tsuzuketainekosanの日記

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読書感想文の日~『スワン』

今日からアイマス合同ライブアーカイブのない日々が始まる・・・泣く。

寂しすぎる。

早く円盤を・・・販促動画を・・・早く・・・早く・・・。

 

はい。そんなこんなで読書感想文をお送りいたします。

本日、お送りするのは呉勝浩さんの『スワン』です。

呉さんと言えば去年、発売された『爆弾』が直木賞にノミネート。また『このミステリーがすごい!』をはじめとする年末主要ミステリーランキングで上位にランクインするなど、大きな話題になりました。

『爆弾』で初めて、呉さんの作品に触れたと言う方も多いのではないでしょうか?かく言う私もその1人です!

 

『爆弾』、めちゃくちゃ面白かったなぁ~。取調室と言う、ある種の密室で繰り広げられる犯罪者と警察官の緊迫感溢れるやり取り。その中で、じょじょに露になっていく、1人1人の、人間としての本性。その濃厚さ。そして先の読めない物語の展開には、本当にページをめくる指を止められなかったのですよ。

私は呉さんの作品は『爆弾』以外、読んだことがなかったのですが、この作品を機に、他の作品も読んでいたいと思いまして。

 

で、今回、この『スワン』を読んでみたと言う次第です。

 

てなことで『スワン』の、まずはあらすじです。

巨大ショッピングモール『スワン』で発生した無差別銃撃事件。死傷者40名を超す大惨事となったこの事件に巻き込まれながら生存した高校生のいずみは、同じく事件に巻き込まれ、重傷を負ったものの生存を果たした同級生の小梢から、あることを世間に対して暴露される。

それによっていずみは、『事件を生き延びた被害者』から一転『保身ために他者の命を差し出した人間』として、世間からの激しい非難を浴びせられることになる。そんないずみのもとに、ある日、一通の招待状が届く。

いずみ同様、招待状を受け取ったのは4人。彼ら、彼女らの共通点は、無差別殺傷事件の生存者であることだった。いずみを含め5人が集められた『お茶会』、その司会を務める男は、無差別銃撃事件で残された謎の解明、それが『お茶会』の目的だと話し、と言うのが簡単なあらすじです。

 

えー。はい。まず最初に。冒頭、何ページかにわたり『スワン』で発生した無差別銃撃事件の様子が、銃撃犯視点で描かれています。またその後も、回想だったり映像として、その犯行現場が描かれる、と言う部分も出てきます。

これがなかなか衝撃的と言うか、無差別銃撃事件なので当然ですが残酷で無慈悲です。銃撃犯の身勝手で、ドライで、そのくせ湿っぽくて、粘着的で、狂ってるとしか言いようのない心情も語られています。私はこう言う描写は、ミステリー作品を多く読んでいると言うこともあって変な言い方、慣れている部分もありますが、苦手な方や読み慣れていない方には、正直、しんどいかもしれません。その点だけ、ご注意を。

 

全体的な感想としては、やはり、この作品もめちゃくちゃ面白かったです。物語は先程も書いた通り、いずみを主人公として、大惨事の中で亡くなった1人の高齢女性。その死に残された謎がじょじょに明らかにされていく流れになっています。そしてその中で、いずみや『お茶会』参加者たちがここに隠している真実も明らかになっていく、と言うお話です。

なのでもう、続きが気になって気になって仕方ないんですよね。うん。1つ、謎が解明されたと思ったら、そこからまた新しい謎が出てくる。『お茶会』の参加者たち、特に主人公であるいずみは、明らかに何かを隠している。それは一体、何なのか。彼女と、彼女とただならぬ関係にある小梢の間に、大惨事の最中、何があったのか。何がなかったのか。2人は、いずみは、小梢は、何を隠しているのか。何を隠していないのか。

そこに対しての、ある種の下世話な好奇心。ただただ『知りたい』と言う欲求が刺激されて、とにかく先へ、先へ、と読み進めていきたい一心で、気が付いたら読み終えていた。そんな作品です。

 

で、面白かったんですけど、同時、もうめちゃくちゃいろいろ考えさせられる、胸に重く突き刺さってくるようなことが描かれていた、そんな作品であったな、とも思いました。ここからは、そこに焦点を絞って感想を書いていきましょう。

 

この作品を読み終えて私が感じたのは『力強い怒り』でした。

『力強い怒り』は『絶望』と言い換えてもいいのかもしれません。でもやっぱり、これは『絶望』ではないのです。『力強い怒り』なんです。

怒りって、私にとってはめちゃくちゃエネルギーを必要とする、力を必要とする、そうした感情であり行為なのです。何と言うか、怒りは、もうそれだけで強い、と言うか。なのに、この作品の最後に感じたのは存在としてただでさえ強い怒りの、更に『力強い怒り』だった。

 

