はい。と言うことでどうにか1冊、ストックができました。
てなことで本日、お送りするのはタイトルにも書きましたが、澤村御影さんの『准教授・高槻彰良の推察』、その新刊の感想です。
こちらの作品、ドラマ化もされましたが・・・評判としてはどうだったのでしょうか?
キャスト的に深町君はイメージ通り、高槻先生はドラマならではの、ちょっと小説とはイメージが違う感じだな、と思ったのですが。ただドラマのPV見た時『あー、これは私の知っている高槻先生ではないな』と思ったことは、正直に白状しておきます(汗)
なんてか、やっぱ声のイメージ、声と喋り方、語り口調のイメージって言うのはデカいんだな、とあのPVを見たと時、つくづく思いました。
小説で、高槻先生の声も、その喋り方も実際に音としてては聞こえてきていないはずなのに。それでも明確にイメージができて、そして少なくとも私は、ドラマPVで見た高槻先生のそれは、私のイメージとは全く合致しなかった。
うーん、不思議だ。
はい。でもあのドラマをきっかけに、原作小説にも手を伸ばして下さる方が増えたのであれば、それは原作ファンとしてはとても嬉しいです。
そんな具合で新刊です。
ドラマではどこまで描かれているのか知らないのですが(すいません)、今回の新刊に至るまでに、高槻先生と深町君の身には様々な出来事が降りかかっています。
その中でも最たるのが、高槻先生の中にひそんでいた『もうひとりの高槻』が姿を見せたことです。
この『もうひとりの高槻』が表に出てきている間、高槻先生は完全に体を乗っ取られているような状態になってしまいます。つまりその間の記憶は一切、高槻先生には残らないと言うことです。
元々、特に怪異現象に対しては目がない高槻先生。人懐こい大型犬のような高槻先生をいさめる、お守り役を担っていた深町君ですが(笑)『もうひとりの高槻』が出てくるようになってからは、一層、その役割的には負担増になっているような気も(笑)
ただ、深町君にとって高槻先生は、やはり自分の人生、怪異に魅入られ『人の嘘が聞こえてしまう』と言う呪われて能力を身に着けてしまった自分の人生を大きく変えてくれた人であるのは確かです。
なのでなんだかんだと言いつつも、しっかり、高槻先生のお守り役を務めている深町君、その彼自身の変化や成長も見どころのひとつではあります。
はい。
てなことで新刊は全3章の物語が収録されています。
1章は『異世界に行く方法』を試した友人が翌日から行方不明になってしまった、そんな相談を女学生から受けた高槻先生と深町君がその謎に挑む、そしてその裏側には思わぬ真実が隠されていたと言う『違う世界へ行く方法』。
それから2章は、深町君同様『他人の嘘が聞こえる』能力を持つ遠山。その遠山からの依頼で、栃木の山奥へ出向いた高槻先生と深町君。埋め立て工事中の沼に住まうと言われている『ヌシ』の正体とは、と言う物語が繰り広げられる『沼のヌシ』。
そしてラストは『人魚の肉』。こちらは食すると不老不死になると言われている人魚の肉。それを提供するレストランがあると言う噂を耳にした高槻先生と深町君は、そのレストランに訪れます。するとそこには、紗絵がいて、と言う物語です。
遠山さんや紗絵さんは、ドラマではまだ登場していないのかな?
遠山さんは先ほども書きましたが、深町君と同じく、人が嘘を口にしている時の声が特殊に聞こえる、そのことから人の嘘が聞こえる能力を持っている男性です。高槻先生とはまた異なる存在感で、深町君の支えになっている人物です。
そしてもうひとり、紗絵さんは、自らを八百比丘尼だと名乗る謎多き女性です。とある出来事に際して、高槻先生、深町君と知り合い、2人の窮地を救った人物でもあります。今回の『人魚の肉』では、彼女が本当に八百比丘尼なのか否か、それがついに明らかにされます。
ちなみに私の中では、紗絵さんのCVは圧倒的安済知佳さんです。圧倒的に!
いやぁ・・・どの物語も面白かったし、いろいろ考えさせられたなぁ。
1章『違う世界に行く方法』は、大学デビューに失敗し、4年間通しても一般的なイメージとして浮かび上がってくるような『大学生』にはなれなかった、その学生生活にも慣れなかった私にとっては、この物語に登場するキャラクターたちの心情が、息苦しくなるくらいに理解できました。
『違う世界に行く方法』と言うタイトルが、読み終わった後、ものすごく胸に響いてくる作品です。
そんな方法があれば、と願う人は、私以外にも、この物語に登場した彼以外にも、たくさんいることでしょう。だけど残念ながら、そんな方法は、そんなわかりやすい方法はない。私たちは『この世界』で生きていくしかない。
だけど『この世界』で生きていくしかない、と割り切った、開き直った先に見えてくるものもあるんじゃないのかなぁ、と個人的には思ったのですが。
2章は、物語の真相が切なかった。ミステリのような味わいもありつつ、とある人物、その人がどんな思いで『秘密』を抱えてきていたのかと思うと、なんかもう、胸がずーん、としました。
そしてもうひとつ、深町君が遠山さんに、そして遠山さんが深町君に感じた思い。
確かに同じ呪われた力を持つ人間同士と言う共通点はある。だけどだからと言って、同じように生きているわけではない。互いに別々の、個々の人間であり、その生き方は自由。そんな当たり前のことに気が付いたラストと言うのが、とてもなんか、胸が温かくなると同時、大切なことに気づかされてような、そんな感じがしました。
またそのことに気が付いた遠山さんが、深町君にかけた言葉と言うのが、不器用で、でもとても遠山さんらしい温かさに満ちていて、微笑ましかったです。
他人の嘘がわかってしまう。それは確かに呪われた力であり、それによって人間関係にしり込みしてしまうのは、仕方のないことかもしれない。でも、それですべてが不幸になるわけでも、うまくいかなくなることにつながるわけでもない。
何よりその呪われた力があるからと言って、自分で自分を不幸せな方に持っていく必要は、どこにもない。それこそ、そんなふうに自分の人生を自分で縛り付けてしまうことこそ、呪い以外の何物でもないですよね。
ラストのお話は・・・いやぁ・・・そうか。紗絵さんは、やっぱり本物だったのか、と言う驚きがひとつ。
そしてそこから紗絵さん自身によって語られた『ずっと怖いこと』の正体。それに気が付いてしまった時から、人間でいることをやめたと言う思いの吐露。これがもう、めちゃくちゃ切なかったです。
だよなぁ・・・しんどいよなぁ・・・。不老不死、それを手に入れてしまったからこそ、それによってもたらされた力なのかもしれないけど。でも自分の魅力でも、人間性でも何でもない。ただそうやってもたらされた力、それだけによって、他者は自分に良くしてくれているのだとしたら・・・そんな悲しいことはないよなぁ。そんな空しいことはないよなぁ・・・。
またこの紗絵さんの境遇、気持ちと、1章で失踪した青年の境遇、気持ちがリンクしているようなのも、物語の構成として憎いよなぁ、うまくできてるよなぁ、と思わざるを得なかったです。はい。
高槻先生が口にした、大切な人たちと交わした、たくさんの約束。これからも、どうしようもない空しさと悲しさを抱えながら生きていく、ずっとずっと生きていくしかない紗絵さんにも、どうか、誰かと、大切な約束を交わす日が訪れますように。
はい。てなことでシリーズ7冊目ですか。
そうか、もうそんな冊数になるのか。
いや、そう。ドラマ化されて何が嬉しいかって、多分、以前に比べると刊行ペースが速くなったような気がするんですよね。多分、これはドラマ化の影響だと思うので、ありがたや、ありがたや、です(笑)
高槻先生に出会って、深町君の世界は大きく変わった。
そして深町君に出会って、高槻先生の世界も大きく変わった。
大切な人たちと、大切な約束をたくさん交わしながら。
2人が進んでいく世界は、決して優しくはないけれど。
だけどそれでも、2人は、たくさんの人の力を借りながら、生きていく。
そしてその先、いつの日か。
2人は、自分の過去に何があったのかを知るんだろうなぁ~。
うーん、続きが楽しみだ!
てなことで本日は『准教授・高槻彰良の推察』の新刊、その感想を書いてまいりました。ドラマ化で本作品を知った方も、ぜひぜひ、原作小説の方も読まれてみて下さいね。非常に読みやすいので、おすすめでございますよ!
それでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました!