tsuzuketainekosanの日記

アニメや声優さん、ゲーム、漫画、小説、お仕事とのことなどなど。好きなことを、好き勝手に、好きなように書いていくだけのブログです!ブログ名の『ねこさん』は愛猫の名前だよ!かわいいよ、ねこさん!

『このミステリーがすごい!』を振り返ろう~1993年

このミステリーがすごい!』30余年の歴史を振り返っているこのシリーズ。

今回、振り返るのは1993年のランキングでございます。

 

ではでは、毎回恒例、この年を少し振り返ってみましょうか。

この年に華々しくリーグ戦が開幕したのがJリーグです。あー・・・なんかぼんやりと覚えていますわ・・・開幕初日の盛り上がりたるや、凄かったような。皆がこぞって『JリーグJリーグ!』と口走り、選手が装着していたミサンガもここから一大ブームを巻き起こしていったんじゃなかったっけ?

学校でも装着したり、あと授業中に制作している子、いたなぁ・・・。

 

一方でバブル崩壊と言われる、本格的な景気後退が始まったのもこの年。と言うことで後に『失われた10年』と呼ばれることになる、その1年目が始まったのも1993年でございます。

幼い頃には『なんのこっちゃい』とさっぱりでしたが、大人になってから、多少なりとも経済の知識などを得てから、このバブル崩壊のことを振り返ってみると・・・いや、何と言うか本当に、悪い意味で凄いことが起きていたんだなぁ、と感じます。

 

また当時の皇太子と小和田雅子さん、現在の天皇陛下と皇后さまの結婚の儀が執り行われたのも、この年でした。長女である愛子様も、去年20歳になられ・・・時の流れの速さよ・・・。

 

はい。ではでは本題、1993年の『このミステリーがすごい!』を振り返ってまいりましょうか。いつものようにウィキペディアのリンクを貼り付けておくので、そちらを見ながら記事を読んで頂くとわかりやすいと思います。

ja.wikipedia.org

と言うことで、1993年、この年のランキングを制したのは船戸与一さんの『砂のクロニクル』でございました!船戸さんは記念すべき初の『このミステリーがすごい!』1988年のランキングでも1位を獲得されているので、今回で2度目のトップ獲得ですね。

1980年代末期のイランを舞台に、己の『正義』を胸に戦う登場人物を描いた物語だそうです。元パレスティナ人民解放戦線のメンバー、武器商人、ゲリラ指導者、イスラム革命防衛隊の小隊主任・・・様々な登場人物、それぞれを主役に据え、それぞれの物語を同時進行で描いてると言うのが、本作の特徴とのことで。

私は読んだことがないのですが、非常に重厚で熱い人間模様が楽しめそうな作品だな、と言うイメージを抱きました。

登場人物が多そう、かつ名前がカタカナ。あまりなじみのない土地が舞台になっているので、難しそうな気もするのですが・・・一度、読むのにチャレンジしてみたいなぁ。

 

ではでは。この年のベスト10で、私が読んだ作品を挙げていきますと・・・まずは10位、髙村薫さんの『わが手に拳銃を』ですね。それから8位、山口雅也さん『キッド・ピストルズの冒涜』、同率6位にランクインした井上夢人さんの『ダレカガナカニイル・・・』と有栖川有栖さんの『双頭の悪魔』。

5位、髙村薫さんの『リヴィエラを撃て』、更に4位の花村萬月さんの『ブルース』、そして2位、宮部みゆきさんの『火車』・・・以上ですね。多。

 

まずは10位と5位にランクインしている髙村さんの作品『わが手に拳銃を』と『リヴィエラを撃て』です。

リヴィエラを撃て』は、白髪の東洋人スパイ『リヴィエラ』。謎に包まれたその存在を巡り、様々な国の情報機関が暗闘を繰り広げると言う物語なのですが。

 

ぶっちゃけ、個人的に語りたいのは『わが手に拳銃を』の方でして。ええ。と言うのもですね、本作品、後に『李歐』と言うタイトルに改題されて文庫として出版されているのですが・・・同じ作品のはずなのに、タイトルはおろか、中身もほぼ変わってしまっているのです。

ざっとしたあらすじは同じなのです。日本人の青年、吉田一彰。彼とひとりの殺し屋との関係、またその殺し屋を追う男たちの姿の物語なんです。

なんですけれど、もうね、ほんと『わが手に拳銃を』と『李歐』は、別作品と言えるくらいに、全く違うストーリー、そして感触になっています。

で、私としては是非とも、どちらが先でも後でも良いので、『わが手に拳銃を』と『李歐』はセットで読んで頂きたい、読み比べて頂きたいな、と強く思います。

 

個人的にはもう、圧倒的に『李歐』の方が好きだし、何なら私がこれまで読んできた作品の中でも、トップ10のいずれかに位置するくらいに大好きな、大切な作品になっているくらいです。