そこに込められているのは、主人公であるいずみの、凄まじいまでのエネルギーです。絶望することにも疲弊しきって、多分、怒りを抱えることにも疲弊しきった彼女が、しかし、『お茶会』で明かされた、暴かれた真実を通して、改めて絶望し、そして強く怒った。

世界はとてつもなく理不尽で、信用するに、とても値しないもので。それでも、自分は、自分のために、その世界を信用する、信用したい。だからそのために、生きていく。強く、強く怒りながら、生きていく。

そんな彼女の、陳腐な言葉で言ってしまうのならば再生、再生に費やしたエネルギー、その凄まじさをびしびしと感じて、もう言葉が出てこなかった。

読む人にとっては、彼女のこの思いと言うのは、単なる開き直りでしかない。そんなふうに感じられる方もいらっしゃると思うのです。

『スワン』で発生した事件そのものへの対し方。あるいは、そう。1人の男児が死ぬことになった、そこにあった真実に対しての、いずみの語り口。『たかが死体で』と言う彼女の語りには、嫌悪感を抱かれる方もいらっしゃることでしょう。

『開き直りも甚だしくない!?自分は生き残ったからって、調子に乗り過ぎだよ!』と。眉を顰められる方もいらっしゃることでしょう。

と言うか、そう言う部分もあるのだと、私は感じました。『開き直らなきゃ、だって、やっていけないでしょ?』と言う部分も、まったく0ではなかったはずです。

 

でも、それの良し悪しなんて誰にもわからないし、そもそもそこに良し悪しがあるのかどうかなんかも、誰にも判断できない、判断できるはずがない。そして何より、そうやって誰かが判断を下しようが、そうやって下された判断を目の前に出されようが、それはいずみにとっては、心底、どうでもいいことなのだと思います。

 

私は、私の人生を生きる。

そのために、私は、私のやり方で、世界への信頼を取り戻していく。

私の物語を作り、語ることができるのは私だけ。

私は、こんなくだらない悲劇と共に、私の人生を、物語を生きていってやる。

 

そんな凄まじいエネルギーが、作品の終盤、事の真相を振り返り小梢に対してメッセージを送るいずみの姿からは感じられて、私はもう、言葉がありませんでしね。うん。

何と言うか、胸が震える思いすらしたと言うか。震えるなんて生易しい言葉では足りないくらいに、がつがつ、感情を叩かれたと言うか。感情が震度7クラスの地震に襲われたと言うか(語彙力よ)

 

『スワン』で発生した大虐殺。あまりに理不尽なその出来事に、突然、襲われたいずみと小梢。2人の間に、何があったのか。

いずみがいずみの視点のみで語るその『真実』、それも、あまりにも衝撃的でした。けれど、あぁ、詳細は言えない。言えないけれど、ネタバレにはならないと思うから書いてしまうけれど、そのことを振り返っての、いずみの『あれは殺し合いだった』と言葉は、もう涙が出てきそうになりました。

殺し合いだった。だけどそこにあった、いずみの身勝手な願いを、一体、誰が責められるだろうか。少なくとも私は、もう彼女のその身勝手な願いに共感しかなくて、胸が苦しくて、切なくてたまらない思いに駆られました。

 

で、ですね。

端的に言えば、いずみのエネルギーの原動力になっているのは、共感への拒絶だと感じたのです。うん。

 

この作品では、いずみに対して共感しようとする人。あるいはいずみを含めて『スワン』での大惨事に巻き込まれた、巻き込まれてしまった人。その人たちに対して、たとえ共感はできなくとも、その思いに耳を傾けることで、何かしらの力になりたかった。そんな真摯な思いを抱いている人、そう言う人も登場します。

 

そうした人たちの言葉、思いに触れる度、いずみの心は強く揺さぶられます。

彼女は、私の印象ではありますが、とても頭が良くて、そしてやさしい少女です。

だからこそ、彼女の心は揺さぶられ、揺さぶられ、揺さぶられるのです。

共感しようとして来る人間。あるいは、共感はできなくとも話を聞くことで力になりたいと願う人間。その人間の気持ちも察することができるから。

 

でも、彼女は、それを良しとしない。そこに強い拒絶を示すのです。

何故か。

『スワン』での事件に巻き込まれた張本人である彼女は、知っていたからです。

あの日、あの時、何が起きたのか。何が起きていなかったのか。

事件に巻き込まれた人、1人、1人が何を、どう思い、どんなふうに動いていたのか。

そのどれが正しくて、どれが正しくなかったのか。

そんなこと、なにひとつ、知らないしわからないと言うことを知っていたからです。

 

『当事者』と呼ばれる立場の1人である自分ですら、そんな状態であるのに。

なのに何故、『当事者』ですらない、ただの外野の人間でしかない人が、そこに共感を示そうとするのか。示すことができるのか。

あるいはその話を聞くことで力になりたいなんて言うことができるのか。

 

