夏。
あまりの暑さに外出するのも億劫。
さりとて家の中でぼーっとしているのも退屈。
そんなあなたは、ぜひぜひ、通販でこちらのシリーズ取り寄せて、読んでみて下さい。
熱く、だけどとびきりに恐ろしい、極上のエンタメを体感することができますよ!
寒気も味わえますよ!
夜中、部屋の片隅に日本人形の幻影見たり、聴覚が砂が流れる音に支配されたり、そんな体験もできるかもしれませんよ!
怖。
ではでは。今回の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました!