そして何となく、そんな予感はしていたけれど、やっぱり本日は前回に引き続き、公休でございます(笑)
まぁ、いいんですけど。
はい。
そんな具合で読書感想文として記録している分のストックは尽きており、そこからは読んだ本について語ると言う自転車操業なのですが、それすらも危ういと今、気が付きました・・・読んでいるつもりなんですけどねぇ。
まぁ、でも今年残り分の記事くらいは埋められそうなので、良かったです。
そんな具合で本日は、もっとも最近、読み終えたこちらの本の感想をお送りしたいと思います。
それが中山七里さんの『護られなかった者たちへ』です。
毎回のことですが、直接的なネタバレは避けております。が、読む人が読めば『あー、それってこう言うことなんじゃないの?』と気が付かれる恐れがある、そんな記述がある可能性は否めません。
なのでそのあたりはご了承の上、よろしければお付き合い下さい。
はい。てなことでこちらの作品は映画化にもされ、10月に公開されていますね。
公式サイトです。出演は、この画像を見て頂いてもお分かりいただけると思いますが、佐藤健さん、阿部寛さん、更に清原果耶さん、林遣都さん、永山瑛太さん、緒方直人さんなどなどが出演されています。
簡単なあらすじをご紹介いたしますと。
仙台市のアパートで発見された遺体。死因は餓死。身体の自由を奪われた、更に口をガムテープで塞がれたうえで殺害されていたのは、三雲忠勝と言う男性。刑事の苫篠と部下の蓮田は、三雲の身辺を捜査しますが、福祉保健課で働いていた三雲については、部下である円山をはじめ皆が皆、良い評判ばかりを口にします。早々と捜査の行き詰まりを感じ始めた矢先、再び、同じ手口での殺人が発生してしまいます。
殺害されたのは宮城県議会議員の城之内猛留と言う男性で、こちらもやはり公私にわたり悪評が一切ないと言う人物でした。
単なる恨みなどではない、2人の間に何かしらのつながりがあるのではないか。そう推測した苫篠は、2人がかつて、同じ福祉事務所で働いていたこと、そしてその当時、生活保護の申請を巡るトラブルに2人が巻き込まれていたことを突き止めます。更にそのトラブルの中心に、利根勝久と言う男性がいることを突き止めた苫篠は、この男こそが犯人だと目星をつけます。
そして現在の利根の行方を調査したところ、三雲が連絡を絶った日の1週間前に、刑務所を仮出所していたばかりだと言うことがわかります。
次に利根が狙うのは、かつて三雲と城之内の上司であった上崎岳大である、そう推測した苫篠は、利根を確保すべき動き出しますが・・・と言うのが大まかなあらすじです。
利根を佐藤さんが、苫篠を阿部さん、そして円山を清原さん。蓮田を林さん、三雲を永山さん、城之内を緒方さんが演じていらっしゃいます。
さて。円山に関しては、どうしてフルネームではないかと言いますと。原作では男性なのですが、映画では女性なのですね。性別が違うと言うことです。小説では円山菅夫、映画では円山幹子となっています。
はい。てなことで、作者の中山さんと言えば『どんでん返しの帝王』と呼ばれている作家さんでございますが・・・私、多分、1作くらいしか読んだことないような気がするので何とも言えないですが・・・本作品も、その『どんでん返し』は炸裂しています。
が。
ぶっちゃけると、見破るのは簡単です。はい。ミステリを読み慣れている方だと、あっさり見破ることができると言うか、見破るも何も『え?最初からそうだと思ってたよ』と拍子抜けされる方もいらっしゃるのではないかな、と思います。はい。
ネタバレはしたくない。しかし黙っていることもできない、40歳のおばちゃんがこっそりとヒントを出すとすると・・・名前です。
トリックと言うか、騙しの手段としてはとてもわかりやすいぞ!
はい。ただし原作小説と映画で同じストーリー、犯人が同じなのかどうかは知らないので、そのあたり、気になる方は是非とも、劇場版でご確認ください。
てなことで、まぁ、ミステリとしては正直、私としてはそれほど、と言う感じだったのですが、社会派小説としては、とても読みごたえがありかついろいろと考えさせられる作品でした。
先ほども言葉として出てきましたが、今作品のキーワードは『生活保護』です。
国民が、健康的で文化的な生活を送る、その権利を保障するための制度として存在しているこの制度ですが、個人的にこの話題で耳目にするのは、どうも良くない、ネガティブな話題ばかりのような気がします。
たとえば不正受給であったり、反対に、本当にこの制度を必要としている方に、この制度が利用できない、この制度を利用するための条件の厳しさであったり、です。
生活保護を利用するためには、クリアしなければならない条件があります。それを審査し、判断するのが、三雲が務めていた福祉保険事務所の職員たちです。
国が予算を少しでも削減するために、生活保護の受給者の調整や、その申請受理に対して消極的である、いわば水際作戦と呼ばれる内容が、この作品では実に生々しく描かれています。また不正受給をしている人物も登場し『条件をクリアしなければならない。しかし条件をクリアさえすれば受給できてしまう』と言う生活保護の弱点も、読者に感じさせます。
本当に必要としている人を見極めなければならない。しかし見極めていると本当に必要としている人には届かない恐れがある。けれどそうしなければならない事情もある。
そうした生活保護の最前線にいる職員たちの葛藤が、三雲の部下である円山を通じて、しっかりと描かれている。
その一方で、生活保護の申請が受理されなかった、受給が叶わなかった、それ故に生まれてしまった悲劇、そこから発生した復讐の念と言うものが描かれているのも、本作品の特徴です。
つまり『生活保護』と言う制度の、判断する側と判断される側、両極端な位置にいる人の姿、その両方が描かれていると言うわけですね。
だから社会派小説としての重みは勿論のこと『制度だから。決まりだから』とは決して割り切れない、確かな人間ドラマとしての重みのようなものも感じられる、そんな作品になっていると思います。
で。
難しいよなぁ・・・と言うのが、読み終えた私の率直な感想です。
難しい。確かに、条件は必要だと思います。一時、社会問題にもなりましたが、不正受給なんて、たまったもんじゃありませんよね。うん。条件を付けて、そこをクリアできているかどうか、シビアに見ていく、判断していく必要と言うのは絶対的に正しいこととであり、また必要なことだと思います。
ただ一方で・・・この事件の裏側にあった、とある申請者の、あまりにも悲痛な最期。受理されることが叶わなかった申請、そうした事例が現実にもあるのかもしれない、とと思うと、これはこれでどうなのかなぁ、と言う気が。胸を締め付けられるような思いすらします。
なぁー・・・数十年も、連絡の一つすらとっていない親族がいる、その人に養ってもらえば、経済的に力になってもらえばいいと言われても・・・えー・・・。
売却できる資産があるじゃろ、ほら自家用車、と言われても・・・自家用車がなければ、それこそ、仕事を探すことすらできないんですが。
とかいろいろ思ったりして、まぁ、ほんと、なんかなぁ。
ひとりひとりの実情を見て、とも思ったのですが、そんな余裕がないのが現実なのだろうし、そうするとそうするで、やっぱり職員さんによって判断が分かれてくるだろうからこその条件なんだろうけどなぁ・・・ねー。
でも一方で先ほども書いたとおり、生活保護の申請や受給している人の調査をしている職員さんの葛藤なんかも、めちゃくちゃ読んでいてしんどかったです。結局、不正受給なんてする輩がいるから、本当に必要な人に対してすら条件が厳しくなってしまっているんだろうなぁ・・・なんかこう言うのは、別に不正受給に限った話じゃありませんよね。ねー。はい。
難しいなぁ、ほんと。制度だからシビアに割り切る必要はある。だけど時に人の生き死ににかかわる制度だからこそ、そこには人の情のようなものもあって欲しい、と私は願ってしまうのですが。はい。
答えが出ない問いだからこそ、読み終わった後も、今もなお、その余韻にいろいろと考えさせられる、そんな作品でございます。
ちなみに被害者である登場人物を、先ほども書きましたが永山さんや緒方さん、更に新たな犠牲者になってしまうかもしれない人物を吉岡秀隆さんが演じていらっしゃるわけですが・・・このキャスティングは、めちゃくちゃうまいわ・・・。
悪評ひとつない、まさに聖人、善人と呼ぶにふさわしい、この被害者たち。
しかしその過去が明らかになるにつれ、読者は彼らに、いろんな思いを抱くことになるはずです。
彼らは確かに、聖人であり善人であったのかもしれない。
彼らがしたことは、正しいことであり、なにひとつ悪いこととでも、誤ったことでもないのは確かで、しかし聖人であり、善人である彼らの、その人間性のようなものが垣間見える、過去の物語に何を思うか。
これはたくさんの人と語り合ってみたいなぁ、とも思ったり。
はい。
そんなこんなで本日は『護られなかった者たちへ』の感想をお送りいたしました。
決して楽しさや爽快さがある、明るい話ではありません。しかしだからこそ、それぞれの登場人物の思いを通して、いろいろと考えたくなる、そんな作品だと思います。映画化と言うことで気になっていたわ、と言う方は、是非とも、読まれてみて下さい。
ではでは。本日の記事はここまでです。
読んで下さりありがとうございました!