本日で8月も終わりよ!
早いわね!
てなことで31日、末尾に1が付くので読書感想文をお送りいたします。
ってか久しぶりですね。末尾に1が付く日に読書感想文をお送りするの。
8月は11日も21日も公休だったからなぁ~。
はい。
そんな具合で本日、読書感想文をお送りするのは『再生 角川ホラー文庫セレクション』でございます。
こちらはホラー小説8篇を収めたアンソロジーです。収録されているホラー小説はいずれも短編~中編。作者は収録されている作品順に、綾辻行人さん、鈴木光司さん、井上雅彦さん、福沢徹三さん、今邑彩さん、岩井志麻子さん、小池真理子さん、澤村伊智さんと言う、非常に豪華な面々となっています。
再三、読書感想文記事で書いていることなのですが。
こう言ったアンソロジー作品の魅力と言えば、同じテーマの作品でも、作者さんによってまったく描き方とかテーマのとらえ方が異なっていること。そこから面白みが全く違ってくることが挙げられると思うのですが、やはりこちらの作品も、個人的にはそんな魅力に満ちた作品でした。
あと、やっぱり作者さんの癖、ではないですれど、作者さんの文章との相性と言うのも、こう言うアンソロジーを読むと強く感じるのですが、本作品もそうでした。
てなことで、全8作。どうしようかと迷ったのですが、全作品、感想を書いていくことにしました。
手短に、手短にだぞ、自分!はい。
感想は収録されている順番です。
ではでは。
・綾辻行人さん『再生』
・・・文字通り、再生能力を持つ若き女性を妻にした男性のお話です。いやぁ、面白かったし『うまいっ!』とうなってしまう構成はさすがの一言。好き。
綾辻さんと言えば、ミステリ作家であり、同時にホラー作品も多数、手掛けていらっしゃる、そんな作家さんだと個人的には思います。そしてそのふたつを融合させた作品も、多数、執筆されていますよね。
この作品もまさしく、そうした作品のひとつだと言えます。綾辻さんの作品らしい、なんだろ、ある種の悲壮感、それが醸し出す幻想的な、しかし生々しい美しさに彩られたホラー作品。そして同時、再生能力を持つ女性だからこそのトリックが炸裂する最後の最後は、ミステリ的な味わいも存分に楽しむことができる、まさに一粒で二度おいしい作品です。
最後の最後、雨音に混じって聞こえてくる不気味な声。赤子の泣き声を思わせるようなその声が、こちらの耳にもはっきりと聞こえてくるようで。
・・・全OBが参加する高校の同窓会。そこで知り合った7年先輩の男性と妻、2人のクルージングに同行することになった男性の話です。
冒頭、書きましたが、アンソロジーでつくづく思うのが作家さんによる文章の相性と言うものです。そしてこの作品に関しては、それを痛感させられた作品でもあります。
鈴木さんと言えば大ヒットした『リング』や『仄暗い水の底から』など、多数の作品を発表されている作家さんなのですが、私はこれまで読んだことがありませんでした。なので、かもしれないのですが、とにかく鈴木さんの文章に対しては『読みにくいっ!』『リズムをとらえにくいっ!』と強く感じました。すいません。
ただお話自体は、正統派ホラーと言う感じで、ぞわっ、としました。なんだろ、やっぱ海とか湖とか池とか。底の見えない水の塊って、何が存在していてもおかしくない雰囲気満々ですから、怖いですよね。うん。怖い。
・井上雅彦さん『よけいなものが』
・・・どこかで読んだ気がする、と思っていたのですが。多分、小学館から出てる『超短編!大どんでん返し』に収録されていた作品だと思います。違ってたらごめんなさい。
会話だけで構成された2ページの作品。なんですけど、会話だからこそのテンポの良さがあって、そして『あっ・・・』とホラー的な部分に気が付いてにんまりした時には、作品が終わっている。終わっているんだけど、でも、この作品の内容的に『あぁ、多分、あの会話は延々と続けられているんだろうなぁ』と言う余韻があって、そこにまたぞくっ、とさせられる。そんな作品です。
・福澤徹三さん『五月の陥穽』
・・・会社で肩身の狭いをしている男性。唯一の息抜きである屋上での昼食時、思わぬ事態に巻き込まれてしまい・・・と言うお話。
いや、これも好き。『そうはならんやろ』と、割と突っ込みがたい、状況としては現実社会で起きてもおかしくないようなシチュエーションであると言うのが、まず怖い。そしてそこから、じょじょに、じょじょに追い詰められていく、状況的にも精神的にも、まさしく真綿で首を絞められるかの如く追い詰められていく男性を我が身に置き換えると、怖いし、それ以上に発狂しそうだと思いました。
嫌だ(どーん)
何より・・・ラストの後味の悪さが切れ味抜群。そしてホラー以上にホラー、悲しさすら漂わせる現実がそこには描かれていて、それもたまらん。なのに最後の一行、それを想像すると、妙な滑稽さ、もの悲しさみたいなものもこみあげてきて、ブラックユーモアある作品に仕上がっているのが、またこれお見事。
・今邑彩さん『鳥の巣』
・・・収録作品の中でいちばん好きな作品。面白かったし、ネタとしては序盤で『多分、こう言うことなんだろうな』と言う推測ができて、まさしくその通りだったんですけど。それにもかかわらず、ぞわっ、とした怖さがこみあげてきた作品です。
なんでしょうね。今邑さんの作品、その文体って、独特の陰鬱さ、湿っぽさ、あと何と言うか、人間の発する生臭さみたいなものがある、と私は思います。その今邑さんの作家としての魅力が、いかんなく発揮されている、そんな作品です。
大学時代の悪友に誘われ、とあるリゾートマンションに足を運んだ女性。しかし目的地に到着した彼女に、思わぬ事態が発生して、と言うお話です。
一枚、一枚、真実を覆っている薄いベールがはがされていくかのようにして、物語は進んでいきます。主人公の女性と、彼女を助けた中年の女性の会話によって。
そしてこの中年女性の描写や語り口が、とにかく怖い。怖い。生理的な恐怖、得体のしれないものを前にした時に感じる、本能的な恐怖。それを少しずつ少しずつ、しかし強く、強く感じさせてくるこの描写は、本当に素晴らしい。
そうして薄いベール、最後の一枚がはがされた時の『やっぱり』と言う感情と、それにもかかわらず『あぁ』と息を漏らすしかない、圧倒的な悲しみと絶望と恐怖と。今、こうして感想を書いていても、それを思い出した瞬間、鳥肌が立ちましたことよ。
・岩井志麻子さん『依って件の如し』
・・・なんだ、もうホラーとか、そう言う概念を超越した作品だと思います。岩井さん作品だからこその、圧倒的な自然の描写、閉じた、開いた自然の描写。そして人間の営みの描写。その自然を前に、ただただ生きるしかない人間のちっぽけでみじめで、悲しい営みの描写。そしてそこに生まれる、ありとあらゆる感情の描写。
それらすべてがもう『これでもかっ!』と言うほどに濃厚に描かれていて、もうそれだけで、読んでいるこちらとしては打ちのめされるのです。
岡山の貧しい村で生きる兄と妹の話です。いや、本当は当たり前のことですが、あらすじとしてもっと紹介すべき、書くべきことはあるのですが。
なんかもう、そんなの吹っ飛んじゃう。ってか多分、この作品も別の岩井さんの作品で読んだことがあると思うのですが、その時にも同じような感想を抱いたんだと思います。
もうね、もうなんか、言葉が出てこない。確かにジャンルとしてはホラーなのかもしれないけど、でもそれも違うように思うの。もうね、圧倒的な人間の、血と性と、業の物語。濃厚な、人間の生と性と死と血の物語。
ただただそれだけの物語。だからこそ、もう圧倒的な、言葉にできない力が迫りくるような作品です。はい。
・・・小池さんの作品、たぶん、読むの初めてだ。ホラーやミステリ作品も多数、手掛けていらっしゃるので、いつか読みたいと思い続けていたのですが・・・今日にいたるまで読んでいなかったです。はい。
てなことで私にとっての初・小池さん作品でしたが。なんだろ。これまで収録されていた作品とはまた少し毛色の違う怖さが、ひっそりと、だけど確実に満ちていた作品だと感じました。
この感覚はどんな言葉で表現すればいいのか。ちょっとわからないんですけれど、幻想的な、美しさすら感じさせる怖さがあり、だからこそ、その怖さの源にある感情の強さ、美しき怨念みたいなものがひしひしと伝わってくると言うか。
主人公は夫を亡くした女性。夫の死後、自宅には女の幽霊が現れるようになります。その幽霊である女の正体に、女性は心当たりがありました。その女の名はゾフィー。かつての夫の部下であったオーストラリア人の女性でした。夫にとってはゾフィーは、ただの部下。しかしゾフィーにとっては決してそうではなかったようで、この2人の関係は思わぬ結末を迎えるのですが、と言う物語です。
静寂、ひっそりと息を殺しているかのような筆致で物語は進んでいきます。それがゾフィーの思いや存在を思わせ、ひたひたと迫ってくるような緊張感すら抱かせます。そして終始、色が失われたかのような世界の中。タイトルにあるゾフィーの手袋、その色だけが、持ち主の思いをどこまでも、どこまでも伝えてくるようで。
・澤村伊智さん『学校は死の匂い』
・・・こちらも読んだな。比嘉姉妹シリーズで読んだな。はい。比嘉姉妹シリーズは、ほんと、どれもめちゃくちゃ面白いので、未読の方はぜひとも読んで下され!
てなことで本作は比嘉姉妹の真ん中、美晴が主人公。長女である琴子に強烈なまでの敵意を抱いている彼女は、クラスメイト達の間で噂になっている幽霊騒ぎの謎を明かそうとする、と言うお話です。
いやぁ・・・この話は、個人的にはラストが強烈なんだよなぁ。すごい好き。なんだろ。その音とかにおいとか、色とか。そう言うのが一切合切、五感を直撃するようで、それでいて余韻がたっぷりで。うん。
そして、このラストを生み出したのが美晴の言葉であった、かもしれない、と言うのが、またこれ、美晴のことを思うとめちゃくちゃやりきれない。おっふ・・・。
ホラーなんですけれど、でも個人的にはミステリ的な味わいもある作品だと思います。この辺りの『ホラー×ミステリ』の絶妙な融合具合、塩梅と言うのはさすがだよなぁ、と唸らされるばかり。
幽霊よりも何よりも怖いのは、そう、生きている人間。そのことを改めて、改めて突きつけられるような、この文庫のトリを飾るにふさわしい作品です。
はい。
そんなこんなで以上、収録作品の感想をすべて書いてまいりました。
そうだなぁ、3つ、3つだけどうしても選べ!と言われたら『再生』と『鳥の巣』そして『学校は死の匂い』をおすすめしたいですね。
岩井さんの『依って件の如し』は、もう、なんか別格。ホラーとかそう言う概念をぶち壊している、もうジャンル区分なんてしちゃだめな作品。
でもほんと、どの作品も短編なので読みやすいですし、文章も含めて作家さんの個性が色濃く出ているので、きっと読まれる方によって様々な感想を抱かれることと思います。なのでぜひとも、読んでみて下さい。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んでくださりありがとうございました!