5月も今日で終わり!
クソみたいな連続4勤も今日で終わり!
くたばれ4勤、5勤!
と言うわけで読書感想文をお送りいたします。
前回に続いての話題で大変、申し訳ないのですが。
文庫本も本当に高くなったじゃないですか。で、前回、感想をお送りした本も『550円で買えちゃう!』と言うのに心惹かれて購入したのですが。
今回の本も、そんな感じでして(汗)
出先で『そうだ。読む本がもうすぐなくなりそうだから、買わねば』と思い。しかしそれまでにお金を結構、使ってしまったもので。そのお釣りとして残っていた800円。財布の中のそれを見つめながら『なんとか800円で購入できる本はないものか』と。
そんな思いで文庫コーナーをぐるぐる、回っていた中で見つけた本でございます。
税込み770円!ありがたい!
本当にお金のことばっかり言ってごめんなさい!
と言うわけで本日、感想をお送りするのは原田マハさんの『黒い絵』でございます。
世界的に有名な絵画。またその絵画を生み出した人物。それらとミステリーを融合させた『暗幕のゲルニカ』や『サロメ』『楽園のカンヴァス』『たゆたえども沈まず』と言った、原田さんの作品は読んだことがありました。
ただ、今回の『黒い絵』は、文庫の帯に『原田マハのもう一つの顔、禁断のノワール小説!』と言う惹句が踊っておりまして。
『原田さんのノワール作品!?』と、その意外過ぎる組み合わせに心惹かれたのも、購入に至った理由のひとつでございます。
決して、値段のお安さだけに惹かれたわけじゃないぞ!(笑)
ただその一方で、これまで読んできた原田さんの作品。それを思い返してみると、実在した人物にしろ、架空の人物にしろ。非常に、その描写に人間味と臨場感が溢れていた。生々しく、何か作品を読んでいる、そのすぐ傍に彼ら、彼女らの息遣いを感じるような。そんな感覚を抱かせるほどの生々しさがあった。
なのでそれを考えると、人間の、声を大にして言えないような欲望や欲求。暗い部分を、陰鬱ながらも赤裸々に描くノワール小説との相性は、実はとっても良いのではないか。
そんな期待がしたのも確かです。
収録されているのは全7話。長さ的には、1作品は中編、あとは全て短編です。
それぞれの作品、簡単なあらすじと共に感想をお送りしていきます。
・『深海魚』
・・・学校に居場所がない真央。彼女が唯一、安息を得られるのは自室の押し入れの中だった。ある日、彼女は、幼馴染の流花と再会。彼女を押し入れの中の世界に誘うのだが、と言うお話です。
収録されている多くの作品で描かれているエロス。あるいは抗いがたい性欲。そうしたものが如実に描かれていて、そこにふたりの10代の少女の濃密にして濃厚な関係。現実から弾き出されたかのようなふたりの、ふたりだけの関係が加わることで、結果的には『最高に『甘い地獄』な百合じゃん!』と私、歓喜。
甘い地獄です。終盤までの、本当に身を切るような切なさ。だからこその甘い展開みたいなものが一変するラストの衝撃の、でもある意味では予想通りの展開は、まさに甘い地獄です。
『海の底』より更に深い、深い、底なしの底に。沈んでいって、一切の逃げ場もない世界で、ただただ揺蕩うしかない。そんな主人公の姿が。そしてまた、湿った、血と、息遣いと体液と。そうしたものが入り混じった空気の質感とにおい。それらが伝わってくる作品でした。
・『楽園の破片』
・・・道ならぬ恋に身を焦がした果てに、相手の子どもを妊娠した女性が主人公。その相手と『楽園』についてのパネルディスカッションを行うことになった彼女の身に起きた異変とは、と言うお話。
ゴーギャンが『楽園』タヒチで描いた作品の数々。それらから、あるいは『楽園』を目指したゴーギャンの生きた時間。また『楽園』そのものから呼び起こされるイメージ。それらと、主人公の女性の生きてきた時間。罪深くも甘美で情熱的で、そして刹那的な恋の時間。妊娠と言う、圧倒的な結果に至った、その愉悦。
それらが絡み合うように、時に幻想的に、時に生々しく。また時に哲学的に描かれた作品です。全体的に漂う、息を呑むような緊張感がたまりませんでした。
この結末は・・・なんか、こー。いろいろ考えさせられるようで。切ないと言うか、『現実』の容赦のなさ。それを叩きつけられたような思いもして。
・『指』
・・・妻子ある16歳上の大学教授の男性と付き合っている女性。彼女は、性交中の男性の指使いに大きな不満、怒りを抱いていた。ふたりきりの旅行で訪れた室生寺。そこで目にした仏像。その指にも、彼女はエロスを感じてしまい、と言うお話。
主人公の女性が、あんまりにも性欲の塊で、すいません。私は笑ってしまいました。笑ってしまったけど、まぁ、性欲って三大欲求のひとつだしなぁ。『心』や『思考』を意味するりっしんべん。そこに生が並ぶことでできている感じだから、何と言うか性欲と言うのは、心や思考で生きること、それそのものにも直結していることなんだろうなぁ、とか思ったり。
そう言う視点で改めて読んでみると、成程。男性と付き合うこと。そこに重視するもの。それを重視する理由。そこから垣間見える彼女の貪欲で、強い姿。そこから放たれる意思、そのものが彼女の性欲、その源なんだろうなぁ、とも思ったり。
室生寺、仏像。そうしたものから感じる清らかな静寂。そしてそれをかき乱すような彼女のエロス。あるいは彼女が仏像に感じたエロス。その相反する描写も、何かこちらの感情もかき乱されるような感覚があって面白かったです。
幻想的なラストも素敵だったけど、すいません。やはり私は『性欲、強すぎじゃない?』と微笑ましさすらこみあげてきました。本当にすいません。
・『キアーラ』
・・・地震により多大なダメージを受けた壁画。その修復作業にあたることになった主人公の姿を描いた作品です。私は全く知らなかったのですが、聖フランチェスコと、彼に最初に帰依したキアーラと言う女性の関係性が物語の中心を貫いています。
ダメージを受けた美術作品、その修復作業と言うと、もう何年前になるのかは定かではないのですが。大きな話題になりましたよね。ひとりの高齢の女性が、イエス・キリストのフレスコ画を修復した結果、とんでもないことになってしまったと言うことが。
この作品を通じて、その話題を思い出したと共に、当たり前ですがダメージを受けた作品を修復する。可能な限り元通りにする。そして元あった形のままに、後世に伝えると言う修復作業の難しさと言うか。そこに求められる、いろんな意味でのストイックさを、強く感じました。
調べてみたら、こう言う修復作業が失敗しちゃった。とんでもないことになっちゃったと言うのは、決して珍しいことではないようで。
そのほとんどが『金がない!だから素人に任せよう!』と言う流れからのことらしくて。
ねー。取り返しのつかないことには、お金は渋っちゃダメだってば。
フランチェスコとキアーラの関係。その清らかにして永遠の関係に、いろんな形で魅せられた人間たちの物語。しかし、今、この世界で生きている、俗世に、清貧とはかけ離れた世界で生きている人間たちが繰り広げる物語は、やはり最終的には暗い欲望に塗れたそれにたどり着きます。
でも、まぁ、人間だからな。聖人じゃない、人間だからな。
衝撃の結末。まるで目の前でそれが起こったかのような臨場感に、ただただ息を呑むしかありませんでした。でもそれもまた、惨劇だからこその美しさを感じさせるのはさすがの一言。
・『オフィーリア』
・・・絵画に描かれた女性が主人公と言う、一風変わった作品です。水中に沈みゆく、その寸前を描かれたその女性が、長い時間の中で目撃してきた、ある画家とその娘の生を語り聞かせる、と言うお話です。
なおこの作品は芥川龍之介の『地獄変』を下書きに執筆された作品であることが、最後に記載されています。そしてタイトル通り、この作品の主人公である女性は、絵画『オフィーリア』に描かれている女性です。
絵画に描かれ、永遠にそこに閉じ込められた女性が、新たな絵画の、そして新たに、自らと同じように絵画に閉じ込められる者の姿を語り聞かせる。この構図が、もう読んでいてぞくぞくしました。
それはものすごく残酷で、悲しくて、陰惨なことのはずなのに。何故か、何故か、私たちが決して触れることのないような愉悦、陶酔。あるいは淫靡な歓喜。そうしたものも感じさせるようで、己の変態性を突き付けられた気持ちです。おっふ。
人が、昔から絵を描いてきた理由。そこにある欲求、思考。それは様々でしょうが、やはりそのいちばんは『この瞬間を永遠のものにしたい』『この瞬間をこの瞬間のままに留めておきたい』ではないでしょうか。
今まさに、命を失いゆく我が娘。『見たものしか描けない』と自らが発した言葉の、犠牲になった、犠牲にされてしまったとも考えられる娘の、その命が果てていく一瞬、一瞬の煌めきのようなもの。
そこに画家として魅せられてしまった男の、しかし父親としての良心。その相反するふたつの感情が、実に心を締め付ける作品でした。
個人的にはこの作品がいちばん好きです。
・『向日葵奇譚』
・・・大人気若手俳優を主演に迎えた舞台。その脚本を執筆することになった脚本家。舞台の題材はゴッホ。脚本執筆に、稽古に、そしてゴッホの研究にのめり込んでいく脚本家は、奇妙な出来事に見舞われていく、と言うお話です。
ひとつの物事にとりつかれてしまった人間。その人間が生きる世界の、現実と、そうでない側にひかれていた境界線の不確かさ。それを感じさせられた作品でした。
とは言え『別に実被害が出たわけじゃなし。なら別に良かったんじゃね?それだけ自分が、彼と共にゴッホと言う存在、また舞台に情熱を注いでいたったことだよ』とあっさり、思ってしまった私は、なんて情緒を感じる心が欠落しているのでしょうか(汗)
原田さんの作品では『たゆたえども沈まず』や『リボルバー』などでも描かれているゴッホと言う存在。それだけ、彼の生涯。また彼が生み出した作品、あるいは彼の人間関係と言うのは魅力的なんだろうなぁ。
そんなことを改めて感じました。
はい。と言うことで全7作の感想をつらつらお送りいたしました。
原田さんの作品らしく、和洋問わないアート要素がたっぷりな作品であり、同時にダーク小説としての魅力である、人間のどうしようもなさ。それもしっかりと描かれている作品ばかり。
短編ではありますが、どの作品も本当に読みごたえがあり、それこそ美術館などでたくさんの絵画を鑑賞したかのような満足感を味わえました。
アートに詳しい方も、そうでない方も。
ぜひぜひ、読まれてみて下さいね。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました。