tsuzuketainekosanの日記

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現実には絶対、会いたくないけど~伊坂幸太郎先生の描く『殺し屋』

アニメや漫画、小説と言った創作物には、それはそれは魅力的な人物がたくさん登場します。『悪』の魅力に満ち満ちている人物と言うのもそうした人物に該当すると言え、たとえば最近だと『バビロン』の曲世愛なんかは、その最たる形と言うことができるかと思います。

 

ただしそうした人物に関しては、当然ながら、絶対、現実では会いたくないです(笑)。そして現実では会いたくないけれど、でも、どうしようもなく『悪』で、それ故に魅力的でたまらない、と言う人物たちが、わんさかと登場する小説があります。

 

それが伊坂幸太郎さんの小説、殺し屋シリーズです。

 

いや、あのー、伊坂先生の小説に関しては、そこに登場する人物はもう、どうしようもなく不思議で、でもとても生々しさがあって、みんなみんな魅力的なんですけれどね。

 

なんでこんな記事を書くことになったのかと言うと、その殺し屋シリーズの最新作『AX』の文庫版をつい最近、読了したからです。そして改めて、このシリーズに登場した殺し屋たちに魅了されてしまったからなのです。

 

殺し屋シリーズと言うのは正式な名称ではないのですが、一応、そのシリーズに該当する作品として、現状、刊行されているのは『グラスホッパー』『マリアビートル』そして『AX』の3作品でございます。

 

殺し屋シリーズなので、当然、3作品に共通するのは登場人物が殺し屋であることです。そしてその殺し屋たちが、様々な思惑、目的のために殺し合うと言うのが主な内容なのですが。これが伊坂先生の手にかかると、『殺し合い』と言う殺伐とした雰囲気はどこへやら。緊迫感、あるいは悲壮感もありつつ、だけどどこかユーモラスで、ファンタジックで、それでいてリアルさもあり、とにもかくにも何とも言えない不思議な物語になってしまうのですから、本当に素晴らしいのです。

 

そして何より、本当に面白いのよ!

 

と言うことで、殺し屋シリーズに登場する殺し屋の中でも、私が特に好きな殺し屋を(物騒な言葉だ(笑))何名か、ご紹介したいと思います。

 

おっと、その前に。伊坂先生の作品を何作か読まれた方ならご存知かと思いますが、伊坂先生の作品には、違う作品の出来事や登場人物が登場したり、あるいは話題にのぼったりすることが多々あります。なのでこれから出てくる登場人物も、ちょこちょこ、シリーズ中に顔を出していたりすることもあるのですが、ここでは、その殺し屋が最初に登場する、と言うか主要人物として描かれている作品名を挙げておくことにします。

 

と言うことで、まずは蝉です。蝉はシリーズ1作目の『グラスホッパー』に登場する殺し屋で、ナイフを巧みに使う殺し屋ですが、その身体能力は非常に優れており、格闘術にも長けています。岩西と言う仲介業者と2人で仕事を請け負っており、あくまで実行役であるため、依頼内容について知ることはほとんどありません。

 

蝉はなぁ~・・・ほーんと、切ないんだよなぁ・・・。なんかこー、本と、物語中の蝉の言動や思いなんかを読んでいくと、本当に『あぁ・・・あぁ・・・』と胸がキュッとなると言うか、切なくなると言うか、何かどうにかならなかったものなのか、と思わざるを得なくなると言うか。うん。

 

粗暴で、殺しの腕も、技術も一流で。でも、心はちゃんと動いていて、物事を考えることもできる青年だからこその切なさが、そこにはあると言うか。はい。

 

あと岩西との関係が、個人的には本当に好きで。ここもまた、単なるビジネスパートナーという言葉では片付けられない何かが、きっとそこにはあるんだろうな、と私は思うんですがね。はい。ただ蝉も、そして岩西も、そして私も、その『何か』が『何なのか』をあらわす、その適切な言葉を知らないだろうな、と。はい。

 

ちなみに『グラスホッパー』には他にも鯨や槿(と書いて、殺し屋シリーズでは『あさがお』と読みます) 、スズメバチと言った殺し屋も登場します。

 

なお『グラスホッパー』は井田ヒロトさんによって漫画化されており、これがまた、よくできてるんですわ。井田さんの絵と『グラスホッパー』のどこか乾いた空気と言うのが、本当にマッチしていて。

 

また劇場版も制作されており、蝉は山田涼介さんが演じていらっしゃいます。ぶっちゃけ、山田さんの演技ってまともに見たことがないのですが(そもそも、ドラマ自体ほとんど見ないので)、『グラスホッパー』の蝉に関しては、ちょっとイメージは違うものの、彼の身体能力の高さが存分に生かされたアクションシーンが、劇場で見惚れるほどの素晴らしさでした。また岩西は村上淳さんが演じていらっしゃいます。

 

で、『グラスホッパー』に続いて刊行されたのがシリーズ2作目『マリアビートル』です。『マリアビートル』では、東京発盛岡着の東北新幹線を舞台に、ある男の復讐劇と殺し屋たちの思惑が入り混じると言う物語が繰り広げられます。

 

もと、殺し屋で今はさえない警備員。けれど一人息子を突き落された、その復讐に燃える木村。そして木村の息子をデパートの屋上から突き落とし重体にさせた、見た目はとても優等生、しかしその実は同級生を脅しいじめの指示を出したり、大人を欺くことを快感に思うような非常に狡猾で残酷な少年、王子。そしてやることなすこと裏目に出る、ツキに見放された殺し屋の天道虫・・・そしてそして。

 

そして、私がこの『グラスホッパー』で大好きなのが、果物コンビの蜜柑と檸檬です。

 

常に二人で行動する殺し屋で、共に長身で容姿も非常に似通っているため双子に間違えられることもしばしばというのが、この蜜柑と檸檬なのですが、血縁関係は一切なく、またその性格も正反対です。

 

蜜柑は文学好き、几帳面で生真面目。一方の檸檬は、いい加減な性格ですが、どこか憎めない面も持っており、某機関車アニメが大好きで、そのキャラクターが書かれたシールやカードを携帯しているくらいです。更に事あるごとにそのアニメやキャラクターにまつわるうんちくを語ります。蜜柑はA型、檸檬はB型と言う設定を見れば、ふたりの性格の正反対さもお分かりいただけるかと(笑)。

 

とにかくこのふたり、ほーんとに良いコンビネーションで。作中では、序盤で結構な窮地に立たされると言うか、ピンチに追い込まれると言うか。しかしその緊迫感、焦燥感もどこへやら、いや、それらを感じさせることは確かに感じさせるんですが、それでも、いや(二度目(笑))、彼らの普段を知っているはずはないのに『あぁ、いつも通りの、相変わらずのふたりだ・・・』と思わせるようなやり取りが、もう本当にユーモラスで、また愛おしくもあり。

 

だからこそ、の、ね。

ネタバレになるから言えないんですけど。

ね。本と。察して(どーん)

 

なんか、いつまでもこのふたりの物語、ふたりの日常を読んでみたいなぁ、とか思ったりするのですが・・・あぁ、また『グラスホッパー』、読みたくなってきたなぁ。

 

そしてそして。先ごろ、読了したのが殺し屋シリーズ最新作の『AX』です。ただ、形はどうであれ・・・と言う言い方も少し変ですが、とにかくメインは殺し屋たちの殺し合いであった、先行シリーズ2作品と比較すると、『AX』はちょっと毛色が違うと言うかか。勿論、殺し屋たちの緊迫した物語と言うのも繰り広げられるんですが、それよりもより多くのページを割いて描かれているのは、家族の物語なのです。

 

と言うことで、最後に紹介する殺し屋さんは、『AX』の主人公である兜です。兜と言うのはあくまで殺し屋としての名前であり、本名は勿論、別の名前です。普段は文具メーカーの営業マンとして働いており、兜の妻と、その子供である克己は、兜が、つまり自分の夫が、父親が殺し屋であることを知りません。

 

兜は特定の武器を使わず、その驚異的な力強さで相手の命を仕留める殺し屋です。しかしそんな兜にも恐れる存在があり、それが妻です。そんな妻の機嫌を損ねないように奮闘する兜には、克己が生まれた頃からの思いがありました。それが殺し屋を辞めたいと言う思いであり、願いです。しかし、兜に仕事を仲介する医師は、そのためには多額の金が必要だと言い・・・と言うのが『AX』の簡単なあらすじです。

 

最強と言っても過言ではない、殺し屋として圧倒的な実力を持つ兜。しかしその兜が妻におそれ、その体を縮めるようにして、妻の機嫌を伺う様は哀れさを通り越してユーモアすら感じさせるほどです。

 

そしてその様子を、息子である克己は『何故、そこまで恐れるのか』と言う、不思議な思いをもってして見つめているのですが・・・。

 

ねぇ~・・・もうね、ほんと。作品を読了した今だと、その兜さんの恐妻家ぶりが、本当に愛おしくて、愛おしくて。作中では、非常に簡潔に、短い文章でしか語られないんですけど、本当にろくでもない人生を歩んできた、歩まざるを得なかったであろう兜にとっては、妻の存在、克己の存在と言うのは、本当に、本当に『愛』そのものだったんだろうなぁ、と私なんかは思うのです。

 

あと兜は、人との距離感の取り方もとても下手くそで、その辺りについてもとても思慮を巡らせます。でもそれもやはり、兜が歩んできた人生故のものであり、その辺りの姿と言うのも本当にいじらしくて、切ないのです。けれど他人との距離感の取り方、他人との付き合い方に悩んでいない人なんていないわけで、だからこそ兜のこの不器用さには、私はとても共感してしまうのです。

 

果たして兜は殺し屋を辞めたいという願いを叶えることができるのか。その願いの結末、更には兜と妻と克己、その家族の物語の結末は・・・ぜひとも、発売されている文庫版を手にとり読んでみて下さいね。

 

私は、厳しい物語だなぁと思いました。ネタバレになるから詳しくは言えないけど。でも、それによりアレがアレで、あぁぁぁぁ、これ以上は言えない。言えないけど、本と、切ないけれど胸があたたかくなる、泣きたくなるような、でもちゃんと笑顔を浮かべていたくなるような読了後の感情でございました。

 

はい。そんな具合で伊坂先生の殺し屋シリーズについて、本日は語ってまいりました。

 

殺し屋と言う『悪』ながら、だけど同時『真の悪とは何か』と言うテーマを突きつけてくるのも、そして殺し屋でありながら、どうにもこうにも魅力的であるのが、伊坂先生の作品に登場する殺し屋の特徴だと思います!

 

グラスホッパー』『マリアビートル』そして『AX』の中にはきっと、あなたの心にびびっ、とくる殺し屋さんがいるはずですから、ぜひ読んでみて下さいね。

 

あ、ちなみに。殺し屋シリーズと言っても、それぞれ独立した物語として完結しているので、勿論、どの作品から読んでも特別、問題はありませんよ!

 

ただがっつり、先行作品のネタバレは含まれています。なので、ネタバレは踏みたくない!と言う方は、やはりシリーズ1作品目『グラスホッパー』から手に取って下さい。

 

ではでは。今回の記事はこれにて終了です。

読んで下さりありがとうございました~。