高校生の時だったかな?その時に読んだ時には、ただただ一彰と李歐、2人のもはや愛でしかない、本当に運命で結ばれてしまったとしか言いようのない愛、それにしか目を奪われなかったんですけど。

それからことあるごと、特に桜の季節になる度、読み返している内に、年齢を重ねたこともあるのでしょう。一彰の生き方とか、その青臭さとか。あといろんな思いがあって、それでも、間違いなく一彰を守り続けてきた『大人』の1人である田丸の存在とか。李歐の人生とか。この作品で描かれている様々な人物の、様々な生き方、生きてきた時間、生きている時間、そうしたものがものすっごい胸に染みてくるようになりました。泣ける。

何と言うか『人は一生を、一度しか生きることができない』と言う当たり前のことを、ものすごく突き付けられる、そんな作品なんですよ、私的には。

でも、それでも悲壮感とか絶望に彩られた作品と言うわけではなく、それらすべてを包み込み、光へと誘うような、あのラストね。泣ける。

髙村さん作品史上、最も、そして唯一、正真正銘に幸福な物語だと思います。あくまで個人的見解ですが。

 

てなことで『リヴィエラを撃て』は勿論、『わが手に拳銃を』も、そして『李歐』も、是非とも読んでください!髙村さんの描かれる、いろんなタイプの男たちの濃厚な世界に酔いしれるがいいさ!

 

山口さんの『キッド・ピストルズの冒涜』は、シリーズ作品です。探偵の権限が著しく強い、架空のイギリスを舞台に、マザー・グースに見立てた事件に立ち向かう、個性豊かな探偵たちの姿が描かれています。

キッド・ピストルズも探偵の名前で、七色に染めたモヒカン刈りのヘアスタイル、バンキッシュないでたちをした探偵です。

ぶっちゃけ・・・あんまり詳細は覚えていないのですが(汗)、ただ楽しく読んだのは確かです。この作品らしい稚気と、あと各作品のキーとなる物事に対しての半端ない知識。それらが本格ミステリとうまく融合して、唯一無二の世界観、物語を生み出していたなぁ、と今、読書感想文の記録を振り返りながら、改めて思いました。

 

6位、有栖川さんの『双頭の悪魔』は、氏が手掛ける人気シリーズのひとつ、学生アリスシリーズの3作品目にあたります。なので探偵は江神二郎ですね。

アリスや江神が所属している英都大学推理小説研究会の面々は、様々な事情により木更村と夏森村と言う、2つの村に分断され滞在することを余儀なくされます。

電話すらつながらないため、互いの状況を掴むこともできない中、あろうことかそれぞれの村で殺人事件が発生。木更村の江神とマリア、そして夏森村のアリス、望月、織田はそれぞれ、その事件の謎を探っていくのだが、と言うのが簡単なあらすじです。

 

閉ざされた状況下ですら、神がかり的な推理を展開していく江神。対してぽんこつ(笑)故に体当たり的な推理をやんややんやと繰り広げていくアリス組。その対比が実に面白く、読みごたえがあります。

また作中3度にわたって『読者への挑戦状』が挟まれているのも、本作の大きな特徴です。ひとつの挑戦状の謎が解けることで、次の挑戦状の謎も解くことができる、と言う設定なので、読者は無理なく、挑戦状に挑むことができますよ!

そして本格推理として、ロジカルな展開が美しいミステリー作品であるのは勿論のこと、このシリーズならではの、ある種の青春ミステリーとしての味わいが魅力的な作品でもあります。

シリーズとしては『月光ゲーム』『孤島パズル』が先行作品なので、順番通り、まずは『月光ゲーム』『孤島パズル』を読んでから『双頭の悪魔』を読むことを強くおススメします!

 

もう一作品、同率6位にランクインしたのは井上さんの『ダレカガナカニイル・・・』ですね。岡嶋二人のひとりであった井上さんが、コンビを解消されてから初めて『井上夢人』名義で刊行された作品です。

タイトル通り『ダレカ』の声が頭の中でするようになった主人公。主人公は、その声の主が誰なのか、声の持っていた記憶を探るべく行動を起こす、と言うのが簡単なあらすじです。

SF的要素あり、そしてこの作者さんお得意・・・かどうかはわからないけど、女の子とのべた過ぎる恋愛要素もありの謎多きミステリなのですが・・・個人的にはラストの終わり方が、とても悲しかった、そう言う記憶があります。主人公の悲しみ、そして深い、深い絶望がこちらを侵食してくるような、そんなラストだったよなぁ・・・。

 

4位にランクインした花村さんの『ブルース』は、主人公、村上の友人である崔が、巨大タンカーの中で死んだことから物語が始まります。仕事中の事故ではあったものの、崔の死の原因は、日本刀片手に彼ら労働者を監督する立場にあったヤクザ、徳山の執拗ないたぶりでした。徳山は同性愛者で、村上を強く愛していました。崔に対するいたぶりには、村上と親しい彼に対する嫉妬も込められていたのです。

錆びついたギタリストの村上、同性愛者のヤクザである村上。そしてエキセントリックな歌姫。この3人が繰り広げる、濃密で、過激で、哀切極まりない愛の物語、と言うのが本作品のあらすじです。

 

花村作品はこれ以外にもいくつか読んでいるのですが・・・本当に、人物造形、そして人間描写が濃いんですよ。そして暴力的。それこそもう読んでいて窒息しそうになるくらいに。でもだからこそ、めちゃくちゃエネルギッシュだし、登場人物の抱えている哀しみ、どうしようもない哀しみがぶつかってきて、哀しくなるのに、でもやっぱり面白いし、そんな登場人物たち、物語が愛おしいのです。

ちなみに本作の文庫版のあとがきは北方謙三さんが書かれているのですが、その北方さんが『たまらんぜ萬月。何が悲しくてこんな小説を書く』と言う言葉を出されています。もうこの言葉、花村さん、そしてこの作品に対する最大の賛辞だと、私は思うのです。本当に、その通り。だからこそ、作家としての花村さんの圧倒的エネルギーがぶつけられた傑作が、本作品です。

 

さぁ、そしてラストは2位にランクインした宮部さんの『火車』ですね。

怪我を理由に休職を余儀なくされた刑事の本間。彼は亡き妻の親戚である栗坂から、失踪した婚約者の関根彰子を探してほしい、と依頼されます。

銀行員である栗坂が、クレジットカードの作成を彰子に薦めたところ、審査段階で彼女が過去に自己破産を経験していたことが明らかになった。そのことを彼女に問い詰めたところ、その翌日には彼女は消えていた、と栗坂は話しました。

本間は彰子の親戚や新聞記者を装いながら、彼女の捜索を開始します。するとその中で本間は、勤め先の人間が知る彰子と、自己破産の手続きを務めた弁護士が知る彰子とでは、その容姿も性格も、素行すら一致していないと言う事実に突き当たります。

本間は更に調査を進めていきますが・・・と言うのが、本作のあらすじです。

 

宮部作品の中でも多くの方に知られている、そして読まれている作品のひとつではないかと思います。カード破産、借金地獄と言った題材をもとに、それに人生を翻弄され、また狂わされた、そこから逃れようとあがく様々な人々の姿を、非常にリアリティ溢れね筆致で描いたミステリー作品、そしてサスペンス要素も強い作品です。

 

とにかくめっちゃ怖かった。まずは借金と言う存在、借金地獄と言う状態が決して他人事ではないと痛感させるだけのリアリティがあって、そこが怖かった。自分もちょっと油断したり、ちょっと甘言にのせられたりしたが最後、後戻りのできない破滅の道へと進んでしまうのでは、と心底、怖かった。

この作品に登場する、借金によって身を滅ぼしてしまう人、本当に、言い方はなんですけど『普通』の人なんです。別に金遣いが荒いとか、金銭感覚がずば抜けてルーズとか、そう言う人は登場しないんです。

なのに、そんな人ですら、こんな状況に陥ってしまうと言うのが、怖い怖い。

 

読書感想文の記録を見ると、私がこの本を読んだのは2020年。今から22年前の、当時20そこそこの小童の私にすら、そんなことを心の底から感じさせたわけですから、やはり宮部さんは凄い。

 

もうひとつは、金、その存在によって人生を狂わされた人。あるいは他人の人生を狂わせる人。金の存在で、ここまで人は狂わされるのか、狂うのか。自らの行いを正当化できてしまうのかと言う、人間の、ものすっごい暗い部分も、本当に宮部さんならではの、過不足のない描写でリアルに描かれていて、めちゃくちゃ怖かった。

そしてとにかく悲しかった。金の存在、ただそれだけのために、自分の人生を歩むことが叶わなかった、金に振り回され、振り回され、振り回された女性の姿が、その行いが、本当に悲しかった。やるせなかった。

 

またね・・・本作品、ラストが本当に良いんですよ。そのシーンを余裕で頭の中で映像として思い描くことができるくらいに、実に映像的で、かつ切れ味が抜群で。

このシーンで本間さんが第一声、どんな言葉を発したのか。それを考えると、もういろーんな言葉が浮かんできて、それも楽しい。ってか、本作を読んだ人と、それを語り合いたい。

 

はい。と言うことで本日は1993年の『このミステリーがすごい!』を、私が読んだ作品のみですが振り返っていきました。

どの作品も本当におススメなのですが、長引くコロナ禍の影響で、経済的危機に陥っている人が多いと言うニュースを聞くと『火車』の存在が、時代を超えて、胸に重い何かを投げかけてくるような気もします。ねぇ~・・・。

 

ではでは。次回は1994年ですか。引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。

それでは、今回の記事はここまでです。

読んで下さりありがとうございました!