できるわけがないじゃない、と。

 

で、です。

 

普段、ニュースで、それこそ無差別殺傷事件が報道されたり。いろんな、あまりにも理不尽な事件が報道されたりするのを耳目にするたび、私は『なんて気の毒な』と思うんですよ。もう、それこそ胸がつぶれるような思いがすると言うか。胸がえぐられるような思いすらすることもあると言うか。

あるいは、ある事件を起こした人間、それに対しての刑事罰があまりに軽いものだったりすると『なんでこんな軽いんよ!被害に遭われた人の気持ち、もっと考えろよ!』とか、1人で勝手にぷんすか怒っているような人間なんですけれど。

でも、多分、私のような方って少なくないと思うんです。

特にSNSが普及している今だからこそ、そう思うんですけど。

 

なんか、それって、どうなんだろう、と個人的には考えさせられました。

いずみの姿を通して。

『言葉』を通して共感をしようとする。

そのことの危うさ、暴力性みたいなもの?とでも言うのでしょうか。

それをめちゃくちゃ考えさせられた。

たとえそこにある思いが真摯なもの、心底、『この思いが被害に遭われた方の力になりますように』と言うものであったとしても。

それを胸の内に留めておくと言うのも、ひとつの、うーん、言葉は難しいけれど、あり方だよなぁ、と。

 

はい。

様々な『言葉』に翻弄され、ずたぼろにされ、ぐっらぐっらと揺さぶられるいずみの姿は、ただただ作品を読んでいて痛々しい限り、苦しい限りなのです。

でもだからこそ、先程も書きました。

その苦しさも、痛みも、絶望も何もかもを一身に引き受け、なお、自分の言葉で、自分の物語を語っていこうとするいずみの姿、そのエネルギーには、凄まじさしか感じなかったと言うか。うん。

 

真実だとしても。

偽りだとしても。

 

白鳥は白鳥で、その羽はどこまでも白い。

 

その罪深さ、しかしそれを罪深いと指摘することすら馬鹿馬鹿しいことを知るいずみは、まっすぐに、華麗に、悲しく、美しく、舞い踊るように物語っていくのだろうな。

 

はい。

 

そんな具合で、アレです。

冒頭も書きましたが、私が呉さんの作品を読むのは本作で多分、2作目だと思うのですが・・・たった2作品、読んだだけで、こんなことを語るのもおこがましい限りだとは思います、と前置きしたうえで。

 

呉さんの作品って、人間の本性、その特にネガティブでダークで、普段は暴かれない、暴いてはならない、そんな部分がめちゃくちゃ徹底的に、えげつなく描かれている気がします。

『どうよ!人間なんて所詮、こんなもんなんだぜ!』って挑発されている、突き付けられているような気すらすると言うか。

 

だから読んでいて、少なくとも私は、めちゃくちゃ共感しかないし、自分自身の本性、それが暴かれていくような快感すら覚えるのです。そしてだからこそ、登場人物に対しても、強い親近感を抱いてしまうと言うか。うん。

でもこういう作品だからこそ、好き嫌いがはっきり、くっきりと分かれる、そんな作品を書かれる作家さんだなぁ、とも。

 

ただ、です。

これも『たかだか2作品を読んだくらいで』と突っ込まれること必至だとは思うのですが。

今作品『スワン』にしても、そして『爆弾』にしても。

『人間なんて、所詮、面の皮一枚、その下はこんなくだらない、えげつないものしか抱えていないんだぜ!』と言うことを徹底的にえげつなく描きながら、でも最終的には『それでも人間は、くだらなくてえげつない生き物だけれど、凄まじいんだぜ』と言うようなことを感じさせてくれたんですよね、個人的には。

そこがもう、個人的には信頼しかないと言うか。

 

勿論、えげつない本性故に落ちるところまで落ちていく。そしてどうにもこうにも救われない、はい無限地獄できあがり!と言う結末も嫌いじゃないってか好きなんですけれど。うふふ。

 

でもやっぱり、絶望の絶望の中。その中、か弱くも、確かに輝いている光。

それを信じようとする、信じさせてくれる、そう言うのも『小説』だからこそだよなぁ、と強く感じるのです。

人間であることの羞恥と、人間であることの、微かな誇り。

それを感じさせてくれるのが、登場人物たちが見せつけてくれるのが呉作品の魅力なのかなぁ、とも思ったり。

 

とは言え、何度も言っている通り、2作品しか読んでいない身では偉そうに語れまい。

なのでまた、呉さんの作品、読んでみたいなぁ。

 

てなことで本日は呉勝浩さんの『スワン』の感想をお送りいたしました。

次回の読書感想文は3月11日ですか。

そうか。2月はもう1週間で終わりなのか。早いなぁ~。

 

ではでは。本日の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!