はい。てなことで1が付く日なので読書感想文をお送りいたします。
本日、感想をお送りするのは織守きょうやさんの『301号室の聖者』です。
2021年に刊行された『花束に毒』や『記憶屋シリーズ』、『ただし、無音に限りシリーズ』で人気を集める織守さんですが、実は作家として活躍されている一方で、弁護士としての一面も持たれていらっしゃいます。現在は執筆活動がお忙しいため弁護士業は休業中とのことですが、法律の専門家でもいらっしゃるわけですね。
そんな弁護士作家である織守さんの、弁護士としての知識や経験が存分に反映されているのが、今回、読んだ『301号室の聖者』を含むシリーズでございます。
シリーズなんですけど・・・これ、シリーズとしての正式名称はあるのかしら?とりあえずアマゾンで作品ページ見てみたら『木村&高塚弁護士シリーズ』あったので、それが正式名称で良いのかな。はい。
と言うことで、木村&高塚弁護士シリーズです。こちらは現在までに『黒野葉月は鳥籠で眠らない』『301号室の聖者』そして『悲鳴だけ聞こえない』の3作品が刊行されています。
シリーズ名から見てもお分かりかと思いますが、物語の主人公として登場するのは弁護士。新人弁護士である木村と、その上司で百戦錬磨、やり手の弁護士である高塚です。
で、主には木村がある案件を担当することになる。だけど苦戦する。その中で先輩である高塚からアドバイスを受けながら、木村が自身でそれを乗り越えていくと言うお話です。
シリーズ1冊目『黒野葉月は鳥籠で眠らない』は短編集。木村が請け負うことになった案件、その中心人物がそれぞれの物語のタイトルには冠されています。
信用していた、信用するはずの依頼者に裏切られたり、騙されたり。あるいは案件の裏側に隠されていた思わぬ真実に心揺さぶられたり。そう言う経験を通して弁護士としても、人としても成長した木村の次の物語として描かれているのが『301号室の聖者』です。
てなことで本作品のあらすじを。
新人弁護士、まだまだへっぽこだが熱意は一人前の木村は、初めて医療看護訴訟を担当することになった。訴訟を起こされた病院に足を運んだ木村は、そこに入院している患者を取り巻く、様々な人間模様を目の当たりにする。
訴訟となった出来事で死亡した患者が入院していた301号室。木村が訴訟の準備を進めていく中で、その301号室で立て続けに入院患者が急死する。
301号室で一体、何が起きているのか。その謎に木村は、高塚の助言を受けながら迫っていく。
そしてまた木村は、入院患者である1人の少女とも親交を深めていくのだが・・・と言うのが、簡単な本作のあらすじです。
ではでは感想です。いろいろ語りたいことはあるんですけど。
なんでしょ。私、織守さんの作品はこのシリーズしか読んだことがないので、それだけで言い切るのはちょっと違うかもしれないんですけど。
織守さんの描かれる少女、10代の、中学生から高校生の少女、めちゃくちゃ魅力的。それをまずは声を大にして言いたいのです。
前作『黒野葉月は鳥籠で眠らない』の黒野葉月、そして本作品に登場した、木村と親交を深めていく入院患者の少女、早川由紀乃。
この2人の少女の描写と言うか、キャラクター造詣とか、それを描写する筆致が、本当にめちゃくちゃ魅力的なんです。なんだろ、一言で言うと心を奪われてしまうと言うか。登場した瞬間から、彼女、本作であれば由紀乃がまとっている雰囲気、話す言葉、表情、それらに心を奪われてしまうと言うか。そうした力を、だけど自然にまとっているんですね。
また黒野葉月にしても、由紀乃にしても、ものすごく凛とした雰囲気があって。少女らしい儚さ、可憐さ、美しさもあるんだけど、それ以上に、年齢らしからぬ、いやもしかしたらその年齢だからこその圧倒的な凛々しさ。そこから発せられる、ある種、孤高とも言ってもいいようなオーラ。それも個人的には、もうめちゃくちゃ好きなんです。
そう、こー、少女なんだけれど、当たり前のことなんですけれど1人の人間として、独立した存在として描かれている。登場人物としても、その辺りを頭に置いたうえでの造詣がなされている。そんな感じが伝わってきて、それがすごく素敵だと思うし、魅力的だと私は思うのです。はい。
で。
今回の謎の部分、次々と入院患者が急死する301号室。そこでは一体、何が起きているのかと言う部分ですが・・・その真相が、まぁ、何と言うか、端的な言葉で言ってしまうと重い。めちゃくちゃ重い。
序盤、訴訟案件の準備や調査のため、木村が病院に足しげく通うのです。その中で病院側の人、看護師さんたちであったり、あるいは病院に、この言い方は適切ではないかもしれませんがお世話になっている人、入院している方であったり、その家族で会ったり。そういう人たちと言葉を交わすんですね。
そうすることで木村は、病院側の人間も、そして患者の家族も、患者のことをとても大切に思っている、そんな当たり前のことを痛感するのです。またそれと同時、だからこそそこには、決して法律ではきれいに裁くことができない、割り切ることができないものも存在しているんだと言うことも。
あるいは患者自身の思い。自分の感情を、自分の言葉で伝えることができる患者、あるいはそうすることができない患者。その胸の内と言うものも、木村の胸にはいろいろなものを投げかけるんです。
そう言う木村の思いの積み重ねがあっての、301号室で相次いだ患者急死事件、そこに待ち受けていた最後の真相と言うのは・・・なー・・・正直、言葉が出てこなかったよなぁ・・・。
なんでしょ。ネタバレになるので詳細は控えますが、こう言うネタ、ネタと言うと語弊があるかもしれませんが。
こう言う話って、決して珍しくはないと思うんです。特にミステリーでは、割と多く描かれてきたと思います。ただ、そうであるにもかかわらず、こうした題材が胸を打つ、重く打つ、読み手に何かしらの思いを投げかけてくると言うのは、やはりこうした題材に『絶対にこれが正しい!』と言う答えがないからなんでしょうね。
ねー・・・なー・・・。
それが真実かどうなのかを知るのは、彼自身だけ。
だからこそ、彼自身が知る彼自身の行為、真実に、その重みに、どうか彼自身の心が砕けてしまいませんように、と私としては願うばかりだなぁ。
いや、でもほんと、難しいよなぁ・・・難しい。
もし私が患者側だったらどう思うだろうか。そしてその家族側だったらどう思うか。そんなことを突き付けられたような思いです。はい。
そしてもうひとつ。
先程も書きましたが、木村が親交を深める入院患者、由紀乃。
彼女が秘めている思いと言うのも、物語の最後に明かされるのですが。
これがまた・・・もう・・・なんだ。『泣ける』なんて言葉で、私は表現したくない。そんな簡単な言葉で表現したら、それこそ彼女に失礼すぎるような気がしてならないから、そんな言葉は絶対に使いたくない。
だから少し大げさになってしまうかもしれないけれど、胸が震える、そんな思いすらした、と表現しておこうかな。はい。
何故、彼女は『入院』と言う道を選択したのか。そこに込められていた彼女の切なる祈り、願いとは何だったのか。そしてその祈り、願いの原動力になっていた存在は何だったのか。
そう言うものが、何と言うかなぁ。
それこそ由紀乃自身の存在感のようにして。静かに、だけど柔らかな凛々しさを伴って、しなやかさを伴って、胸に迫ってくる本編ラストの展開。そこから木村と、由紀乃の主治医であった男性医師が交わす会話は、なんかもう、胸が震えて、同時、その由紀乃の気高さに胸が洗われるような思いすらしたくらいです。
ほんと、凄いなぁ。私には、どうあがいても由紀乃のように生きることはできない。絶対にできない。
病気を患って生きる人。
病気を患った人を取り囲む人。
どちらも人間であり、そこには当然のことだけれど感情がある。人間としての、いろんな感情がある。
そんな当たり前の状況に、新人だけれど法律の専門家、法律を武器として乗り込んだ木村の、人間としての、弁護士としての成長が今回もしっかりと感じられて、そこもシリーズ読者としてはとても魅力的なところだと思いました。
弁護士としては、木村は優しすぎるのかもしれない。でももし、自分が弁護してもらうようなことがあったなら、私は木村のような弁護士にお願いしたいなぁ。
あとは・・・そうですね。
今回もかっこいい高塚先輩は健在でした。
いやなんだ。このシリーズ、いわゆるバディものとしての魅力もあると思うんです。でも従来のバディものとは違って、木村はまだまだへっぽこ。でもそれ故、めちゃくちゃ伸びしろがある、伸びしろしかない。一方の高塚は百戦錬磨の弁護士、弁護士としても人間としても、時にドライさすら感じさせる部分もあるけれど、でも熱い部分もある、実に頼れる先輩。
その対比も面白いし、木村を信用しているからこその、高塚があえて突き放したり、時に助け船を出したり。そう言う部分もかっこいいんだよなぁ。
はい。そんなこんなでどっしりと読ませる本作品。重たい問いも投げかけてくる作品だとは思いますが、先程も書きました、由紀乃と言う少女の存在、その思いによって読後はあくまで清々しく、切なくも、なにか背筋が伸びるような思いを抱かせてくれる作品だと私は感じました。
勿論、シリーズ刊行順に読まれた方が、特に木村と高塚の関係性により理解が深まるとは思います。が、個人的には2作目である本作品から読まれても問題はないと思いますので、是非とも読まれてみて下さいね。
そんなこんなで本日は、『301号室の聖者』の感想をお送りいたしました。
てなことで次回の読書感想文は21日ですね。よろしければ引き続きお付き合い下さい。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました!