泣いた。昨日のアイマス20周年前夜生配信、泣いた。
途中までしか見られてないけど、もう赤羽根さんと中村さんのアフレコからの、今井さんの言葉の流れに泣いた。
出演者さんの中にも泣かれてる方いらっしゃったけど、あれは泣く。
夏休みが始まるのか。もう始まってるのか。
いいな、夏休み。
私も無邪気に1か月くらい、休みたい。
そんなこんなで読書感想文をお送りいたします。
21日が休みなので1日、前倒しでございます。
本日、感想をお送りするのは米澤穂信さんの『栞と嘘の季節』です。
数多くの傑作ミステリーを輩出されている米澤さん。『古典部シリーズ』や『小市民シリーズ』と言った青春ミステリーはアニメ化もされており、多くのファンを魅了しています。
そしてこの『栞と嘘の季節』も青春ミステリーのひとつ。前作『本と鍵の季節』と合わせて、こちらは『図書委員シリーズ』とも呼ばれています。
高校で図書委員を務める堀川次郎と松倉詩門。このふたりが日常の中で起きる事件の謎に迫っていくと言うお話です。
本作は集英社文庫から刊行されていますが、集英社文庫と言えば、ここ数年。夏の文庫フェアの際には、声優さんが文庫作品を朗読すると言う企画を実施されています。
そして今年もこちらの企画は実施されています。
今年、こちらの企画に参加されている声優さんは、津田健次郎さん、白井悠介さん、小林千晃さん。戸谷菊之介さん、土屋神葉さんの5名。
各声優さんによる朗読動画はYouTubeの『よまにゃチャンネル』で視聴することができます。
で。この『栞と嘘の季節』も朗読作品に選出されています。
堀川を小林さん、松倉を土屋さんが朗読されていますので、ぜひぜひ、本作を読まれた方は勿論のこと。未読の方もおふたりの朗読による『栞と嘘の季節』の世界、楽しまれてみて下さいね~。
ちなみに小林さんと土屋さん、おふたりの朗読に文句をつけるとか、そんな意味は一切なく。こちらはこちらで大変、素晴らしかったです!
私の中では第1作を読んだ時から、堀川はCV榎木淳弥さん、そして松倉はCV中村悠一さんで脳内アフレコされておりました!
ではでは。まずは簡単なあらすじから。
図書委員の業務で本のチェックをしていた堀川と松倉は、1冊の返却本に押し花の栞が挟まれているのを発見する。押し花として栞に閉じ込められていた、小さな花。それは猛毒を有するトリカブトのそれだった。
栞の持ち主を探すふたり。校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見した矢先、男性教師が中毒で緊急搬送される。
『その栞は自分のものだ』、そう嘘をついて近づいてきた同学年の女子、瀬野と共に、ふたりは栞に秘められた謎を追いかけることになるのだが、と言うお話です。
ではでは、感想です。
まず、これはもう、米澤さんのすべての作品に言えることなのですが。
ほんとに、文章が美しい。端正。日本語、そのひとつひとつの使い方、配置の仕方。組み合わせ方。その全てに作家としての神経が行き届いているのがひしひしと感じられる、そんな文章で。
本作も読んでいて、その美しさ、端正さに『ほぅ』と息が漏れるほどでした。
美しく、端正で。どこかひんやりとしていて。匂い立つような色があって。そうした文章で構成され紡がれていく描写、物語だからこその、もはや『品格』と言ってもいいような雰囲気があって。
でも決してそれは、読み手を選ぶような。あるいは読み手を寄せ付けないようなそれではない。そうでありながらも、とても読みやすい。
そんな米澤さんだからこその文章。本作でも本当に堪能させていただきました。
米澤さんの青春ミステリー。作品によってその魅力は異なるのですが。ただ全体的に共通していると思うのは、やはり『『青春』と呼ばれる時期にある、置かれている少年、少女だからこその苦み』ではないでしょうか。
苦み。痛み。やり場のないそれら。もてあますにはあまりにも重く、言葉に表現すると、あまりにも軽々しくなってしまうかもしれないそれら。
だからそれらを引きずりながら、日々、生きていくしかない少年、少女の姿には、胸が締め付けられるような思いを抱くのですが。
今作でもやはり、そうしたことが徹底的に、だけど静かに。でも静謐だからこそ、より一層の切実さが際立つ。そんなふうに描かれていて。
それが主には瀬野と言う少女。堀川と松倉、ふたりと共に、猛毒の花が閉じ込められた栞。その謎に迫る少女なのですが。
栞が誕生した経緯。そこに瀬野は深く関係しています。だからこそ彼女は、堀川と松倉に嘘を吐いてまで、栞の謎に迫っていくことになる。もっと言うと、何者かによって配布されているらしい栞。その配布を途絶えさせようと、彼女なりに躍起になるのです。
今作の中では栞を巡って様々な出来事が起きます。そのひとつひとつの裏側にある『why』の部分も、非常に理に適っていて『成程』としか言いようがないのですが。
その締めくくりとも言える『why』。すなわち、何故、瀬野は嘘を吐いてまで、堀川と松倉と共に栞の謎を追うことにしたのか。
