tsuzuketainekosanの日記

アニメや声優さん、ゲーム、漫画、小説、お仕事とのことなどなど。好きなことを、好き勝手に、好きなように書いていくだけのブログです!ブログ名の『ねこさん』は愛猫の名前だよ!かわいいよ、ねこさん!

新年一発目の1が付く日~読書感想文の日

はい。と言うことで今年も引き続き、1日以外の1が付く日は、読書感想文をお送りしたいと思います。

まだ、まだストックはある(汗)

おおっ、気が付けば直木賞の発表まで残り10日を切りましたね。

わくわく。

 

そんこんなで、新年一発目にお送りする読書感想文はこちら。

道尾秀介さんの『N』です。

 

てなことで道尾さんです。

道尾さんと言えば、個人的には『このミステリーがすごい』の常連作家さんと言うイメージがあります。

デビュー作である『背の眼』から始まって、趣向を凝らした多くのミステリーで楽しませてくれる作家さん。そしてそれと同時、美しい文章によってさまざまな人の心をあぶりだすようにして描く、実力派の作家さんと言うイメージもあります。

 

あー・・・デビュー作の『背の眼』、めちゃくちゃ面白かったよなぁ・・・。

今でも『レエ・・・オグロアラダ・・・ロゴ・・・』は鮮明に覚えているし、このメッセージが意味するところが作中で明かされた時の『ぞくぅっ!』と背中に走った寒気のような感覚も、まざまざと思い出すことができます。

また初期の道尾先生の作品らしく、ミステリーでありながら、同時にホラー要素も強いと言う点も魅力的なんですよねぇ~。

ってかこの作品を含む真備庄介シリーズって、ドラマ化されていたんですね・・・知らなんだ・・・。

 

はい。最近はミステリーは勿論、ミステリーではない作品も数多く発表されている道尾先生の、現状での単行本最新作なのが、今回紹介する『N』です。

こちらの作品、簡単に言うと全6編の物語が収録された短編集なのですが・・・。

 

普通の短編集とはちょっと違う、それが本作品の最大の特徴であり、魅力です。

じゃあ何が違うのかと言いますと、6編の短編の読む順番を自分で決めることができる、と言う点です。

 

普通、短編集に限らずですが小説って、読む順番があらかじめ決められていますよね。

で、私たち読者も、その通りに読む。

いや、もしかしたら『私は好きなように読んでるよ!』と言う強者もいらっしゃるかもしれませんが(笑)

勿論、『好きなように読む!』と言う読み方でもいいとは思うのですが、やはりあらかじめ決められている順番と言うのは、理由があってその順番になっているでしょうから、その通りに読んだ方が良いのは確かだと思います。

特にミステリーの場合、読む順番を違えると盛大なネタバレを食らい、楽しみが削がれてしまう、そんな恐れもありますからね。はい。

 

そう言うわけである意味、小説の大原則でもある『読む順番があらかじめ決められている』と言うのが、この作品には存在していない。

6つの物語、それをどう読むか、すべてを自分で決めることができるのであります。

 

本の構成も凝りに凝っており、まず冒頭に全6つの物語、そのすべての始まり数行が公開されています。

なのでまず読者は、それに目を通すと言うわけです。

で、そこから最初に読む物語を選択する、あるいは先に順番を決めてしまう、と言う流れに入るわけですね。あるいは最初に読む物語だけ決めて、それを読了した後、またこの冒頭のページに戻ってきて、次に読む作品のチョイスに入る、と言う流れでも良いわけです。私はこうしていました。

 

全6編の物語は交互に逆さに印刷されていると言う徹底っぷり。何も知らずにこの本を手に取った方は『え!これ逆さに印刷されてるけど、乱丁じゃないの!?』と驚かれるかもしれませんね。なかなかこんな本はないような気かするぞ。

 

読む順番を読者自身が選択、決定することで、同じ『N』と言う作品を読んだ方の間でも、本作に対する印象、感情は全く異なってくるわけです。

いやぁ、面白い。

ちなみに全6編をどう読むか、その順序パターンは720通りあるとのことで・・・つまり1冊の本なのに、720通りの楽しみ方ができる、味わいの違いを体験することができると言うことですよね・・・これはすごい・・・。

 

ではでは、ここからは感想です。

えー、全6編の物語。タイトルだけ紹介しておきますと次の通りです。

『笑わない少女の死』

『落ちない魔球と鳥』

『飛べない雄蜂の嘘』

『眠らない刑事と犬』

『名のない毒液と花』

『消えない硝子の星』以上の6編となります。

 

で、ネタバレになってしまうのかもしれないのですが。

この6編、それぞれが独立しているようで、微妙にリンクしていると言うのが、本作品の最大の肝です。

つまりある作品では謎だった部分が、ある作品の中でさりげなく明かされていたり。ある作品でさりげなく張られていた伏線が、ある作品で盛大に弾けていたり、と言った具合です。

で、そこにそれぞれの物語に登場する人物たちの心情が、複雑に絡んでいるんです。

その心情の描写が、またうまいんだ。道尾先生らしい硬質で、端正な文章。そして時に残酷さすら感じさせるような冷え冷えとした感触、その一方で淡く、柔らかな光を感じさせるような部分もあって、ものすごく読みごたえがある。

またその心理描写に潜んでいる謎、この人はどうしてこんなことを思ったのか、とか、この人のこの感情の裏側にはどんなことがあったのか、と言う部分も、別の作品で明かされたりすると言うのも、これまた面白いんですよねぇ。

 

で、私は、えーっと・・・。

『消えない硝子の星』を最初に読んで。それから『笑わない少女の死』を読んだのか。それから『落ちない魔球と鳥』を読んで『飛べない雄蜂の嘘』を読んで『名もない毒液と花』ラストは『眠らない刑事と犬』ですかね。はい。

 

ふふ(笑)

個人的にこの読み順で良かったと思います。

自分で言うのもなんですが、私が編集者で『収録順を決めて下さいよ』と言われたら、この並びにしたい、それくらい短編集の並びとしては、実に整った順番だと思います。

自画自賛(笑)

 

全6編、どの作品もそれぞれ味わいがあって好きなんです。そしてこれもまた道尾先生の作品らしいと言うか、結構『ハッピーエンドだぜ!ひゃっはー!』と言い切れるような終わり方ではないと言うのもポイントかと。

でも、それでも、辛さや悲しみ、痛み、苦しみ、どうにもできなかった過去を抱えながら、それでも必死に明日を生きていこう、前へと歩み出そうとする、そうしていくことしかできない健気な人の姿が描かれているんですよね。

人生の無常さ、無情さに振り回されつつ、生きるしかなくても、生きていこうとする人の姿。そこに感じる、微かな希望、人の弱さ、だけど弱いだけではない強さみたいなものが、ものすごく余韻となって胸を打つんです。うん。

 

ただ、ね。

・・・ネタバレになっちゃうかもしれないのですが、この内、1編だけ、明らかにバッドエンドと言うか『あー・・・』ってなるようなエンディングを迎える作品があるんですわ。バッドエンドと言うか、救いようがないと言うか。『こんなん、誰も救われへんやろっ!鬼っ!』と言いたくなるようなエンディングと言うか(笑)

いや、まぁ、これはそれこそ読む人によって変わってくるとは思うんですけど。

 

それをラストに持ってくると、何と言うか、それまでの後味が一変して、ただただどよーんとした気持ちで『N』と言う作品を閉じることになる、と思います。

まぁ、個人的にはこう言う後味は嫌いじゃないんですけれど、へへ。

 

・・・ネタバレですけど、私の読んだ順番からわかりますよね。

そうです。少なくとも『眠らない刑事と犬』はその作品ではないと言うことです。

後は・・・内緒よ!

 

はい。全体を通しては、勿論、謎解き要素がないこともないのですが、ミステリー的な味わいは薄いかなぁ。

それよりも先ほども書きましたが、ある出来事を通して浮かび上がってくる、そこに関わった人たちの心情。それがめちゃくちゃ染みてくる、あるいは面白い、そんな作品かと思います。

短編単体で見ると、私は『飛べない雄蜂の嘘』が好きです。

 

おー・・・そうか。

今、『N』を読まれたいろんな方の感想をブログなどで見てみたのですが・・・成程。

やっぱり人によって『ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか』の感じ方が、かなり違うんだと言うことを実感しました。そうかそうか・・・。

 

いやぁ、これは面白いわ。

ほんと1冊で『どの順番で読んだ!?』とか『あの話はハッピーエンドだと思う?それともバッドエンドだと思う!?』と、たくさんの話題で盛り上がることができるのは、この作品ならではではないでしょうか。

 

はい。そんなこんなで本日は道尾秀介さんの『N』の感想をお送りいたしました。

ミステリ作家として、常に意欲作を発表されている道尾さん。

『読書の楽しみ』を考えに考え抜いた末に生まれたような、読者主導型の作品、それが『N』だと思います。

1冊で何度も楽しめる、と言うのもお得じゃないですか!

皆さんもぜひぜひ、読まれてみて下さいね。

 

ではでは。

本日の記事はここまでです。読んで下さりありがとうございました!