5月24日に開催された競馬のG1レース、オークス。こちらで栄冠に輝いたのが、JRA所属の女性騎手初のG1制覇となった今村聖奈騎手、そしてジュウリョクピエロでした。
ジュウリョクピエロの名前の意味は、文字通り『重力+ピエロ』ですが、その由来は伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』であるそうです。
と言うわけでこれを機に『重力ピエロ』が大売れ。ネット書店も、そしてリアル書店でも手に入らない状態が続いていると言うことで。
『手に入りにくいなら仕方ない。ならば!』と思い立ち、『重力ピエロ』が入手しにくい今だからこそ、本作以外にも読んで欲しい、伊坂さんの作品をご紹介する。
そんな記事を書くことにいたしました。
『春が二階から落ちてきた』
そんな書き出しで始まる『重力ピエロ』は、ある兄弟と、その父親と母親の物語です。その『血の繋がり』を描いた作品です。その『血の繋がり』を重力を感じさせない軽やかさで、飛び越えていった親と子の話です。
思い返すと、胸がきゅっ、と締め付けられるような思いがして、でも同時、とても温かなものが胸を満たしていく、私にとっては本当に愛おしい作品でもあります。
と言うかここまで説明しておいてなんですが、入手が叶った際にはどうか、もう余計な前情報なしで、まっさらな状態で読み始めて頂きたいです。
『重力ピエロ』も素晴らしい!面白い!
が、他にも素晴らしい、面白い伊坂作品はたくさんあるぞ!
『重力ピエロ』が手に入るまでの間、それらの作品にも触れてみて下さい!
・『オーデュボンの祈り』
・・・伊坂さんのデビュー作です。『デビュー作には作家の全てが詰まっている』と言う言葉通りだと思います。
現実感がありつつ、どこかファンタジックさを感じさせる不思議な世界観、舞台。独特の存在感を放つ登場人物たち。ウィットにとんだ、彼ら、彼女らが交わす会話の妙。『人間』と言う生きものの、その色んな意味でのどうしようもなさを時に鋭く、時にユーモアに描いた筆致。自然に張り巡らされている伏線と、その回収の見事さ。ミステリとしての完成度の高さ。そして予測不可能な展開。
本作以降の伊坂作品にも言えるこうした要素が、デビュー作にして既に炸裂している、そんな作品でございます。
大体『未来が見える、人語を喋る案山子が殺害された』と言う設定からして『何を食べてたら、そんな奇想天外なアイディアを思いつくんだ』の一言ですよね(笑)
舞台となる島に欠けている、大切なものは何なのか。その正体が明らかになった時には、私はポジティブ鳥肌が止まりませんでした。
『重力ピエロ』や、次に紹介する作品もそうですが。伊坂作品の多くは、その結末、あるいは登場人物たちの行動に『は?』と疑問や嫌悪感、拍子抜けを感じる方もいらっしゃると思います。
だからこそ私は『この辺りの伊坂作品を読んで、理解ができない、怒りすら感じると言う人は、絶対に仲良くなりたくないなぁ』と思うのであります。
で、本作もそのひとつだったりします。
何はともあれ、伊坂さんのデビュー作。『重力ピエロ』を読む前に、まずは伊坂作品の雰囲気に触れてみると言う意味では、本作はうってつけかと思います。
・『アヒルと鴨のコインロッカー』
・・・『重力ピエロ』の翌年に刊行された作品です。個人的には『好きな伊坂作品は?』と聞かれたら『重力ピエロ』かこちらかで三日三晩悩みそう、と言うくらいに好きな、そしてずっとずっと胸の中に、この作品に対する思いがある、そんな作品です。
ある大学生の現在のお話と、ある女性の2年前のお話が交互で綴られている物語です。やはりこの作品も前情報は少な目で、まっさらな状態で読み始めて頂きたいです。
私のように単純な方ほど、ミステリとして騙されていることに気づいた時の驚き、快感も味わえますから。
『悪』と言うもの。その存在。その行為。それは一体、どう言うものか。そしてそこに、人は、どのようにして向き合うのか。
伊坂作品の多くに共通しているこうした要素が、本作でもまた強く濃く、描かれています。個人的には憎んでも憎んでも憎み足りない、ある犯罪。卑劣で、おぞましく、許しがたい犯罪を通して描かれている、人間のどうしようもなさ。その『悪』。そしてそこに対峙する、メインの登場人物たち。
いろいろ考えさせられます。いろいろ考えさせられますが、何と言うか『『重力ピエロ』を読む前に、本作を読んで『えっ・・・?』と嫌悪感なり疑問を抱かれた方は、恐らく『重力ピエロ』でも似たような感触を抱かれるのではないかなぁ』と勝手ながらに思います。すいません。
ただ当たり前ですが『共感』だけが読書の醍醐味ではありません。だからこそ私は、彼ら、彼女らの行動に嫌悪や疑問を抱かれた方と、話がしてみたいのです。
どこまでも軽やかに。そして楽しく。そんな兄弟ふたりの姿が目に浮かぶ『重力ピエロ』とは異なり、『アヒルと鴨のコインロッカー』は、最後の最後まで切なさが胸を締め付ける。
ボブ・ディランの『風に吹かれて』の力もあって『どうか、どうか、幸せであれ』と願わずにはいられない、実に余韻深いラストシーンも、私は強く印象に残っています。
映画も、とても良かったです・・・!
よろしければ是非、どうぞ。
・『陽気なギャングが地球を回す』
・・・シリーズ作品です。本作含めて、全部で3作品、刊行されています。色んな意味でいろいろと考えてしまう。楽しく、軽やかだけど、でも、考えずにはいられない。
『重力ピエロ』含めて、ここまで紹介した作品がそんな感じだとすれば、この『陽気なギャングが地球を回す』シリーズは、良い意味でなーんにも考えずに、ひたすら、ギャグたちの勢いある物語に巻き込まれる、その快感と楽しみを味わえる作品です。
ただ当たり前ですが、やはりミステリ的な仕掛けも張り巡らされているので、その辺りでの油断は禁物です。ふふ。
他人の嘘が見抜けてしまう。とめどなく言葉を紡げてしまう。天才的なスリの腕前。正確無比な体内時計。そんな能力を持った男女4人組の強盗が、情けなくも逆に強奪されてしまった『売上』を取り戻すために奔走するのが本作です。そして以降のシリーズも、この4人が登場しています。
伊坂作品の魅力のひとつである、登場人物の個性、存在感。そして交わされる会話の妙。それが休む間もなく炸裂している作品ではないでしょうか。
だからもう、何も起きていなくても面白い。だからもう、何か起きたら面白さが更に加速していって、本当にページをめくる指を止めることができないのです。
勿論、単に『要素』としてこの特殊能力はあるわけでなく、しっかり『役割』として機能を果たしているのも、実に憎いしうまい。
終始、ワクワクドキドキが味わえる、4人と共に楽しいギャングライフを謳歌しているような爽快感を味わえる作品です。
ちなみに私は、言葉が止まらない演説人間、響野が大好きです。
『重力ピエロ』とはまた一味違った伊坂作品の魅力。また作家としての、伊坂さんの引き出しの多さ。それを味わってみたい方、まずはこのシリーズからいかがでしょうか?
・『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX』『トリプルセブン』
・・・『殺し屋』シリーズです。今のところ全4作、刊行されています。なおシリーズですが、どの作品から読んでも大きな問題はありません。ただ当たり前ですが、順番に読んでいった方が、いろんな意味で味わい深さが楽しめる、合間、合間に『にやり』とできるのは言うまでもないです。
詳しくはこちらをどうぞ。
『殺し屋』シリーズです。なので主要人物は殺し屋さんです。そして描かれているのも、殺し屋さんの、殺し屋としての日常です。ただその辺り、作品によって微妙に、その描き方の角度だったり描かれる風景だったり、湿度だったりが異なっているのも、またこれ、シリーズを通しての楽しみだったりします。
『AX』は恐妻家の最強殺し屋が主人公。殺し屋としては最強、超一流なのに、妻には全く頭があがらない殺し屋『兜』が、とにかく愛おしいと言うかいじらしいと言うか。微笑ましく、剣呑な物語であるにもかかわらず、にこにこしてしまう。そして『兜』の家族、家庭に対する『愛情』と言うものに、心をがつがつ揺さぶられるのです。
シリーズ作、全部、好きです。全部好きなのですが『1作だけ選ばないと殺す』と脅されたら、すいません。私は『マリアビートル』を選びます。
『ブレット・トレイン』と言うタイトルで、ハリウッド映画化もされた本作は、新幹線と言う走る密室が舞台。そこで繰り広げられる、様々な殺し屋たちによる殺しの競演。そして絡み合う思惑の物語。
張り詰めた緊迫感と、それなのに繰り広げられる登場人物たちの会話のウィット、ユーモアに吹き出してしまう、そのギャップもいつもながら『たまらん』の一言。
アクションシーンのスタイリッシュさ、殺し屋たちの人間性。生き様。その熱さや悲しみ。乾いた質感。
そして殺し屋の物語でありながら、なお描かれている、その在り方を凌駕するような『悪』の存在。
濃厚な全ての要素ががっちりと絡み合い、まさに新幹線の如く加速していく。その物語は一気読みするしかないほどの面白さです。
ミステリとしての仕掛けも言わずもがな・・・ある伏線が回収されて、ある人物がそれまでの行いの報いを受けるような瞬間の描写は、猛烈に気持ち良かったです!