その動機。それに対して答えた彼女のたった一言。それには、もう、胸を突かれたような。彼女の、切実さ。もしかしたら彼女の中にある、たったひとつのそれかもしれない切実さ。それを突きつけられたような気がして、言葉になりませんでした。
瀬野と言う少女は、とにかく美しい少女なのです。他者を圧倒するような、見る者、全ての心を一瞬で惹きつけてしまうような、そんな美しく、綺麗な少女なのです。
そしてまた、堀川や松倉を翻弄するような。いまいち真意を掴ませない、真意が掴み切れない。そんな言葉も多い、ミステリアスな少女なのです。
物語を通じて、そんな彼女も自身のことを話すようにはなる。なるんですけど、それは言わずもがな、彼女のこれまでの時間、その、ほんの一部でしかないわけです。
それでも、そこから感じられるのは、彼女がいかにして自分の存在、あるいは周囲に対して、どう表現すればいいのかなぁ。拒絶、ではない。ないけれど、虚しさと言うか。あるいは虚しい怒りと言うか。『じゃあ、どうすればいいのよ』と言う、やり場のない感情と言うか。
とにもかくにもそうしたものを抱え続けて生きてきた。その息苦しさ、閉塞感のようなもの。それをとても感じられて。
栞が作られた背景には、勿論、そうした感情。そうした感情を抱えている人の存在が深く関係しています。
ただその中でも、瀬野にとっては、ただひとりの存在。それだけが全てだった。目に見えるつながりが切れてしまってもなお、瀬野にとっては、その人の存在。それが全てだった。
自らが置かれている閉塞感。それをもはや振り払うように、振り切るように。孤独に、強く、誰をも寄せ付けず生きる瀬野の、その思いの繊細さ。
人が死なないミステリーではありますが、謎解きの妙は存分に味わえる。
その上で、やはり米澤さんの他の作品同様。その謎の裏側にある、人間の心。感情。
それらがもたらす謎解きの先にある、明確な言葉にしがたい余韻のようなもの。
それに、やはり今作もまた、とても感情を揺さぶられたのでした。
あとは、このシリーズならではと言うところで言えば。
堀川と松倉のやり取り。前作があまりにもビターな結末を迎えていたので『果たしてどうなることやら』と、正直、気が気でない部分もあったのですが。
変わらないようで、でも少しだけ、ほんの少しだけ、その距離感が変わったような気がするふたりのやり取りにはほっこり、にっこり。
その上で、前作のビターな結末。そこから先、松倉はどうしたのか。彼を取り巻く状況だったり環境は、どう変わったのか。その答えとなるような描写も出てきて、そこにも私は、胸をなでおろさずにはいられないのでした。
なんかね。松倉は勿論なのですが。堀川が、本当に良いキャラクターをしているんですよね。味のあるキャラクター、少年と言うか。
そこそこに頭が良くて、真面目で。でも堅物、融通が利かないと言うわけでもない。他人の感情の機微にも、疎いようで聡い。目立つと言うわけでは絶対にない。ないんだけど、妙に存在感がある。そして時折、核心をずばっ、とつくようなことを口にする。だけど勿論『口にすべきではないこと』があるのもわきまえている。
年齢相応の可愛らしさと、年齢にふさわしくない、妙に達観したような部分。それが共存しているような少年だなぁ、と。
このシリーズで描かれる登場人物たちの心情。それが、時には胸を穿つようにしてこちらに伝わってくるのも、堀川が語り手だからだろうなぁ、と。
そんな気も、個人的にはするくらいなのです。
その彼の、独特の存在感。柔らかさと頑なさ。それが同居しているような、浮遊するような存在感。静謐だけれども、決して不動ではない。それを考えた時、私の中ではCV榎木淳弥さんが自然と浮かんできたのですよねぇ~。
一方で松倉は、背が高くて顔も良い。故に目立つ。きっと彼に対して恋心を抱いている生徒は、ひとりやふたりではないことでしょう。
でも不器用な部分もあるし、『ほどよく』とは紹介されていますが、私から見ると『かなりの』皮肉屋(笑)。と言うか、致し方ない事情があるとは言え、そこそここじらせている、そんな少年と言う印象です。
ね、どうあがいても、CV中村悠一さんでしょう?(笑)
栞の謎に迫っていくふたりのやり取りは、勿論、緊迫感を帯びたものも少なくありません。ただその中ですら、時にくすっ、と笑ってしまうような。阿吽の呼吸を見せてくれるふたりのやり取りにも、要注目です。
ふたりの距離感が、本当に心地いいんだよなぁ~。
はい。そんなこんなで本日は米澤穂信さんの『図書委員シリーズ』、その最新作である『栞と嘘の季節』の感想をお送りいたしました。
小さく、可憐な。だけど猛毒を有する花。
それを封じた栞。
そこに秘められた人の思い。そして嘘と真実。
端正な文章で紡がれる、胸を締め付ける青春ミステリー。
ぜひぜひ、皆さんも読まれてみて下さい。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました。