tsuzuketainekosanの日記

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1が付く日なので読書感想文です~『黒野葉月は鳥籠で眠らない』

1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。

 

本日、感想をお送りするのは織守きょうやさんの『黒野葉月は鳥籠で眠らない』です。

織守さん、実は兼業作家でいらっしゃるとのことで、作家以外のもうひとつのご職業と言うのが弁護士。

てなことでこちらの作品も弁護士が登場する、リーガルミステリーでございます。

 

主人公は新米弁護士の木村。彼が担当することになった4つの事件が描かれています。彼と共に登場するのが先輩弁護士の高塚。新米弁護士として様々なことに戸惑い、成長していく木村を、時に厳しく、そして時に遠回しなやさしさで(笑)、見守り、背中を蹴り飛ばすのが高塚の役割です。この2人の物語はシリーズ化されており本作の後には『301号室の聖者』、そして9月に刊行されたばかりの『悲鳴だけ聞こえない』と続いております。

 

ではでは。早速、本作品の感想へとまいりましょう。

まずは表題作にもなっている『黒野葉月は鳥籠で眠らない』です。21歳の元家庭教師の男性を弁護することになった木村。その男性は教え子である15歳の少女にわいせつな行為をさせた疑いで逮捕されたのだった。男性は何かを諦めた様子で、木村はそのことに疑念を抱く。そんな木村の元にやってきたのは被害に遭った少女、黒野葉月だった、と言うあらすじです。

 

いやぁ・・・この黒野葉月と言う少女の存在感が実に強烈。もう登場した瞬間から、木村じゃないですけど、彼女に圧倒されると言うか。彼女の放つ、何と言うか、静かだけれど烈しい、一歩間違えれば危険さすら漂わせるようなオーラに目を、心を奪われてしまったと言うか。

そしてそんな彼女の起こした行動と言うのが、これまた(笑)。いや(笑)と書きましたけれど、もうほんと、多分、作品読んだ方なら絶対笑うと思うんです。嘲笑とかじゃなくて、何て言うんだろ、もう『凄いな』『やられたな』としか言えない感情から来る笑い、苦笑とでも言いますか。はい。

『若さ』、その言葉に込められているありとあらゆるものを見せつけられたような、そんな黒野葉月の言動が、だけどだからこそいっそ清々しさすら感じさせるラスト。また最後の一言が憎いじゃないですか、これ。

決して幸せな今後が待ち受けているとは限らない。だけどそれでも、そんなこと、そんな野暮なこと、今は言いっこなしよ、と言いたくなる、そんなラストとでしたね。

 

お次は『石田克志は暁に怯えない』です。かつて木村と共に法を学んでいた石田が、不法侵入の罪を犯した。石田が侵入したのは、実の父親の自宅。石田と実父は折り合いが悪く、既に何年も交流が途絶えているような状態だった。そんな実父のもとに石田が訪れたのには、彼の子どものことが関係していた、と言うあらすじです。

 

全4つの物語、全てそうなのですが、事件の裏側にある真実に『法律の決まり』が関係しているのが、この作品の最大の特徴です。なので法律に詳しい人なら『あ、もしかして』と簡単に真相と言うか、裏側に隠されている思いなどに気が付かれるかもしれないのですが。

こちらの物語もそうなのですが・・・あー・・・やるせない。やるせないと言うか『最後のチャンス』と言う言葉の意味の、その重さよ。石田克志にとってそれは、文字通り『最後』に与えた『チャンス』で、でももしかしたら彼は、『最後の最後』まで、実父が折れる、折れてくれることを願っていたんじゃないかな。そう願おうとしていたんじゃないかな、と思うと、もう本当にやるせない。そしてだからこそ、何と言うか石田の父親の非情さと言うかクソっぷりが際立ってくると言うか。

それと同時、石田克志と言う人間の優秀さ、それを改めて突き付けられたかのような展開が、いろんな意味で胸を打ってくる。だけどそこもまた、『最後のチャンス』にかかっていたわけだから、やはりこれはもう、石田の父がクソすぎたとしか言いようがないんだよ!そんな開き直りもしたくなるような、本当にやるせない話。

あと『黒野葉月は鳥籠で眠らない』では、それほど感じられなかった主人公、木村の個性のようなもの。それが強く感じられた作品でもありました。その未熟さ、弁護士としても人としても未熟で、青いその部分が、脆くもあり、弱点でもあり、でも木村の武器でもあるんだろうなぁ、と。そしてその武器の部分をフォローするような形に回った高塚さんが、とてつもなくかっこいい。

 

そして3作目は『三橋春人は花束を捨てない』です。木村が通う弁当屋に勤める葵子。彼女から、彼女の高校時代の友人、三橋春人が妻の浮気で悩んでいると言う相談を受けた木村は、早速、春人と会うことになるのだが、と言うお話です。

 

強烈。三橋春人、強烈。黒野葉月とはベクトルの異なる強烈さ。でもよくよく考えてみたら『自分が幸せになるためにはどうすればいいのか』、その点において他者の気持ち顧みず行動を起こすと言う点では、両者は似ているのかもしれないな、とも思ったり。あら、いかん。うっかりネタバレになっちゃってるぞ。

なので三橋春人が明かした彼の真意。彼の計画。そこには強い拒否感、嫌悪感を抱かれる方もいらっしゃることでしょう。が、私は何故か、彼の真意も計画も嫌いにはなれず、むしろ『ふふっ』とすらなったと言うか。三橋春人のこと、好きになったと言うか。はい。

何が最高かって結局、三橋春人は最後の最後まで自分の計画を貫いたんですよね。彼の妻にも、そして葵子にもそれを気取られることも、悟られることもなく。そこがもう見事、騙す側としてはパーフェクトとしか言いようがないな、と。だとしたら、木村や高塚にはばれてしまったけれど、彼のしたことは果たして悪と呼べるのか。罪と呼べるのか、と。そんなふうに考えてしまった私は、やっぱり人として大切な何かが欠落しているのかしら・・・おっふ・・・。

ね。彼の計画、真意が妻にも、葵子にもばれていたなら、察せられていたなら、それは非常に罪深いこと、許せないことですけれど。

そう言う意味ではこの作品、三橋春人の真意、計画について読み終えた誰かと語り合いたい作品でもあります。

 

そしてラストは『小田切惣太は永遠を誓わない』です。2作目と3作目で、新米弁護士としてなかなか痛い思いをさせられた木村。最後の最後のこの物語では果たして、と言うところなのですが。ふふ。

世界的にも著名な芸術家、小田切惣太。そして彼と共に生活をしている小田切遥子。その住まいに高塚と共に足を運んだ木村は、いくつかの真実を知る。小田切は親族と折り合いが悪く、既に断絶状態にあること。木村が惣太の妻だと思い込んでいた遥子は、実は娘であったこと。しかし2人の距離は、一般的な父娘のそれに比べると異常なほどに親密であること。そのことから木村は、ひとつの推測を導き出すのだが、その折、小田切が病院に運ばれてしまい、と言うお話です。

 

陳腐な言い方をすれば『愛』です。『愛』、まっすぐで、純粋な『愛』。それを守り通そうとした男性と、それを複雑な思いを抱えながらも、それでも信じて守り切った女性の、美しくもあまりに切ない『愛』の物語だと、私は感じました。

田切惣太の存在感も勿論なんですけれど、遥子さんの存在感がものすごく印象的なのです。美しくて儚げで、今にも消え行ってしまいそうで。だけど決してそうはならない、透明なんだけれど、それ故に強さを持っている、そんな芯の存在を思わせる。

そして物語のラストで明らかにされる、彼女のその芯。それを支えている強さは何だったのか。それを与え続けていたのは誰だったのか。これがもう、ものすごく胸を打ってくるんですね。うん。

やはりこの作品、全ての物語に『思いの強さ』と言うものが存在しているように思います。そして1話目のそれはストレートに強烈。2話目、3話目のそれも目には見えにくい、ある種、ベールをまとっているようで、その実、めちゃくちゃ強烈で、特に3話目のそれに限ってはどろどろした黒さをもまとっているように感じられる。

だからこそ最終話、この物語で明かされ描かれる『思いの強さ』と言うのは、本当に冒頭にも書いた通り『愛』だなぁ、と。ただただの『愛』。そんなふうに感じられて、切なくも胸が揺さぶられたのであります。だから2話目、3話目でずったぼろにされた(笑)木村の、『それでも前を向いていこう』と言う思いにも、めちゃくちゃ共感できた作品でした。

あとやっぱ高塚先輩、かっこいいっすよ・・・。かっこいいっすわ・・・。頭の腐った人間なので、私はうっかり『高塚×木村』とか思っちゃったよね、あはははは!

 

はい。てなことで全4話、感想を書いてまいりました。

先程も書きましたがリーガルミステリーなので、法律の知識を利用したあっ、と驚く展開は勿論なのですが、そこに至るまでの人間の心理。またそこに至って初めて明らかにされる人の思い。そこもしっかり、生々しいまでに描かれていることで、物語としての面白みが増しているんですよね。

そのことで、あのー、言い方はアレですけれど。『やったことは決して肯定できないし、決して許せるものではない。だけど気持ちはわからなくもない』と言う、日常の中、決して感じないわけではない感情。それを感じられるような作品になっているなぁ、とも思いました。うん。

ただ三橋春人に関しては(以下略(笑))

 

またそこに対することになる社会人としても弁護士としても新人の木村と、社会人としても弁護士としても、そして多分、人としても百戦錬磨、ただ者ではない高塚。この2人の視点が加わることで、一層、人の思いの多面性みたいなものが浮き上がるような作りになっているのも面白いなぁ、よくできているなぁ、と。はい。

『法律』と言う絶対の決まり。それ故、ある種、人間味がないようにも感じられるそこですが、この作品では、登場人物たちの思いが強く、方向性は様々であれ激しいからこそ、『法律』が生き物のようにも見えてくるんですね。それ自体が意志を持った生き物のように。それも非常に面白いよなぁ、と感じさせられました。

 

こちら、冒頭にも書きましたがシリーズ化されているんですよね。是非とも、読んでみたいと思いました。あとなんだろ。この作品、とても映像化に向いていそう。木村も高塚もジャニーズ所属の方でドラマ化とかされても、何の不思議もないぞ!

 

はい。てなことで次回の読書感想文は21日でございますね。

よろしければ引き続きお付き合い下さい。

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!