ちなみに私は蜜柑と檸檬が大好きです!大好きです!大好きです!頼むから『マリアビートル』アニメ化してくれ。喋る蜜柑と檸檬が見たいんだ!
なお『グラスホッパー』では、蝉と岩西が大好きです!
やはり『重力ピエロ』とはまた一味違った『動』な伊坂作品に触れてみたいと言う方は、是非ともどうぞ。
・『さよならジャバウォック』
・・・ラストは伊坂さんの最新作であるこちらを。伊坂さんの、久し振りとなるミステリ作品で、書き下ろし作品でもあります。
伊坂さんファンの方ならご存じかと思いますが。伊坂さんの作品はある一定の年代から、少し描かれることやその雰囲気が変わっていっています。そうして生み出された作品も、それはそれで魅力的なのですが、やはり初期の頃の伊坂作品が好きな私なんかは『初期作品のようなミステリは、もう描かれないのかなぁ』と言う思いもあったので。
この『さよならジャバウォック』を読んだ時には、初期作品の数々を思い出したのでした。
家庭を顧みない夫との、冷めた生活に疲弊しきっている主人公。その唯一の支えは、息子の存在だった。そんな彼女は、夫が浴室で倒れているのを目にする。暴力を振るわれ、彼を殺してしまったのだ。しかし愛すべき息子のためにも、逮捕されてしまうわけにはいかない。
途方に暮れる彼女の前に姿を見せたのは、2週間前に再会したばかりの、大学時代の後輩だった。
感想はこちらの記事でも書いております。
tsuzuketainekosan.hatenablog.com
多くの伊坂作品で描かれてきた『悪』の存在。人間のどうしようもなさ。
本作はそれが、ある人物を通して『人類』と言う、大きな対象で語られ描かれている。そんな作品だと思います。そしてその人物の、その眼差しが、思いが、悲しいまでに、愚直なまでに真摯で一直線だからこそ、またこれ切なさもこみ上げてくると言う。
ただその大きな視点に対しての、この作品で提示されていた答えのようなもの。
それは実に単純で、鮮やかで『そうそう。伊坂作品と言えば、この感じだよね』と私は感動したほどでした。
破魔矢と絵馬の存在が、とにかくめちゃくちゃ良いんだわ・・・!
『重力ピエロ』が初期の作品だからこそ、あえてまずは、最新作を読んでみると言うのも、なかなか面白いのではないでしょうか。
と言うわけでつらつら、伊坂作品についてご紹介してまいりましたが。
他にも『死神の精度』から始まる『死神』シリーズとか『砂漠』とか。『逆ソクラテス』あたりもおススメしたいです!
あと『アヒルと鴨のコインロッカー』以外にも、『重力ピエロ』や『陽気なギャングが地球を回す』『グラスホッパー』は映画化もされているよ!
ちなみに。これも伊坂作品のファンの方なら熟知されていると思いますが。
伊坂作品は舞台設定や登場人物がリンクしているものが多数、あります。ある作品に、他作品の登場人物がひょっこり、登場していたり。登場はしていなくても、名前だけが出てきたり。下手すりゃうっかり、その登場人物がどうなったかのネタバレを踏むと言うこともあります。
そう言う楽しみもあるので、伊坂作品をたくさん読まれた方ほど、他の作品を読む楽しみも増すとも言えます。
なので皆さん!
『重力ピエロ』は勿論のこと、それ以外の作品もどうぞ読まれてみて下さいね!
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました。