tsuzuketainekosanの日記

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注意・ネタバレありだよ!~『十戒』について語りたい記事

8月に発売された夕木春央さんの『十戒

ネタバレありなので犯人の名前も動機も、結末がどうなったのかも書きます。

 

ネタバレしてない、匂わせ程度の作品感想はこちら。

tsuzuketainekosan.hatenablog.comはい。ではではよろしいでしょうか。

 

ネタバレ記事、始めますよ~。

行きますよ~。

次、8行ばかし開けて、叫びますよ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう言うことだったのか』です。

 

『後だしじゃんけんじゃねぇか!卑怯だぞ!』と言うツッコミも聞こえてきそうなのですが。

 

綾川さんが犯人だと明かされた時。正直『彼女、『方舟』の犯人である麻衣に似てるよな。ほんど焼き増しみたいなもんじゃん』と思ったんです。

ただあまりにも失礼すぎるし、これもこれで意図的なこと。『方舟』に続く作品としてあえてそうされたんだと、私は思ったんです。

 

で、読了後。

作品の公式ネタバレサイトに駆け込みまして、ログインしようとしたんですわ。

jikkai.kodansha.co.jp

あろうことかユーザー名もパスワードも日本語で打ち込んじゃってね(アホか)

 

なのでその日はログインできないままで『ええい、こんちくしょう』とそのまましばらくは、サイトのことを忘れていたんです。

それで最近になって『そうそうそう言えば』と思い出して改めてログイン。

そして青柳碧人さんのネタバレ解説を『ですよねぇ~』などとしたり顔で読み進めていって、その最後の部分ですよ。

反転している部分ですね。

そこを読んで、愕然としましたよね。

 

やっぱり綾川=麻衣だったんじゃないかよおぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!

 

あぁ(崩れ落ちる)

 

おっしゃる通りです。

『私、勝手に人を好きになって、期待して、それでがっかりすることが多いんだよね』のセリフ。

私は里英にとどめをさすために、勿論、自身がそうであることも踏まえたうえで、それでも里英がそんな人間であることを見抜いたうえで綾川はこの言葉を口にした。

そう思っていたんです。

今でもこの思いは変わっていない(頑固)

 

だけど・・・あぁ・・・確かに。

青柳さんの指摘通りですよ。示唆なんてなまやさしいものじゃないですよ。夫が行方不明になっている云々と言う部分も合わせたら、この言葉をこんな場面で口にした、口にできた綾川は、麻衣なんですよ。麻衣その人なんですよ。

 

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

やられたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

はい(笑)

 

事件の犯人は綾川。島にあった爆弾。それを知った自分を含めた、島に訪れた人間たちの爆殺。その計画が立てられていたことを知った彼女は、それを阻止するために殺人を犯していたと言うわけですね。

何より尊いのがですね。彼女が『皆の命を奪おうとしているなんて、私、許せない!皆の命を守るために、私がこの手を汚すわ!』と言う実に崇高な使命感に燃えて殺人と言う手段に走ったのではなくてですね。

『私だけは助かりたいから』と言う、圧倒的に利己的な理由からなんですよ。

『他の連中はどうなろうと知ったこっちゃないわ。でも私は、絶対に助かりたいの。だから殺すの』と言う理由からなんですよ。

あぁ、尊い(白目)

 

ってか麻衣よ。

貴方、絶体絶命の場面に巻き込まれ過ぎじゃない?

 

・・・違う。

もしかしたら彼女の存在、それ自体がこの災厄のような状況をひきつけているのかもしれない。ってか絶対にそうだ。

それなのに、他人をあらゆる意味で犠牲にして、結果的には自分はちゃっかり生存しているんだから凄いね!(やっぱり白目)

 

この動機に関しては、彼女の口からそうと語られているわけではありません。それでも285ページの最初の彼女の台詞を目にしたら、誰だってそう思うのではないかな。

 

彼女は、他の連中がどうなろうとも、自分だけは絶対に助かりたかった。

だから殺人を犯し続けた。

そしてだから、奇妙な戒律を持ち出して、自分が犯人であることを突き止められないようにしていた。

その戒律でもって他の生存者たちの生殺与奪権を握っていたわけですから、どう考えても彼女が『私が皆を守るよ!』などと言う、陳腐で嘘くさくて手垢に塗れたような正義感から、殺人を犯し続けていたのではないことは明らかでしょう。

 

この辺り。何も知らなかった当時の私は『『方舟』の犯人である麻衣を彷彿とさせるような、徹底したエゴイズム。グロテスクなまでの自己主義。でも実は、人間の圧倒的な本質、本性をさらけ出している犯人の感情。その描写。私は本当に好き。むしろ清々しさすら覚えるほど。神々しいものすら見たような思いすら抱いたほど。『私だけは助かりたいの。ううん、助かるの』と言うその欲望を、何よりも自分の手で、行動で実現させているのが、最高に最高。そこに圧倒的な力強さ、逞しさ、狡猾さを見る思いがして、本当に最高』などとオタク特有の早口でまくし立てる勢いだったんですけれど。

 

麻衣を『彷彿とさせる』じゃなかったんだよ、私!

麻衣、その人、そのものだったんだよ!

笑う!

 

しかし今作品に関しては綾川を『怪しい』と思われた方、多いんじゃないかなぁ。

だってもう、どう考えても怪しかったですもん(笑)

 

そしてその怪しさを更に高めていたのが、本作の主人公にして語り手である里英の、ところどころ『?』と思わせるような語りです。

ネタバレなしの感想文でも書きましたが、最初に『?』と思ったのは、71ページ、そして章が変わってからの72ページでの描写ですね。

それ以降も細かい所で『これはどう言う意味なんだろうか・・・?』と思わされる描写がたくさんあり。

極めつけは199ページの最後の描写です。ここで私は『里英がこんなふうに思うことができる、こんな思いを寄せることができる相手なんて、この島には綾川しかいないでしょうが!』と確信したのです。

 

でもその後の綾川の推理パートでは、そんなことも忘れていて、ただただ『な、なんと!死んだと思われていた人間が犯人だったとは!第1の殺人は事故だったのか!おいおい、今回の探偵役もすげぇな!神じゃんか!もはや人間の皮被った神じゃんか!』と感嘆しきりだったのですがね。

 

おバーカさん(笑)

 

てなことで当然ですが、綾川が披露した推理も彼女の計画の内。

242ページ、推理を披露するにあたって彼女が皆の前で宣言した言葉。傍点により誇張されている言葉ですね。

それを最初、私は『あぁ、殺されたと思われていた人間が犯人だから、彼女はそう言ったのか』と理解したのですが・・・我ながら騙されやす過ぎでしょ(笑)

当たり前ですわな。だって起爆装置を握っているのは彼女自身なんだもん。そして彼女自身により、彼女自身の犯した罪が塗り替えられ、彼女ではない別の、それももう実はやはり彼女によって命を奪われていて口を開くことができない人間が犯人になり、そのことで彼女は無実の人になったのだから。

 

あー・・・やはり『方舟』同様、もうほんと、なんてエレガントなんだろうかなぁ。

容赦がなさ過ぎて本当に好き。

そして探偵役が別にいた『方舟』とは異なり、今回は『探偵役=犯人』だったわけで。

『『探偵』は『探偵』として『犯人』に勝利をおさめた。しかし同時『犯人』は『犯人』として『探偵』に勝利をおさめた』と言う相反する構図が見事に成立しているのも、もう本当に好き。

でもそれでいて最終的には『それでもやはり『探偵』は、完膚なきまでにその存在を奪われ、汚され、愚弄された』と言う感じになっているのが、もう最高。

 

と言うか、この感想はネタバレなしの記事でも書いていましたが。

ここも綾川が麻衣だったならば『探偵に対する愚弄』が、より苛烈さを増すのですよ。たまらん(悦)

 

前作『方舟』では『皆を救うために』神のごとく振る舞いを続けていた探偵役、翔太郎に、一度は『自分(と選択によっては主人公)だけを救うために』人を殺し続けていた麻衣は敗れるのです。

でも実は敗れていたわけではなく、敗れたふりをしていただけ。結果としてその敗北すら、彼女の完全勝利のためには必要なプロセスだったのですが。

 

そして結果的に、神のごとく振舞ってきた探偵の翔太郎は、その推理は、麻衣以外の人間を救うことができなかった。

翔太郎が本当の神のごとく、全知全能の力でもって正しい真実を導き出せていたならば、あるいは結末は変わっていたのかもしれません。

酷な言い方だし、決してそんなことはないと承知している上で、それでも言うならば『方舟』の結末は翔太郎が探偵として振舞ったが故、翔太郎が呼び寄せたものと言うこともできるわけです。

 

しかし、です。

十戒』で真犯人でありながら、探偵としても振舞った綾川は、結果的に自分の身の潔白を証明しつつ、自分の命も助けつつ、更には他の人間の命まで救ったわけです。3人の命を奪っておきながら。

 

『犯人』として自らの目的を完遂させた。

それと同時に『探偵』として皆から期待された役割をも、見事に果たしてみせた。

 

翔太郎、あの世で涙目でしょうよ(鬼か)

そして改めてにはなりますが、『探偵』の存在、完膚なきまでに汚され、愚弄され切ってるじゃないですか。

あぁ、素敵(うっとり)

 

『ここまで『探偵』にやさしくない作品を書かれるって。夕木さんにとって『探偵』とはどんな意味を持つ存在なんだろう』とかなんとか。

いろいろ知りたくてネットをあさっていたら、こんな記事を見つけました。

短い文章ではありますが、なかなかどうして、個人的には非常に興味深い内容だったので、是非ご覧ください。

tree-novel.com

成程。『探偵の動機』か。

 

『方舟』同様、皆が皆、彼女の掌の上で転がされていたのですが。

『方舟』と異なるのは、『十戒』の主人公である里英だけは『転がされるふりをしていた』と言うのが、本作品のもうひとつの肝であります。

 

里英は第1の殺人、その死体を目の当たりにした瞬間、犯人がわかっていた。綾川による犯行だとわかっていた。だけどそれを隠し通したままでいた。その後の綾川による殺人も黙認しながら、最後の最後まで綾川の出した戒律を守り通していた。

そしてそのことを他ならぬ綾川自身にも、あるいは父親にも、他の生存者たちにも、はたまた私たち読者に対しても黙り続けていた、と言う内容です。

 

あぁ・・・。もうほんと、言葉が出でこない。

『犯人を明らかにしようとしたもんなら、爆弾、ドカン、だからな』と脅されている上で『でも私、犯人、知ってるもん。わかっちゃってるもん!』と言う現実を抱え込んでいた里英の、その思いたるやいかばかりか・・・。

いや、そりゃ仕方ないよな。仕方ないよ。

綾川に『綾川さん、犯人ですよね?』なんて突き付けたその瞬間には、自分は殺されているかもしれない。そしてその後には、何も知らない父が、他の生存者たちが爆死させられるのかもしれない。

 

でもこの里英の恐怖も、実は『私は死にたくない。助かりたい』と言うエゴイズム。綾川さんのそれとそう大差ない人間としての本能。そこと重なる部分があるのかもしれない、と思うと、もうこれまた『夕木さん、恐るべしっ!』なんだよなぁ。

 

ただここできいてくるのが、里英と言う主人公、1人の少女の、その内面なんですよ。

浪人生で同世代の友人たちとの関係も気まずく、予備校での人間関係もうまくいっていない。そこでは自分のプライドをへし折られるような経験もした。

家と予備校を往復するだけの毎日。家族が小言を漏らす程度でいてくれるのはありがたいけれど、それすらもうっとおしく感じられる日々。

誰も自分のことなんてわかってはくれない。わかってはくれないし、わかって欲しいとも思えない、思わない。だけどそうかと言って完全に放っておかれるのは、無視されるのは嫌。本当はわかって欲しい。誰かに、私の相手をして欲しい。

 

そんな里英の自意識の在り方。それがあったからこその、この結末なんですよね。

そんな里英だからこそ、たまたま出会った初対面の綾川には心を許した。

許してしまったんですよね。

ってか2人の出会って早々の会話のシーン、25ページで綾川が話している言葉。里英曰く『人付き合いの戦略』と感じたその言葉も、今となっては読み返すと。

もう(絶句)

 

そしてそんな里英だから、綾川も信じることにした。

利用することにした。

自分が助かるために。身の潔白を証明したまま、自分だけが助かるために。

 

多分、里英と言う主人公が、もっと快活な少女だったなら。自尊心も自意識も満たされていて、そこにこれほどまでの鬱屈とした思い、葛藤を抱いていない少女だったなら。

里英と綾川の関係はもっともっと違うものになっていただろうし、この物語の結末自体も、もっと違ったものになっていたと私は確信しています。

 

でもわかる。里英の、このやり場のない虚しさを抱えた感情も、そこに辟易していることも。だからこそ綾川を勝手に好きになって、彼女に勝手に期待をしたことも。

綾川自身がかつて、『方舟』の主人公である柊一にそうしたように。

ただしその後、綾川は『勝手にがっかりすることが多い』と続け、里英も、恐らくは綾川以外に対してはそうだったのだろうと思う。勝手にがっかりして、そんな勝手にがっかりする自分にも嫌悪感を抱いていたのだろうと思う。

 

でも里英は違った。綾川にだけは真実を明かされてもなお、がっかりなんてできなかった。

がっかりを通り越すほどのものを、綾川から受け取ったから。

『事件の真相』と言う生涯を通して守り通すべき戒律を、人生を懸けて守り通すべき戒律を受け取ったから。

 

それはもはや呪縛です。呪縛。

里英の人生、その一瞬、一瞬を縛める呪縛。

しかも『綾川さんは』と言う主語ではなく『私は』と言う主語でもってして押し寄せてくる呪縛なんです。

私は、真実を知っていながら黙っていた。

私は、殺人が起きるのを黙認していた。

私は、それでも綾川さんに期待していた。

だって私は、綾川さんのことが好きだったから、と言う自責の念の滲む呪縛。

何度も言うようですが、里英がそうせざるを得なかったのは仕方ないこと、自然な流れでしょう。誰だって助かりたいもの。爆死なんて、殺されるなんてごめんだもの。

でも里英はきっと、そんなふうには思えない。思わない。

ずっとずっと『私は』で、この呪縛に縛め続けられるんです。

 

もうここに、圧倒的に『甘い地獄』などと言う言葉を持ち出したくなる私を、どうか許して欲しいのです!

でも百合、もう百合、圧倒的に百合(どーん)

 

歪みに歪み切った形で、2人の気持ちは通じ合っていたんです。

そしてそれは一生、暗く、隠微な形で存在し、継続していくんです。

 

なんだろ。もう私の頭の中では『聖母のように里英をその胸に抱いている綾川。その表情はまさしく慈母の如きそれで、しかし一方、胸に抱かれている里英の表情は見えない』と言う絵がどんっ!なんです。

 

なんだろうなぁ・・・ネタバレなしの感想でもちょろっと書いたのですが。

『方舟』もそうなんですが。この2作品の中で『主人公』と『探偵』と『犯人』、この3人以外の人間って、実は駒以外の何物でもないんじゃないのかなぁ。

そんな気すらしています。駒。物語を進めるための駒。もっと辛辣な言い方をすればモブと言ってもいいのかもしれない。

顔も名前も、勿論、それぞれの背景も個性も必要最低限度には語られている。

だけどそれでも、その描写は徹底的なまでに抑制されている。

それは彼ら、彼女らが『主人公』と『探偵』『犯人』、この3人の物語を進めるために必要な駒でしかないから。

 

だからこそ夕木さんの筆致って、どこか機械的で人間味が薄くて。それ故に暗く、陰鬱さすら感じさせてくる。

でもだからこそ『主人公』と『探偵』『犯人』、この3人だけは、この3人の物語だけは強烈に、鮮烈なまでの暗さ、それを伴った人間味をぶつけてくる、感じさせる。

そんなふうに私は思うのですが、さてはて。

ってか私、夕木さんの他の作品を読んでいないからなぁ。だからこれはもしかしたら『方舟』と『十戒』のみの話なのかもしれませんね。他の作品も読まなきゃ!

 

はい。そんなこんなで以上、ネタバレありで『十戒』について語ってまいりましたが。

さぁ、こうなってくると俄然3作品目がどうなるのか。楽しみではあります。

ってかもはや『犯人は誰だ!?』を推理する作品ではなく『『麻衣=綾川』は誰だ?』と推理する作品になりそうなのが笑う。

 

『私、勝手に人を好きになって、期待して、それでがっかりすることが多いんだよね』

それでは果たして、もし、勝手に好きになって、期待したその人が、麻衣の期待に応えてくれるような人だったならば。

『方舟』の主人公のように。『十戒』の主人公のように。

自らの命惜しさに行動をとるような人間ではない、本当に麻衣のことだけを思い、その命を投げうってでも麻衣の期待に応えてくれる人が出てきたとしたら。

そんな物語がこの先、書かれることはあるのかなぁ、と想像しただけで、もう、体に震えが走るような思いです。かっはー!

なんでもいいや。『方舟』『十戒』に続くシリーズ次作、早く読ませて!

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!